第73話 「本心は……?」
ディナーも入浴も終えた後、カインズは俺に今後の計画について語った。
「明明後日に次期当主が決まりますが、それまでにボクは自分をアピールしようと思います。ボクのいい印象を全面的に出して、少しでも多くの支持者を増やしましょう。言わば、自分の宣伝ですね」
カインズは本格的に当主の座を狙うらしい。
「じゃあ俺はそれを手伝えばいいんだな」
「いえ、ボク一人で十分です。クロム隊長は自由に行動していいですよ」
自由って言われても、俺はカインズがいなかったら屋敷の外を歩けないんだが。迷子になるかもしれないからな。あ、ユリーナに同行してもらえばいいか。
仲間って大事だ。
「ボクは当主になってみせますよ。『宣伝を制す者は人心を制す。人心を制す者は世界を制す』んです」
「いいこと言うな」
「まあ、ボクの旧友の受け売りですけどね」
カインズは照れくさそうに頭を掻いた。
「カインズの友達か。中央都市の人間か?」
「いえ、アーネという街にいる貴族です」
「アーネ……聞いたこと無い街だな」
「お隣のルタ大陸にある街ですよ」
ルタ大陸か。あそこにはアイズの本部もあったな。
「もう夜なので、寝ましょうか。それでは、また明日」
カインズの号令で、俺はカインズと別れた。屋敷の廊下を歩き、自分の寝室に向かう。
寝室のベッドの上で、俺はカインズの言葉を思い浮かべていた。
『ボクは当主になってみせますよ。』
「本気……なのか……?」
ヴィルカートスは言った。『カインズの目に迷いがある』と。
カインズは本当に当主になりたいのだろうか。
アイツの決心が揺れているとしたら……。
俺は一体何が出来る?
家出をした時も、俺へのプロポーズの時も、ずっと自分に素直で真っ直ぐに生きてきたカインズ。自分に強い信念があって、それを決して曲げなかった。
アイツの『ワガママ』は、言い換えれば確固たる意思の表れだ。
でも今回の当主決めはどうだろうか。アイツが自分の意思では無く、ハルバート家の義務として当主を目指しているのなら……。
俺はそんなカインズを見たくない。アイツには、思うがままに生きて欲しい。『ワガママ』を貫き通して欲しい。
『本当はもっとここにいたかったけど、もう帰らないといけません。』
『皆……ありがとう……さようなら……。』
一ヶ月前に見せたあの涙こそが、きっとカインズの本当の気持ちなんだ。
当主になれば、俺達と一緒にいることも出来ない。アイズの活動を続けることも出来ない。街の外に出ることも許されないかもしれない。
「カインズ……お前はどうしたいんだ……?」
* * *




