第四閑話 「ファティオ・ハージは何気無い日常を家族と過ごす」
やって参りました。閑話のお時間です。
今回の主役はファティオ・ハージ。スナイパー作家という謎のポジションにいる我らが副隊長は、この閑話でどんな一面を見せてくれるのでしょうか。
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クロム達がソフィーの屋敷に出向いていた頃。
ファティオ・ハージは家族と共にピクニックに行っていた。
ラトニアの街の端に存在する森林広場には、豊かな森と広い草原が広がっている。自然の香りが溢れ、涼やかな風の音が聞こえるレジャースポットだ。かつては、キャンプ場やコテージや遊具やレストランなどがあったが、『はじまりの日』以降管理者がいなくなり、廃れてしまった。
滅多に人が来なくなったこの森林広場だが、それ故にとても静かだ。ファティオ達は誰にも邪魔されることなく、家族の時間を味わっていた。
「パパ。きのみさんひろったー。あげるー」
ファティオの息子のグレイブ・ハージが、ファティオに拾った木の実を手渡した。
グレイブは何にでも「さん」を付けて話す癖がある。「ごはんさん」、「おにくさん」、「おうちさん」、「はっぱさん」、「たいようさん」などなど。でも人に「さん」付けすることはなく、ファティオのことも「おとうさん」ではなく「パパ」と呼ぶ。
「ありがとう、グレイブ」
「たべれる?」
「これは食べられないと思うなぁ」
グレイブから渡された木の実は固くて、とても食用には見えない。
「ふーん。じゃ、たべれるのさがす」
そう言って、グレイブはヨタヨタと拙い動きで歩き出した。まだ3歳のグレイブは、歩くのも喋るのも上手く出来ない。
父親譲りの緑髪を揺らし、よちよちと草原を歩いていた。
「あんまり遠くに行かないようにねー!」
ファティオはグレイブを見守りながら、注意を呼び掛けた。本当はグレイブの近くに四六時中居たいが、過保護すぎると子供の成長に良くないので、たまにはグレイブ一人で行動させている。男の子には孤独な冒険が必要な時もあるのだ。
ファティオが草原の上にレジャーシートを敷いていると、娘のコフィンがやって来た。
「パパ。はなかんむり。みてー」
コフィンは、小さな花冠を頭に乗せた。ファティオの妻のフューネラと一緒に作ったものだ。
「あーし、おひめさまみらい?」
「うん、コフィンは我が家のお姫様だよ」
ファティオが誉めると、コフィンは歓喜の声をあげながら飛び跳ねた。
コフィンは舌足らずなため、発音がまだまだ幼い。「あたし」と言いたくても、「あーし」になってしまうし、「みたい」が「みらい」になってしまう。
「グレイブにもみせてくるー」
コフィンはグレイブと同じようなヨタヨタ歩きで、グレイブに近付いた。母親譲りのオレンジ色の髪が、さらさらと揺れる。
コフィンとグレイブは双子の姉弟だ。言動や行動が似ている。二人ともラトニアの保育施設に通っていて、仲良し双子として有名だ。
「楽しそうね」
フューネラがレジャーシートの上に、弁当を置いた。
「私たちには勿体無いくらい、可愛い子供よ」
フューネラは優しい笑みを浮かべ、グレイブとコフィンを見ていた。
「本当。見ていて微笑みが止まらないね」
ファティオも笑みを見せ、眼鏡を押し上げた。
ファティオは今まで、多くの出来事を小説にしてきた。数々の事件、様々な景色、複雑な感情。類いまれなる文才によって、それらを巧みに描写してきた。
そんなファティオでも、この幸せな瞬間を的確に描写することは不可能だった。
今、この時があまりにも幸福すぎて、表現が過剰で感情的になってしまう。溢れ出すこの感情を、冷静かつ知的に書くことは出来ないだろう。
それくらい、ファティオは家族を愛していた。父も母もいない、孤独な自分を救ってくれたのは、紛れもなく妻と子供たちなのだから。ファティオにとって、家族は己の全てであった。何物にも代えがたい、大切な大切な存在だった。
ファティオはフューネラの方を向いて、話し掛けた。
「フューネラ」
「何?」
フューネラもファティオの顔を見て、答えを待った。
「愛してるよ。君も、コフィンも、グレイブも」
「私もよ、ファティオ」
よく晴れた草原にて。四人の家族が生を謳歌していた。
邪魔する者は、誰もいない。
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