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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第60話 「いざ、中央都市へ」

 ついに、カインズが中央都市に帰る日が来た。

 ハルバート家の次期当主を決めるため、カインズは故郷へと足を向ける。そして俺達は、カインズの勇姿を見守るために中央都市について行く。

「やっとこの日が来ましたね」

 レイティアがラトニアの空を眺めて言った。

「カインズ兄上と共に帰るこの日を、ずっと待ちわびておりました」

「久しぶりだね、中央都市は。変わってなきゃいいけど」

 カインズにとっては五年ぶりの故郷になる。一体、どんな場所なのか。

「さて、行くか」

 俺の号令に続き、カインズ、レイティア、ユリーナ、ミミ、ファティオが歩を進めた。


「ちょっと待ちな! お前ら、徒歩で行くつもりか?」

 ラトニアの外に出た時、エリックが俺達を止めた。

「半日以上かかっちまうぜ。折角だから、コイツに乗りな」

 そう言ってエリックが触ったのは、赤い車だった。蜜の楽園で見た物よりずっとスマートな形状をしていた。革製の座席は8つ用意されており、俺達全員が乗っても余裕がある。車全体が赤く綺麗に塗装されていて、手入れが行き届いていることが把握できた。

「エリック、これは?」

「俺が作った自家用車だ。険しい道だって走行できるし、スピードも申し分無しの優れ物だぜ? さあ、乗りな」

 エリックは自慢気な笑顔で車を指差した。エリックの車に乗せてくれるとは、何ともありがたい提案だ。

「お言葉に甘えよう」

 俺達はエリックの車に乗り、安全対策の『シートベルト』とかいう帯を装着した。これを着けていると、急に停車しても前に吹っ飛ばされずに済むという。

「皆乗車したか? じゃあ、出発!」

 運転席のエリックが、ハンドルを握った。ブルルンと轟音が鳴り、車が軽く揺れ始める。そして車は段々と加速していき、やがて人間を遥かに超えるスピードで走り出した。カインズの全速力と同じくらいの速さか。


「これが車ですか……。こんなに早いと不安になりますね」

 ミミが窓の外を覗き、淡々と呟いた。外の景色は目まぐるしく後ろに移動していた。もちろん、外の景色が本当に移動している訳では無く、車が前に進んでいるからそう見えるだけだ。

 ラトニアの周りにある草原が、まるで俺達から逃げているようだ。

「事故は起こさねぇから安心しろよ。多分大丈夫だ」

 多分じゃ困るぞ、エリック。もし今のスピードで外に放り出されでもしたら、無事では済まないだろうからな。くれぐれも安全運転で頼む。

 正直、俺も不安を拭えないでいた。万が一のアクシデントを、警戒せずにはいられない。

「運転がキツくなったら言ってよ、エリック。ボクだって運転できるから」

 そう言えば、カインズも車の運転が出来たな。いつ習得したんだろう。

「中央都市にいた頃に、車の運転を学んだのか?」

「ええ、そうです。レイティアも運転出来ますよ。結構、上手いんです」

 兄に誉められたレイティアは、誇らしげに頬を染めていた。

 中央都市には車が多いと聞く。運転は一般教養なのかもしれない。

 ラトニアの街が遠ざかるのを目にしながら、車内では雑談に花を咲かせていた。


 エリックの近くに、小型の機械が置いてあった。手のひらサイズの四角い画面に、ラトニア付近の地図が表示されている。地図の上では、赤い矢印が動いていた。

「エリック、その四角いやつは何だ」

 俺が聞くと、エリックは「よく聞いてくれました」と言わんばかりに、生き生きと解説した。

「これか? これは『カーナビゲーションシステム』って言ってな。俺達の現在位置と、付近の地図を表示してくれるマシンだ。目的地への行き方や、所要時間まで教えてくれるんだぜ」

「そんなものがあるのか」

 便利な機械だ。科学は俺達の知らない間に進歩しているんだな。

「本来は『人工衛星』というもんが必要なんだがな。俺のはちょっと違うやり方だ」

「よく分からんが、凄いな」

 知識が無い俺は、拙い感想しか言えなかった。

 画面上には、『目的地まであと10分』と表示されていた。


「あ! 見えてきた!」

 しばらくドライブが続いた時。

 カインズが外の景色を指差した。

「あれが中央都市です」

 レイティアとエリック以外のメンバーが、窓から外を見た。そこには、灰色で巨大な壁があるのみだった。てっぺんが見えない程に大きくて威圧的なその壁に、一瞬、車内から言葉が奪われた。

「な、何ですかあれ……」

 ユリーナが目を見開いて尋ねた。俺だって同じ感想だ。俺達は街に向かっていたはずだが、目の前にあるのは壁だけだ。

「中央都市は、街全体を巨大な壁で覆われてるんです。上空は特殊なガラスで塞がっていて、外部と完全に断絶しています。中央都市は、巨大な六角柱の形をしているんですよ」

 目の前の壁は、その側面の一部ということか。

「そんな壁なんか作って、中央都市は何と戦っているんですか?」

 ファティオが呆れたように聞いた。

「さあ……。他国家、じゃないですかね」

 カインズはハッキリとは答えなかった。知らないのだろう。王国の考えることなんて国民には分からない。

「壁には監視カメラが多数設置してあるので、今頃ボク達の様子も監視されていると思いますよ」

 目を凝らして壁を見ると、確かに小さなカメラのような物が見えた。

「都市の富裕層達は狭い土地に引きこもっているんですよ。あんなふざけた壁なんか建てて。虫酸が走ります」

 カインズからの壁の評価は良くないようだ。外に出たがっていたカインズにとって、都市の壁は束縛と不自由の象徴なのかもしれない。


 灰色の壁の前まで着き、俺達は車を降りた。

 カインズが先頭を歩き、俺達はそれについて歩く。

「さて、五年ぶりの『ただいま』を言いに行きますか」

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