第59話 「怒りの弾丸」
たどり着いた先はカウンセリング室……というには些か陰気すぎる場所だった。
窓にはカーテンが閉められ、外からの光は遮断されている。暗く狭い部屋には、汚い欲望の匂いが充満している。部屋の隅っこのゴミ箱には、大量のティッシュが投棄されていた。
その小部屋にいたのは、服をはだけさせて涙を浮かべるコフィンちゃん。そして、私立ラトニア養育園の園長だった。
コフィンちゃんの顔には恐怖が現れており、体はガクガクと震えていた。はだけた服装から、コフィンちゃんの綺麗な肌が露出している。床にペタンと座り込むコフィンちゃんは、とても弱々しく思えた。
「これは……どういうことですか……?」
ファティオが園長先生を睨んで問い質した。その声には微塵の容赦も無く、その目には些細な温かみも無かった。
俺も、カインズも、レイティアも、ユリーナも、園長先生に視線をぶつけていた。
「コフィンおねえちゃん、だいじょうぶ?」
俺の背中から降りたグレイブ君が、コフィンちゃんの元に駆け寄った。
「や、やだなあ皆さん……。何か勘違いしてらっしゃいますよ……」
園長は手を横に振りながら、震えた声で弁明した。
「わたしはコフィンちゃんの悩みを聞いただけで、決して疚しいことは……」
「えんちょーせんせーが……あーしのからだをベタベタって……」
園長の言葉を遮るように、コフィンちゃんがか細い声で訴えた。幼い発音で、泣きじゃくった声だったが、そのSOSは確かに俺達に届いた。
「な、何を言う! 嘘を吐くんじゃない!」
園長がコフィンちゃんの腕を掴み、乱暴に持ち上げた。
その刹那。
空気を震わせるような轟音が鳴り響き、部屋は静寂に包まれた。
部屋の壁に小さな穴が空き、そこから硝煙が舞う。
「すみませんね……。僕の娘は正直者なので」
ファティオが拳銃を園長に向けて、発砲していた。
怒りの弾丸は園長の耳をかすり、小規模の出血をもたらした。
「ヒッ……ヒイイイイイ」
園長が言葉にならない声を漏らし、体を硬直させた。顔は引きつり、目は見開き、皮膚から汗が湧き出始めた。
「14人もの子供を手にかけて、あろうことかコフィンにも手を出そうとしましたか……」
ファティオは銃口を徐々に園長の頭に近付けた。冷酷な顔を崩すことなく。
「ゆ、許してくれ! ほんの出来心だったんだ! だから命だけは!」
園長は床にへたり込み、ジリジリと後退していった。
ファティオは無言で引き金を引いた。五発。園長の体すれすれを通った弾丸は、カウンセリング室の床を残酷に撃ち抜いた。
ファティオの腕前なら、この距離で外すはずがない。わざとだ。わざと被弾させずに、園長の恐怖を誘ったのだ。
「あ……ああああ……」
園長はぷるぷると体を震わせ、涙と恐怖で顔を歪めていた。
「最後までいかなくて良かったですね。命だけは見逃してあげますよ」
ファティオは拳銃をしまい、しゃがんだ。そしてコフィンちゃんの方を向き、笑顔で言った。
「怖い思いさせちゃったね。さ、帰ろうか」
園長を警察に突き出すという形で、今回の事件は早急な解決を見せた。
被害にあった少女達の心の傷を癒すには、長い時間がかかるだろう。だがそれは、自分の力で清算するものだ。周りの大人に頼ってもいい。友達に相談してもいい。でも、最後の最後で自分を救うのは、結局自分だけなのだから。
カウンセリングは同性の先生が執り行うことになったらしい。また、カウンセリング室の可視化も推し進められているそうだ。もう二度と、こんな悲劇を生まないように。
「信頼できる大人を信じられないなんて、あんまりじゃないですか」
現在のラトニア養育園を見て、ファティオがぽつりと呟いた。
「僕達は信じられる大人になれているでしょうか」
「信頼を求める人がいるから、アイズは存在するんだ」
世の中には、まだ助けを求める人は大勢いる。その一部でもいいから、俺達は力になってあげたい。
「帰るぞ、皆」
胸糞の悪さを残して、俺達はアジトへと足を進めた。




