第12話 「新人ユリーナ」
チェルド大陸の東側に位置する都市、『ラトニア』。チェルド大陸を支配するチェルダード王国の、第三の都市である。商店街や港や博物館などがあり、そこそこ発展している街と言える。人口は5000人程しかないが、これでも多い方だ。この時代では、人口10人の町だって珍しくないのだから。
クロム隊のアジトはラトニアにある。ラトニアで一番広い公園から歩いて30分、ラトニア市役所から歩いて15分のところに建っている緑の屋根の一軒家が、それだ。周りをだだっ広い畑で囲まれた、綺麗な木製の家。ちなみに、2階建てである。しかも、地下室も存在する。
アジトのすぐ近くには、金属製の物見やぐらが建っている。どんな時に使うかは、特筆するまでもないだろう。
そんなクロム隊のアジトに、クロム、エリック、カインズ、ユリーナの4人が帰還した。いや、ユリーナの場合は、「帰還」という表現は不適切だろう。初めてお邪魔するのだから、「来訪」と言うべきか。いやしかし、アイズに入隊するユリーナに、「来訪」という他人行儀な言い方を用いるのは違和感がある。
……まあ、表現方法はさておき。とにかく、この4人が来たのだ。
彼らは畑と畑の間にある道を歩いていた。
ユリーナは目を輝かせながら、アジトの風景を観察していた。
「ここが私とクロムさんの愛の巣になるんですね……!」
甘い声でそんなことを言いながら。
「はあ……」
クロムはため息を吐いて空を見上げた。クロムは今年で16歳になるが、同年代の女子に愛の言葉を囁かれたのは初めてだ。どういう態度をとるべきなのか、クロムにもよく分からなかった。
クロムはユリーナの言葉を適当に受け流して、そっけない態度をとることにした。いつもエリックにやっているように。
「ユリーナ! お前とクロムの愛の巣じゃねえ! 俺とクロムの愛の巣だ!」
エリックはユリーナに負けじと主張した。
エリックとユリーナは口喧嘩を始めたが、クロムはそれを無視。ズカズカと前進する。
「お前らもアイツと同じだな……」
クロムの小さな呟きは、誰の耳にも届いていなかった。
そして、誰の愛の巣でもないアジトに到着した。
* * *
アジトのリビングの机に、俺とエリックとカインズとユリーナが集まった。全員が席に座ったのを確認し、俺が口を開いた。
「本日、クロム隊に新しい仲間が増えることになった。ユリーナ。自己紹介を」
ユリーナは立ち上がり、天真爛漫な笑顔で自己紹介を始めた。
「ユリーナ・アイルスです! 16歳です! 皆さん、改めてましてよろしくお願いします!」
ユリーナがお辞儀をして座ると、カインズが優しい顔で質問した。
「君、つらいことがあったのに元気だね。いや、悪いってわけじゃないけど、もし、努めて明るく振る舞ってるなら、無理しなくてもいいよ」
流石カインズ。ジェントルマンだ。貴族は皆こんな感じなのだろうか。
ユリーナは驚いた様子で右手を左右に振って、否定の意を示した。
「いえいえ。明るく振る舞ってるだなんて、そんな。ただ、私は感情の起伏が激しいので、嬉しいことがあると辛い気持ちが消えちゃうんですよ」
なるほど。俺が助けに来たときは怯えた目で悲しそうな顔をしていたユリーナが、今は別人のように明るい(というかうるさい)のは、そういう理由か。
「もちろん、嬉しいことっていうのは、クロムさんと出会えたことなんですけど……」
ユリーナは赤面して、俺をチラチラと見ている。俺は無視して話を続けた。
「じゃあ次はエリック。自己紹介してくれ」
「エリック・ドール。18歳。クロムの同期だ。ラトニアの町工場の工場長をやってる」
エリックはユリーナを見ながら、不機嫌そうに自己紹介をした。お前ら、あんまり喧嘩するなよ。
「次はボクですね。ボクはカインズ・ハルバート。中央都市の貴族、ハルバート家の宗家の者です。あ、だからってお坊っちゃま扱いしないで頂けると嬉しいです。ボクは所詮未熟者。気軽にカインズと呼んで下さい」
カインズは丁寧なお辞儀と共に自己紹介した。洗礼された綺麗な礼だった。
「ハルバート家の噂なら、私も聞いたことがあります。凄い人がたくさんいるんですよね。空を飛べたりとか、小島を真っ二つにしたとか」
「はははっ、空を飛べる人は流石にいませんよ。小島を割った人ならいますけど」
いるのか。ハルバート家、凄まじいな。
「ボクは、足と目には自信があります。基本的な身体能力にも自信がありますが、大叔母様やお父様には敵いません」
カインズの家族はどんなバケモノなんだ。いや、失礼なことを考えてしまったな。すまん、カインズ。
最後に俺の自己紹介だ。
「俺はクロム。お前らの隊長だ。以上」
俺が簡潔にまとめると、ユリーナが不服そうに「えー」と言った。
「もっとクロムさんのあんなことやこんなことを知りたいですー」
どんなことだ。
ユリーナは手をあげて、こんな質問をした。
「じゃあ、ひとつ聞いていいですか? クロムさんとカインズさんって、どっちが強いんですか?」
「クロム隊長だよ」
俺ではなく、カインズが即答した。
「ボクは一度も隊長に勝ったことがない」
カインズが残念そうに、それでいて誇らしそうに述べた。
いい機会だ。せっかくだから、新人のユリーナに見せてやろう。
アイズの戦闘というものを。
俺は地下室の鍵を手に取った。
「よし、カインズ。訓練場に来い。久しぶりに、手合わせをしよう」




