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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第18話 「ルクトシン第一バイオ研究所」

 ルクトシンの街の風景はラトニアとは全く違っていた。

 白色の無機質な建物が、所狭しと立ち並んでいる。綺麗に整備された歩道が、網の目のように十字型に展開している。空は黒い煙で覆われていて、雲一つ見えない。さっきから、むわっとした暑さが不快だ。人の声はほとんど聞こえず、無感情な機械音がうるさい。暗い雰囲気とは裏腹に、街全体の色合いは白系統ばかりで明るく見える。自然の気配は一切無かった。

 どこの建物も電気が点いていて、街は活気に溢れているのに、人の活気は感じられない。

 これが研究都市、ルクトシンか。

 頭の中の『都会』というイメージを10倍に濃くした感じの街だ。

 絶対に住みたくないな。ラトニアの暖かい空気が恋しくなってきた。


 中央都市も相当な都会だと聞くが。中央都市出身のカインズはこの景色をどう思っているのか。もしかして中央都市より都会なんじゃないのか。俺はカインズの横顔をチラリと見た。

「田舎ですね」

 カインズは真顔でそう言った。かつてカインズと一緒に大森林を見た時と同じ表情をしていた。

 なるほど。俺の認識が甘かったよ。中央都市は一体どれほどの大都会なんだ。


 ユリーナは建物を見て、「ほえー」「ふおー」と、間抜けな声を漏らして感嘆している。田舎者丸出しだ。

 エリックは道の所々に置いてある謎の機械に視線を奪われているが、きちんと目的地に向けて前進中。

 ファティオとミミは興味無さそうに俺の後を付いて来ている。彼らにとっては、過去の任務で見慣れた光景なのかもしれない。


 2階建ての白い建物が多く見られるが、あれは研究所ではないな。看板に『寄宿舎』と書いてある。研究員用の宿泊施設か。

 真っ直ぐ続く道の先に、巨大な半球状の建物がある。あれが目的地の研究所だろう。俺達はそこへ向かって進んだ。


 半球型研究所の正門に到着すると、やや小太りの中年男性が出迎えてくれた。

「アイズの皆様ですな? 僕はここの研究室長の、デグルヌ・バグと申す者です。やあやあ、ようこそ『ルクトシン第一バイオ研究所』へ! 歓迎いたします。ささ、どうぞ室内に」

 デグルヌと名乗る中年に案内され、バイオ研究所の中に入った。デグルヌはにこやかに俺達をエスコートする。正門が自動で開いたことには驚かなかった。むしろ手動だったら驚く。


 研究所の廊下は光る無機物で出来ているようだ。どういう原理かは見当もつかない。夜でも明るい廊下か。便利だな。

 多数の窓ガラスが、廊下と平行になるように、一列に壁に設置されている。外の様子を窺うためか。外の景色はお世辞にも絶景とは言えない。ただ寄宿舎が見えるだけだ。

 廊下を進んだ先には、『第一観察室』と書かれた部屋があった。

「まずはこちらを、ご覧下さい」

 デグルヌ室長は、モニターを指でタッチして、観察室のドアを開けた。


 数台のパソコンが並ぶデスク。その奥に張られたガラス。その先には、仰々しいデザインの首輪で繋がれた赤いドラゴンが横たわっていた。

「これが……ドラゴン……」

 それしか言葉が出て来なかった。俺を含めた全員が、その生き物に釘付けになった。

 赤い宝石のように煌めく鱗。骨が浮き出た翼。太い尻尾。黄色い角。何かを訴えかけるようなつぶらな瞳。

 体長は1メートル強か。最小のドラゴンより小さい。つまり、このドラゴンはまだ子供だ。


「学名は、『ブラッドドラゴン』。血を操る竜です」

 デグルヌが、ガラスの奥でじっとしているドラゴンを見つめて説明した。

「見てのとおり、まだ幼い子供。皆様には、何としてもこのドラゴンを守って頂きたい」

 デグルヌの言葉を聞いて、俺は腰に挿した刀を握りしめた。


 予感がした。『クロミール』を使う予感が。

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