表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/40

壱章‐一話:邂逅

これより本編が始まります。

 

2014.8/3 本文改訂。

 「ここに来るのは久しぶりだなぁ……」

 

 しばらくして俺は龍宮神社に到着した。最後にここに来たのは確か昨年の冬、大体半年前だ。

 神社だから当たり前かもしれないが、木々が青々としていることを除けば景色は半年前とほとんど変わっていなかった。

 ところで何故半年前にここに来たのかというと、俺は神社やお寺のような歴史のある場所へ行くのが好きだからだ。龍宮神社にも年に二、三回は行っている。初詣はこことは違う場所に毎年家族と行っているが……。

 ここには駐輪場はないので、自転車を駐車場の端に止め、社殿に向かった。

 

 

 社殿に着くと、社殿の前には白衣と袴を着た、六十代前半くらいに見えるお爺さんが立っていた。何度か来たことがあるのでわかるが、少なくともこの人は神主さんやこの神社に関係している人ではないはずだ。初めて見る人なので、一体誰だろうと思いながら挨拶をした。

 

「おお、こんにちは。……儂が先程呼んだのはそなたかの?」

 

お爺さんが古風な話し方で尋ねてきた。

 呼んだってどういうことだ、と思って返答に困っていると、

 

「誰もいないところから声が聞こえてこなかったかの?」

 

と尋ねてきた。

 これには心当たりがあったので、謎の声が聞こえてこの神社まで来いと言われたことを話した。

 

「……ということは儂が呼んだ者はそなたで合っておるようじゃな……」

 

「あの……、呼んだ者ってどういう意味ですか?」

 

「それについてはこれから話そうと思っておる。まずは自己紹介じゃ。儂の名前は五月雨守さみだれのかみ。普段は宮本義継みやもとよしつぐと名乗っておるからこちらの名で呼んでほしい。そなたの名前はなんと申すのじゃ?」

 

「神野龍輝です」

 

 優しそうな人に見えたので名乗っても大丈夫だと思い、名前を教えた。

 

 「神野君とな、それでは神野君、突拍子もないことを一つ聞くが、そなたは龍に興味がおありかの?」

 

 いきなり普通の人だったら聞かないようなことを聞かれたので、一瞬この人は正気なのかどうか疑ったが、特におかしいところは見受けられなかったので、興味があると正直に答えた。

 

「興味がおありとな……」

 

 ここで俺は今朝とついさっきの不思議な夢のことを思い出した。俺が見た夢は自分が龍になってしまう夢だったが、この人は龍について興味があるのか聞いてくるし、話し方も古風で現代人の俺からすると違和感がある。さらに名前が二つあって、恐らく本名であろう「五月雨守」という方は到底人の名前とは思えない。

 この人はどう考えても普通の人ではないだろう。もしかしたらこの不思議な夢について何か知っているのかもしれないと思い、恐る恐る夢のことについて話した。

 

「なんと、それは誠か? ……ならば話は早い、そなた、龍になろうとは思わぬかね?」

 

返ってきたのは予想外の言葉だった。さすがにこれは正気ではないだろうと思ったが、さらに予想外の出来事が起きた。

 

「儂の言っていることが信じられぬという顔をしておるな……、良かろう、これが儂がそなたに龍にならぬかと聞くことができる証拠じゃ」

 

そう宮本さんが言った。すると、宮本さんの身体が光ったかと思うと急激に大きくなり、胴体が長く伸びていった。また尻尾が生え、鬣も現れた。手足は同じくらいの長さになり、太く逞しくなった。顔の形も顎が伸びて人の顔から猛々しい別の顔に変わっていき、角が生えた。さらに身体全体を青い鱗が覆っていった。

 

 

 光が収まったとき、俺は自分の目を疑った。そこにいたのはお爺さんではなく、一頭の青龍だった。

 

『……これで儂を信じるか?』

 

 俺はしばらくの間言葉が出なかった。まさか夢ではなく現実に龍がいるとは思いもしなかった。

 

『……御主もそうなのか、この姿を見た者で驚かない者はいないな』

 

一頭の龍、宮本さんは愉快そうに言った。……龍の顔は表情が一切変わらなかったため、実際はどうなのかわからないが。

 

『……もう分かったと思うが、先程龍になるか聞いた理由は儂が龍であり、儂は人に龍の力を与えることが出来るためだ』

 

 ……話が急に進み過ぎてついていけない。どうして龍の力を与えているんだろうか?そもそも何故俺を選んだんだろうか?

 

「あの……、理由は分かりましたが、どうして私を選んだのですか?」

 

『……偶然御主がそこを通りかかったのでな』

 

「……えっ?」

 

『……冗談だ。この近くに住んでいる者で龍の力を与えるのにふさわしい者を探していた。御主はそれにふさわしいと思ったのだ』

 

「何がふさわしいのですか?」

 

『……御主は周りへの気配りができるようだからだ。気配りができなければ、龍の力を間違った目的で使うかもしれぬからな。……結局のところ、御主はどうするのだ?龍の力を手に入れるのか?』

 

「ええと……」

 

ここで一つ気になったことがあった。

 

「あの、気になっていたのですが、もし私が龍の力をもらったとして、その力を何の為に使えば良いのですか?」

 

『……簡単だ。儂や他の龍達と共にこの日本を守ればよい。儂の知っている限り、龍はそのためにいる』

 

 ……龍の力をもらうべきなのだろうか。普通に生きているならばこんな体験は絶対にできないだろう。また本物の龍が目の前に存在している以上、この話が嘘だということもないはずだ。

 ……俺はかなり迷ったが、龍の力を手に入れることに魅力を感じ、この頼みを受け入れることにした。

 

「……分かりました。龍の力を私にください。お願いします」

 

『……そうか。御主に頼んだ甲斐があった』

 

宮本さんは嬉しそうに言った。

 

 

 『……では、儂の後に続いて来てくれぬか』

 

宮本さんはそう言うと、再び身体が光り、人間の姿に戻った。

 それを見ていた俺は、また気になることがあったので聞いてみた。

 

「そういえば、どうしてさっき宮本さんはあんな大きな龍になっていたのに、私以外は誰にも気付かれていないのですか?」

 

「龍の姿を人に見られるといけないので隠形術を使っておったからの。先程はそなた以外に儂の姿は見えておらぬようにしていたのじゃ」

 

「そんなことも出来るのですか……」

 

「龍じゃからの」

 

そう言って宮本さんは笑った。

 

「……さて、立ち話もこれくらいにして、神野君だったかの、そろそろ行くとするか」

 

「分かりました」

 

 俺は宮本さんの後についていった。

 

 宮本さんは神社の社殿に向かい、社殿のそばにある、「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた札がある柵を開けると、その奥に向かった。俺も行って良いのか迷っていると、

 

「もうそなたも関係者じゃ。心配いらぬ」

 

と宮本さんが言ったので俺も行き、柵を閉めてそのままついていった。

 森の中を進んでいくと、森の奥にはこの神社の社殿にそっくりな建物があった。この森がこんなに広いことも、こんな建物があることも当然だが知らなかった。

 宮本さんがその中に入ったので、俺も続いて中に入った。

 

「お邪魔します……」

 

建物の中は見た目こそ古いが綺麗に整っていた。見た目は社殿に似ているが、社殿にはある神様の像は見当たらなかった。

 広間に入ると、広間の端の方でこの神社の神主さんが掃除をしていた。

 どうしてこんな場所にいるのだろう、と思いながら俺は神主さんに挨拶した。

 

「こんにちは、……五月雨守が一緒にいらっしゃるということは、君も今回の『龍の子』かな?」

 

神主さんは宮本さんに一礼した後、そう聞いてきた。

龍の子って一体何のことだ? それと、君「も」とはどういう意味だ?と思っていると、

 

「そうじゃ。これから儀式を行うでの」

 

と宮本さんが答えた。

 

「そうでしたか。それでは私は失礼させていただきます。君、頑張ってね」

 

神主さんは宮本さんに再び一礼し、俺を励ますと、広間から出ていった。

 

「儀式って何のことですか?それと、何故神主さんはここから出ていったのですか?」

 

神主さんの姿がここから見えなくなった後、俺が宮本さんに聞いた。

 

「儀式とはそなたに龍の力を与えるための儀式じゃ。儀式は例え神主であっても第三者が見てはならぬという決まりがあるのじゃ」

 

と宮本さんは答えた後、それに続けて、

 

「さてと、そろそろ始めるかの……、儂は準備をするでの、そなたはここで待っていておくれ」

 

と言うと、広間を出ていった。

 

 

 しばらくすると、狩衣姿の宮本さんが広間に入ってきた。宮本さんは手に持っている風呂敷を俺に渡しながら、

 

「これを着ておくれ」

 

と言った。

 俺が風呂敷を開くと、中には足袋と褌、薄い水色の狩衣が入っていた。俺は剣道部に入っているので道着や袴の着方はわかるが、さすがに狩衣は着方がわからない。

 

「着方がわからないのですが……」

 

俺は正直に言った。

 

「そう言うと思っておった。今着ておる物を脱いでおくれ。儂が着せてあげるでの」 

 

 俺はカバンを床に置き、言われた通りに制服や下着を全て脱いだ。周りに宮本さん以外いなくて良かった、いくら男でも恥ずかし過ぎる。

 宮本さんは手際良く俺に狩衣を着せていく。数分後、俺は足袋を履きさっきの狩衣を身に纏っていた。

 

「似合っておるぞ、鏡を見てみたらどうじゃ」

 

 後ろにあった鏡を見てみると、見慣れない狩衣姿の俺が映っていた。

 

「その狩衣はそなたにあげるでの、儂らの集まりがある時にはそれを着て来るのじゃ」

 

宮本さんはそう言い、床に散らかった俺の制服やその他の脱いだ物を風呂敷にまとめて、

 

「安心せい、儀式が終わったら返すでの」 

 

と言って風呂敷と俺のカバンを持ち、広間から出ていった。

 

 

 再び宮本さんが広間に来ると、扉や障子を全て閉めた。

 

「儀式の準備は出来たが、そなたの心の準備は大丈夫かの?」

 

俺はゆっくりと頷いた。

 

「そなたがこれから得る力は、この辺りの自然環境を簡単に変えられるほどの力じゃ。だがそなたは決して正しい心を忘れるでないぞ。心を失えばそなたは力に呑まれるであろう」

 

「私が正しい心を持っているのですか?」

 

「儂が前から見ておった。心配はいらぬ。そなたなら大丈夫じゃ」

 

前から?と思ったが、恐らく隠形術を使って見ていたのだろう。

 

「広間の中心に立っておくれ」

 

言われた通りに中心に立った。

 

「それでは儀式を始めるぞ……」

 

 宮本さんが俺の正面に立ち、何やら唱え始める。しばらくすると、広間の四隅に置いてあった水晶玉が光り始めた。やがて宮本さんは龍の姿になった。そして宮本さんが咆哮すると、水晶玉から俺に向かって光が発せられた。

 俺はその光を浴びると、何か大きな力が身体の奥底から沸き上がってくるのを感じた。その力が身体から溢れようとした時、俺は意識を失った……。

 今回登場した人物の名前の由来について。

 

宮本義継/みやもとよしつぐ……神社(宮)にいるので宮本、龍の子を育てる義務を継いでいるので義継としました。

 

 龍の名の意味(辞典より)。

 

五月雨守/さみだれのかみ……五月雨は旧暦五月頃(現在の六月頃)に降る長雨。夏の季語。守は小さな地域(市町村単位)を治める役割を持つことを示す。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ