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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第93話 「テマネスク・フラウワ」

 テマネスク・フラウワは王宮内を歩いていた。白いスーツと白いブーツを身に纏い、虹色の長髪を揺らす彼。『執念の手』の一員であるテマネスクは、王家の人間を殺すためにここにいた。

「やはりチェルダードの王宮は美しい。小生、盛大に感動」

 テマネスクは王宮の装飾や形状に目を輝かせていた。

「誰だお前は。見慣れない顔だが」

 王国騎士団の一人がテマネスクに声をかけた。テマネスクは袖の中から短い刃物を出し、騎士の首元に投げた。

「うがあっ!」

 鎧の隙間を通り、騎士の首を貫いた刃物。それは金属のみで作られた、手のひらサイズのナイフだった。外科手術などにも用いられる刃物である。とても鋭く、人体など簡単に貫通してしまう。

「美しくない鎧ですね。小生の前から消えて下さい」

 騎士は血を大量に流しながら、床に倒れた。

「さて、奥に進みますか」

 テマネスクは美しいものが好きだった。だから人を殺す時も、より美しい死を求めていた。

 劇的な死を。美しい演出を。悲しい別れを。綺麗な遺体を。

 より感動的に彩られた死を作り出していた。それ故に彼は『劇的劇』という異名で呼ばれている。


 テマネスクが進んだ先には、チェルダード王家第一王女のローゼ・チェルダードがいた。可憐な金髪と端整な顔立ちの調和が整った彼女は、国民からの人気が高く、大きな地位と権力を持っていた。ティアナ姫にとって、腹違いの姉にあたる人物である。

 ローゼが庭園で花を愛でている時、刃物を持った白いスーツの男が近付いてきた。彼女は命の危険を察知し、大声で助けを呼んだ。

「くせ者です! 誰か、誰か助けて!」

 すぐさま王国騎士団がゾロゾロと現れ、ローゼ王女を守る陣形になった。

「大丈夫ですか、ローゼ姫!」

 陣形の前方に立つのは、王国騎士団の若きリーダー。実力と信頼のある男だ。彼は、密かにローゼに恋心抱いていた。美しい姫を守るため、彼はテマネスクに立ち向かった。

「今お助けします! うおおおおおおおおお!」

 大きな剣でテマネスクを斬ろうとする。だが剣が届く前に、テマネスクのナイフが騎士リーダーの脳天を貫いていた。重い死体が地面に倒れ、花を赤く汚した。

「きゃああああああああああああ!」

 ローゼ姫の悲鳴が響く。他の騎士団もテマネスクに斬りかかるが、全員瞬殺されてしまった。

「弱いですね。王国騎士団が見た目だけの兵隊なのは噂通りでしたか。小生、深く落胆」

 俯せる鎧達を見下ろし、テマネスクは呟いた。彼の白スーツには、全く返り血が付いていない。

「ですが……。王女を命懸けで守るその姿は、とても美しかったですよ。劇的な死が見れて、小生、大いに満足」

 ローゼは体を震わせながら、テマネスクを見上げていた。

「美しい王女様。小生が貴女を彩って差し上げましょう」

 数分後、テマネスクは庭園を後にした。庭園の中央には、花のベッドの上で眠るローゼの姿が。白い肌と赤い血が、見る者の目を釘付けにする。美しい彼女は、もう目覚めない。


 王宮に騎士団の死体を量産していくテマネスク。

 たまたま通りかかった宝物庫でも、二人程騎士団を殺した。近くに財宝があったが、色や形がテマネスクの好みでない。いくら高価なお宝でも、テマネスクにとってはゴミと等価だった。よって放置した。

 宝物庫から出て王宮を歩いていると、怪しい三人組を見つけた。灰色のスーツを着た男と、黒タイツを纏った男達。彼らは、なんと先程テマネスクがいた宝物庫に向かうではないか。その様子を観察してみると、灰色スーツの男だけが室外へ出た。何だか不思議な雰囲気の男だった。悪意を絵に描いたような……。危険な存在なのは間違いない。それもそのはず。彼はオーディン・グライトなのだから。

 テマネスクはオーディンに気付かれないように、宝物庫へ再び侵入した。そこで黒タイツの二人組を殺害し、ナイフでタイツに傷を付けた。ただの傷ではない。幾何学的で魅力的な模様を刻んだのだ。そしてすぐさま退却。あっという間の殺人だった。手際良く、確実な犯行だった。一切自身血で汚さずに、テマネスクは宝物庫から離れた。あの灰色スーツの男は殺せそうにないが、雑魚二人は殺した。テマネスクは次の標的を探し、王宮内を駆けた。

 王宮は静かだった。テマネスクが殺しまくったため、静寂に包まれていた。次第に人口密度が小さくなっていく王宮。

 テマネスクは、王の謁見の間にたどり着いた。無駄に広い空間に、柱やらシャンデリアやら絵画やらレッドカーペットやらが置かれている。それなりに美しい部屋だった。神々しい椅子の主は、ここにはいない。今頃スーニャの爆弾で、頭が吹き飛んでいる頃だろう。王無き部屋で、テマネスクは死体を並べていた。王家の人間は、一人を除いて全員殺した。ティアナ姫は王宮ではなくハルバート屋敷にいたため、テマネスクの魔の手から逃れられた。皇后や王子や王女の遺体を椅子の周りに並べ、レッドカーペットの上には騎士団の遺体を並べた。『王家の人間と、それを守る騎士』。そのテーマを、遺体を使って表現したのだ。

「なかなか良い出来映え。小生、多大に感激」

 テマネスクが満足げに自作の死体アートを眺めていると、謁見の間に一人の小さな女が飛び込んで来た。

「ってここ宝物庫じゃねーのかよ! ……あぁん?」

 女はテマネスクが敷いた死体達を見て、怪訝な顔をした。

「ま、待ってくれサジェッタ! 置いて行かないでくれ!」

 女の背後から、巨漢が走ってついて来た。

「ガンダス。テメェ、この光景はどういう冗談だ? 説明してくれよ」

「全くサジェッタは足が速い……ってうおおおっ!? 何だこれは!」

 ガンダスは口を大きく開け、驚きを露にした。

「アタイが聞いてんだよ! ったく使えねーな」

 サジェッタはガンダスの足を蹴り、前へ進んだ。剣を持って仰向けに倒れる騎士の死体に、そっと触る。

「死体……だよな。服装からして、コイツらは王国騎士団か? 奥の死体は王族……」

 そこでサジェッタは、謁見の椅子の近くから見下ろす、テマネスクに気付いた。

「誰だテメェ。ムカつく顔しやがって」

「はじめましてお嬢さん。小生はテマネスク・フラウワ。『執念の手』の『劇的劇』と呼ばれる者です」

 テマネスクはお辞儀をした。

「『執念の手』だぁ? 変な名前だな、オイ」

 サジェッタは大きな瞳でテマネスクを睨んだ。

 ガンダスは死体の列を見て、慌てふためいている。

「そうですか。ところで、小生の芸術を汚さないで欲しいですね」

 テマネスクは死体に触れるサジェッタを見て、言った。

「殺意が芽生えてしまいますから」


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