第143話 「新たなる目的」
次の朝。
俺達は昨日に引き続き、ウォレット・ミカウツを探しに出かけた。と言っても全員で行動したら効率が悪いので、それぞれが別行動を取ることにした。みんなで手分けして、情報を集める。
俺はアーネの中心部に行き、民衆の噂話に耳を傾けた。人が多い所には情報も集まる。主婦の井戸端会議や酒場の雑談などを盗み聞きして、今話題になっていることを探ろう。盗み聞きにはあまりいい印象は持てないが、堂々と人に情報を聞き出すのは避けたいため、致し方ない。
「しかし、都会と言ってもいろんな所があるんだな」
チェルダードの中央都市は機械とコンピュータと高層ビルだらけだったが、アーネには様々な風景がある。ビル群もあれば、住宅街もあれば、畑もあれば、商店街もある。どこもかしこも人が多くて賑やかだが、見える景色は多様だった。カインズが言うには、アーネには世界各国のたくさんの地域から人が来るため、色々な文化が入り混じっているのだという。よく見れば、行き交う人の髪の色や肌の色は一つではなかった。外国人もアーネを訪れているのだろう。
『はじまりの日』以降、世界には貧困の波が広がった。それでもアーネが経済的発展を続けることができたのは、この街の持つ多様性が関係しているのかもしれない。
数時間に渡って情報収集を続けて、俺は一旦みんなと合流することにした。集合場所は、昨夜お世話になった草原と決めてある。
クロム隊のメンバーとアレイシアは集まって、それぞれが手に入れた情報を伝えた。
まずは、カインズの報告だ。
「ボクは新聞を買ってきました。ついでにウォレットの居場所も聞いておきましたよ」
カインズは新聞を地面に置き、みんなが見やすいように広げた。
「この新聞はウォレットが経営する新聞社のものです。信憑性は高いので、みんなも後で読んで下さい。そして、ウォレットの居場所ですが、どうやらアーネの貴族が所有する、ダンスホールにいるみたいです」
「ダンスホール?」
「主にお金持ちがダンスを嗜む施設ですよ。アーネの中級貴族であるグローランス家が経営してる所です。今夜あそこでダンスパーティーが開催されるので、ミカウツ家の人々はそこに参加するそうです」
ふむ。パーティーか。貴族らしいイベントだな。そういえば、カインズも貴族だが、ダンスとかやるんだろうか。カインズなら上手にこなせそうだな。
「ボクが知る情報はだいたいこんなところですね」
「じゃあ、次は俺だな」
続いてエリックが挙手して発言した。
「俺はルトゥギア政府の国家運営サーバに侵入して、いくつかのデータを盗み取っておいた」
エリックはさらっと言ってのけた。おい、ちょっと待て。
「誰がそこまでやれと言った」
情報は大事だが、国のコンピュータにハッキングなんてしたら危険だろう。
「ルトゥギア国の動向を知ることも大事だろ? ルトゥギアが俺達を狙ってくるかもしれねーんだし」
「そんなことしたら本当に狙われるだろ」
「大丈夫だって。隠蔽工作はしておいたからな。俺がやったとはバレない。そもそも、現在のルトゥギア国でハッキングに関する法律は無い。法整備が技術の進歩に追いついてないんだ。だから国のサーバを攻撃した俺は、法律的にはセーフって訳なんだぜ」
その後、「倫理的にはアウトかもしれねーけど」と付け加えた。じゃあやめとけよ。
「俺達に必要な情報だけ盗み見したから、本当にバレちゃまずい情報は見てない。あ、でもお前らは真似すんなよ」
「真似できる訳ないだろ」
誰もがお前並の知識と技術を有している訳じゃない。
エリックは涼しい顔で話を続けた。
「んで、その情報だけどよ。どうやらルトゥギア国は俺達をチェルダードに引き渡すつもりはないらしい。チェルダードのツウィエルって警視総監がルトゥギア警察に俺達の引き渡しをお願いしたけど、遠回しに断ったってよ。その辺は、お偉いさんの思惑があるのかもな。どちらにせよ、ラッキーだ」
ルトゥギア警察は俺達を追って来ないのか。不安要素が一つ減ったな。
「じゃあ、もう安心ってことですね!」
ユリーナはそう言ったが、まだ完全に一件落着とは思えない。
「いや、そうでもないな。現在のルトゥギアが俺を捕まえないとしても、この先、意見を変えるかもしれない。だからと言ってチェルダードに戻れば、またチェルダード警察が俺を捕まえに来る。まだまだ逃亡生活は続きそうだ」
少なくとも、チェルダードが俺の潔白に気付くまでは。
ミミとユリーナとアレイシアからは、街の特産品や地理情報など、アーネの特徴についての情報を聞いた。比較的どうでもいい話だが、聞いて損は無いだろう。
「では俺が得た情報を話そう」
最後に、俺の報告だ。噂話を聞いていると、怪談じみた話も耳にした。その中で、今のアーネを震撼させている怪談……いや、事件の話があった。
「ちょっと胡散臭い話なんだが、最近のアーネでは行方不明事件が多発しているそうだ。人が急にいなくなって、音信不通になるという。噂によると、人食いの化け物が街の住人を攫って食ってしまったらしい」
「ちょっとどころか、かなり胡散臭いですね。それ」
カインズの言う通り、信じがたい話だ。化け物じみた人間は見たことがあるが、本物の化け物は見たことがない。ドラゴンは……存在が証明されているし、化けてないので『化け物』とは呼ばないことにしよう。とにかく、化け物がいるなんて信用できなかった。
「確かにな。だが、荒唐無稽という訳ではないと思う。調査したところ、行方不明事件は実際にあった。人食いの化け物なのかはともかく、誘拐事件があったということは事実だろう。人が攫われる瞬間を目撃したという証言も得たしな。誘拐された人がどうなったのかは、まだ分からないが」
「た、大変です! もしかしたらその人、娼館で働かされてるかもしれません! 助けないと!」
ユリーナが焦るように言った。ユリーナは私立娼館に誘拐されて、夜のお仕事をさせられそうになったことがある。他人事には思えなかったのだろう。
この時代は、誘拐事件が多い。人口が減り、人材が貴重になったため、様々な理由で人間を欲する人が増えたのだ。このアーネも、御多分に洩れず人攫いが多いに違いない。
「ああ。困ってる人達を見捨てたくはない」
こういう時こそ、俺達アイズの出番だ。理不尽な犯罪の被害に遭った弱き人々に、救いの手を差し伸べてあげたい。それがアイズの志だ。
「俺達が動く時だ。今から俺達は、街を騒がせている誘拐事件を捜査する。同時に、ウォレットと接触を試みよう」
よって、今夜目指す場所はダンスホールだ。貴族たちが集まる会場に行き、事件の情報を手に入れつつウォレットを探す。
新任務、開始だ。




