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弐章‐一話:異変

弐章開始です。

 ──夏休みに入って、一週間くらいが過ぎた頃。

 俺は、午前中は部活、家に帰ってからは課題と自主勉強、見回りがある日は見回りと、なかなか忙しい日々を送っていた。

 今日も部活をやって家に帰り、昼食を食べて、今は家で課題をこなしている。今日は見回りがある日なので、それまでに少しでも進めておきたいのだが、やはりなかなか進まない。

 問題とにらめっこしていると、携帯が鳴った。メールが届いたので開くと、宮本さんからのメールだった。今日は見回りに出る前に少し話しておきたいことがあるので、何時に集まるか教えて欲しいとのことだった。

 どうするべきか考えていると、再び携帯が鳴った。今度は風見からのメールで、いつも通り十六時からで大丈夫か、という内容だった。大丈夫だと返信すると、宮本さんにも連絡しておいたとのことだったので、お礼を言っておいた。

 

 

 時間になり、龍宮神社に向かうと、宮本さんが待っていた。何分か経って、風見もやってきた。

 

「二人とも、良く聞いておくれ。市の南西部に大谷という地区があるじゃろう? 最近、そこで不可解な交通事故が多発しているのじゃ。直線道路でいきなり車が曲がって衝突するなど、普通は考えられないじゃろう。ところがそれに似たことが起こっておるのじゃ。儂は物の怪が悪さをしているのではないかと考えておる。そこで、今日は大谷地区を重点的に見て欲しいのじゃ。分かったかの?」

 

「「分かりました」」

 

「神野、大谷は一番最後に回すか?」

 

「それがいいと思う。そうすればじっくり確認することが出来るしな」

 

 風見とそんなやり取りをした後、見回りへ出発した。

 

 

 他の地区を一通り見回りした後、大谷地区に到着した。

 大谷地区は、名前の通り土地の起伏が激しい。そのため開発はあまり活発ではなく、市内で一番森林が残っている地区でもある。

 周りの様子に気を配りながら確認していくと、道路際のガードレールに突っ込んでいる乗用車を見つけた。脇に男性が立っている。怪我人は出ていないようだ。

 

『これは、確かに不可解だな……』

 

『普通はこのような事故の起こり方は考えられないな……』

 

 道路は右にカーブしていたにも関わらず、乗用車のタイヤのスリップ痕は左に曲がっていた。右カーブで左にハンドルを切るなど普通はあり得ない。

 様子を見ていると、パトカーが一台到着し、警察官が出てきて男性に話を聞き始めた。自分も彼らに近づき、聞き耳を立てた。

 男性によると、途中までは右に曲がっていたがいきなり車が左に曲がり始めた、ということだった。車を良く見ると、確かに前タイヤは右を向いていた。……ということはこの男性が原因ではなさそうだ。そうするとやはり……。

 

『……神通力を扱える物の怪が車を動かした、と考えるのが妥当だろうな』

 

『青嵐もそう思うのか。我もそう思う、何か手がかりは残っていないか?』

 

『私も探したが、それらしい痕跡は残っていない。あまり良い方法ではないが、また事故が起こるのを待つしかないだろう』

 

『……そうだな』

 

 これ以上探していても手がかりは見つかりそうにないので、今日のところはこれで帰ることにした。

 

 

 次の日からは、宮本さんも見回りに参加し、宮本さんと俺達二人とで交代して毎日見回りをすることになった。

 しばらくは異変は起こらなかったが、四日後、再び事故が起きた。

 その日は俺と風見が当番だったので、初めに大谷地区を見に行った。住宅地の辺りを見ていると、一台の車がかなりの高速で走っているのを見つけた。その車は信号を無視すると、横から来た車に衝突した。二台とも大破はしていないものの、かなり車体がへこんでいる。……乗っていた人は無事だろうか。しばらくすると、二台の車からそれぞれ何人か出てきた。怪我をしている人はいるものの、命に別状はなさそうだ。

 ……それよりも、一つ分かったことがある。

 

『……あの車は、どう考えても……』

 

『……操られていたな。しかも、近くに操った者がいる。神通力が比較的強い』

 

『一刻も早く見つけ出すぞ』

 

『勿論だ』

 

 先程使われていた神通力の元を辿りながら、二人で森の中へ突入した。

 

 

 ……数分後、我等は森の中を探し、鳥のようにも人のようにも見える者──烏天狗を二人見つけ出した。……恐らく、この二人が一連の事件の犯人だ。

 

『……烏天狗か、どうしてこんなことをしたのだ?』

 

「お前等などに言っても意味がない」

 

背の高い方の烏天狗はそう言い切った。

 

「人のせいだ、彼奴等あやつらは報いを受ける必要が……」

 

「お前、無駄なことを話すな」

 

もう一人、背の低い方はそう言ったが、すかさず先程の方が止めに入った。

 

『人のせいだと? 具体的に話してみてくれないか』

 

「元凶にどうこう言われる筋合いはないっ!」

 

 背の高い方はそう言うなり、強風を起こしてきた。……流石は烏天狗、風の使い手のようだ。風と一緒に木の葉や枝がかなりの勢いで飛んでくる。……身体が大きいせいで、飛んでくる木の枝を避けるだけで精一杯だ。かといって人の姿に戻ったら確実に飛ばされる。

 ……ちょっと待て、先程烏天狗は元凶と言ったか? 我等が人であることが分かっている?

 ……それは後で考えよう。今はこの状況を何とかせねばならない。こちらも応戦するしかない。神通力を扱い、こちらも烏天狗に向かって風を起こした。

 ……駄目だ、力の差があり過ぎる。こちらが起こした風は、あっという間に烏天狗が起こした風に飲み込まれてしまった。神通力では太刀打ち出来ない。かといってそれ以外に対抗出来る手段もない。完全に地の利を取られている。不本意だが、一旦退却することにした。

 神社に戻った後、宮本さんに結果を報告し、ついでに人であることが分かった理由を聞いた。

 

「そりゃあ誰でも分かるじゃろう。生まれつき龍の場合は成龍になるまで一年くらいかかるが、それまでは知能がまだ発達しきっていない。念話はそこそこ知能が高くないと出来ぬ。幼龍で念話をするとなると、人が力をもらったと考えるのが自然なのじゃ」

 

と宮本さんは教えてくれた。

 

 

 翌日、宮本さん──五月雨守と三人で向かい、同時に風を起こしたが、再び烏天狗一人に返り討ちに遭った。五月雨守は成龍ではあるが、水龍であるため、風の扱いは平均的なのだ。ここでは周りが森なので、風以外の神通力を扱った場合、大災害を起こす危険がある。そのため必然的に風を扱うしかない。……風でも加減を間違えれば暴風になり、災害を起こしかねないのだが。

 背の低い烏天狗は話を分かってくれそうなのだが、背の高い方がすぐさま攻撃してくるのでどうしようもない。結局はこちらも応戦するしかないのだった。

 

 

 攻撃しては引き返し、を繰り返して二日が過ぎたが、膠着状態のまま事態は進展しない。今日も返り討ちに遭い、神社に戻る途中だった。青嵐の飛ぶ速度が急に遅くなった。

 

『青嵐、どうした?』

 

『……急に、身体が言うことを聞かなくなって……』

 

『……元服の前兆だな。滝津瀬、遅くても良いから青嵐を庇いながら神社に向かってくれ。儂は先に神社に行く』

 

『分かりました』

 

 五月雨守は速度を上げて神社へと向かっていった。

 貯めていた力を一気に放出して自らの身体を成龍に変えることを元服という。そのため、前にも聞いたが元服の前は身体が上手く動かなくなるらしい。今の青嵐はまさにそのような状態だった。

 

 

 遅れて神社に着くと、この前の集会の時に来ていた龍達が集まっていた。

 五月雨守に事情を聞くと、元服を行う時は地域の龍が見守るのだそうだ。その他にも元服についていくつか教えてもらった。

 青嵐は五月雨守に先導されて円になっている龍達の中心に向かった。

 その後、青嵐は五月雨守に何か液体を飲まされた。後で知ったことだが、青嵐が飲んだものは龍の力を増幅させる効果があるそうで、元服を早めることが出来るらしい。

 しばらくすると、それまで地面に横たわり苦しそうにしていた青嵐が急に無表情になり、宙に浮き上がった。

 浮き上がった青嵐はそのまま凄まじい勢いで咆哮した。咆哮すると同時に身体が光り始め、全身が光に包まれると身体が今までよりも二周り近く大きくなった。光が消えると、そこには先程までの青嵐とは全く違う、空色の鱗に全身を包んだ、風龍となった青嵐がいた。

 青嵐は閉じていた目を開けると、再び咆哮した。それに合わせて見守っていた龍達も咆哮した。自分も五月雨守から話は聞いていたので咆哮した。

 

『皆様、ありがとうございます。御陰様で無事成龍となることが出来ました』

 

 咆哮から一呼吸置いた後、青嵐はそう言った。

 その一言の後、再び全員で咆哮し合い、解散となった。

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