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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第61話 「異世界」

 中央都市の入り口には、無人の受付があった。顔くらいの大きさの画面に、何やら文字が羅列している。側には三台の監視カメラがあって、客人の様子を観察していた。

「初めて中央都市に入る人は、ここでパスポートを発行するんです」

 カインズとレイティアは、ポケットから一枚のカードを取り出した。

「これがパスポートです。ボクはもう持ってるので必要ありませんが、他の皆は必要不可欠です。中央都市内では、これが自分の身分証明になりますから」

「パスポートが無いとどうなるんだ?」

 俺が聞くと、カインズはすぐさま答えた。

「もしパスポートを所持してない人が発見されたら、間違いなく逮捕されます。スパイ容疑で処刑されても不思議じゃないので、肌身離さず持ち歩いて下さい」

 パスポートが無いだけで死刑か。恐ろしい話だ。中央都市のセキュリティは厳しいと聞いていたが、予想以上だな。

 カインズとレイティア以外のメンバーは、画面の指示に従ってパスポート発行した。名前や性別を聞かれたり、顔写真を撮られたりした後、機械からパスポートが出てきた。

 手のひらサイズのカードに、俺の個人情報がびっしりと書かれている。

 これが中央都市での身分証明か。

「これって、嘘の情報を言ったらどうなるんだ?」

 身分証明を偽造する輩がいてもおかしくない。

「どうもなりませんよ。嘘を言いたかったら言えばいいんです。チェルダード王国を敵に回す覚悟があるならば」

 カインズはイタズラっぽく笑った。

 なるほど。俺は正直に言って正解だったようだな。


 全員分のパスポートを発行した後、俺達は灰色の壁の門をくぐった。大袈裟な機械音が鳴り、ゆっくりと門が上昇して、俺達を迎え入れる。

「迷子になるといけないので、皆ボクの側を離れないで下さいね」

 そう言うカインズについて行き、俺達はついに中央都市の土地へ足を踏み入れた。


「これは……」

 一言で表すなら、そこは異世界だった。

 今まで見てきた世界の常識をまるごと覆されたような、異なりすぎた世界。

 『都会』という言葉が田舎臭く思える程、そこは大都会だった。

 四方八方から聞こえる人の声。大音量の電子音。光溢れる街並み。無機質だが活性的な建物達。宙を舞う物体。程よく涼しい風。心地よい香り。

 そして溢れんばかりの人、人、人、人、人。

 この荒廃して衰退した世界には似つかわしくない、異常な賑わいがあった。こんなに多くの人間、見たことが無い。

 高い建物の上には、巨大な画面があった。エリックの『カーナビゲーションシステム』の画面を果てしなく大きくしたような大きさだ。画面に映る人間は、ひたすら食料品の宣伝をしていた。

 その他の建物にも、同じようなものが沢山ある。そのせいで大量の騒音に囲まれているのだが、不思議と不快感は無い。電子音が調和して、まるで演奏しているように錯覚してしまう。秩序のある雑音だった。


「これが……中央都市……」

 かつてルクトシンを訪れた時、カインズは「田舎ですね」と呟いたが、当然だ。これ程までに発展した街が、ルクトシンと肩を並べるはずがない。

 ルクトシンの『死んだ』雰囲気とは違い、中央都市の雰囲気は、生き生きとしていた。この世の絶望から解き放たれた、楽園のような感覚があった。

 そうだ、ここは快適すぎる。外の世界にある緊張感が、ここには無い。あまりにも『優しすぎる世界』だ。

 カインズが家出を望んだ理由が分かるような気がした。こんなところにいたら自分が変わってしまう。甘えた人間に育ってしまう。


 中央都市の景色に圧倒され、俺達は硬直していた。人見知りの激しいミミが、俺の袖にしがみついてきた。俺に体を寄せて、離れようとしない。ミミの顔には、不安が張り付いていた。これだけ人が多いのだから、怖くなっても当然だろう。

 ユリーナも便乗するように俺に抱き付いてきた。お前は別に人混みは怖くないだろ。離れろ。

 エリックは中央都市を闊歩する小型ロボットを見て、目を輝かせていた。エリックでも見たことない機械が、ここにはあるのだろう。

 一方俺は、何も出来ないでいた。俺の強すぎる警戒心が、必死にアラームを鳴らしている。右も左も分からない未知の土地で、俺のすべき行動を見失っていた。

 子供の頃、若者が異世界に行って英雄になるお伽噺を読んだことがある。その主人公は見知らぬ世界にすぐさま馴染んでいたが、あんなのは異常だ。常識も知識も経験も通用しない世界に急に来たら、何も出来ないに決まっている。ただただ、混乱するだけだ。

 俺にとって中央都市は、絵本の中の異世界だった。

 これが、チェルダード王国の首都であり、王国政治の中心か。


「凄い所ですねー。楽しそうです。クロムさん、お散歩デートしましょうよ!」

 ユリーナが俺の顔に近付いて、元気に言った。

 ユリーナは適応が早いな。

「ダメだよユリーナ。迷子になっちゃうから、また今度にして」

 カインズがユリーナをたしなめて、俺の手を掴んだ。

「さあ、行きましょうか。クロム隊長」

 笑顔のカインズに引っ張られて、俺は中央都市の道を進んだ。


 多くの人が歩く道の中で、俺達はカインズの実家に向かって歩いていた。

 道中、カインズの解説が入る。

「上空の特殊強化ガラスは、晴天の青空の映像を映しています。例え天気が悪くても、住人達は心地よい空を拝める訳です。そう言えば、明日には台風が近付いて来ますね。壁とガラスで囲われているので、暴風雨の影響を受けることはないんですが」

 常に晴れた街か。雨を知らない人間が、この街には住んでそうだな。

「ガラスも外壁も分厚いので、ボクが蹴っても壊せませんね。聞いた所によると、ミサイルが撃ち込まれてもびくともしないとか」

 本当に外国と戦うために壁を建てたのだろうか。

「中央都市に住む人は、大きく分けて三種類。一つは、王族関係者。そして、貴族。後は、お金持ちですね。中央都市には王宮があるので、王族や貴族はここに住みます。土地が高くて生活条件がいいので、お金持ちが高級マンションに住んでたりもします。大企業の本社や研究所も建っていますが、ただの会社員や研究員がここに住むことはまずありません」

 ルクトシン第一バイオ研究所の人達が、この前中央都市で学会を開いた。マジマジ所長や、ブラッドドラゴンのキューもこの街に来たはずだ。彼らは元気にしているだろうか。

「中央都市の人口は約9万人。チェルダード王国の総人口の、九割以上を占めます」

「9万人ですか! となると、世界人口の20パーセントくらいですね。驚きました」

 ファティオが心底驚いた表情で、メモを取っている。小説のネタでも書いているのだろうか。

 現在、世界の総人口は約50万人。その5分の1がチェルダード王国民か。チェルダード王国は狭い国だと言うのに、大した人口密度だ。

 この街は人が集まりすぎているな。


 数分歩いた後に、馬鹿でかいお屋敷が見えてきた。ソフィーの屋敷を遥かに凌駕する広さだ。

「見えてきましたよ。あれがボクの実家。ハルバート家の由緒あるお屋敷です」

 レイティアがお屋敷をじっと見つめていた。

 予想以上に荘厳で立派なお屋敷だった。回りの無機質で単純な見た目の建物達と違い、芸術的で華やかなデザインの建物だ。古臭く見えるが、それが一族の歴史を見守ってきた証だろう。

 ついに、カインズの戦いが始まるのだ。


 そして俺達は、ハルバート家の歴史を揺るがす大事件を目の当たりにすることとなる。

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