第24話 運命の地
どこまでも穏やかに広がる水面を見ながら、絞り出すような声でノブが言った。
「ここだ、たくさんの水がある所…」
俺たちは海辺の船小屋で春になるのを待ってから山を越えて南下し、今は琵琶湖の北岸部にいる。
今まで湖、川、そして海と『たくさんの水』がある所へ行ったが、ノブがここまで反応することはなかった。ノブが探していたのはこの琵琶湖で間違いないだろう。
「ノブ、よかったな。やっとたどり着いたんだな」
「うん、俺が来たかったのはこの湖で間違いはないはずだ。でも、目指していた土地はちょっと違う気がするんだな…」
「そうか、なんたって琵琶湖は日本一の広さだからな。急ぐことはない。次はゆっくり湖の周りを探してみよう」
近くの草むらに行き、ふぅ~と大きな息を吐いて横になる。湖の周りを探せば、きっとノブの行くべき所があるはずだ。ノブにもそれがわかっているからか、表情が明るい。
「ノブさん、嬉しそうだね。なんだか顔に締まりがないっすよ」
「ランマ、なにを生意気な。俺は機嫌がいいから特別に稽古をつけてやろう」
飛び掛かってきたノブをランマが避ける。ランマがノブの尻を狙う。ふざけている二匹を見て、俺も嬉しくなる。
「楽しそうだな!!」
声をかけてきたのはちょっと汚れた灰色の猫。愛嬌のある憎めない顔をしている。近くで休んでいるのを邪魔してしまったらしい。
「すまない、騒がしかったか?」
「いや、いいんだ。そろそろ出かけようと思っていたところさ」
「出かける?」
「俺は風来坊のフウタ、流れているのさ」
フウタは琵琶湖の南のほうから北上してきたと言う。ちょうど俺たちが行こうと思っていた方面なので様子を聞いてみた。
「そっちの猫たちはどんな感じだったんだい?」
「よくないね~ ギスギスしてる感じだ」
「ギスギス?」
「俺は猫同士が仲良くしたっていいと思うんだ。騙したり疑ったり、盗ったり傷つけたり、そんなの面倒臭いだろ。それがそうじゃなかったのさ。だから俺は長居をしなかったんだ」
俺は、天橋立の居心地の良さを思い出したが、ランマも同じだったようだ。
「俺の生まれ故郷はみんな仲良くて楽しかったよ」
「そうか。俺も行ってみようかな」
「うん、ぜひ行ってみてくれよ。リュウタさんって猫を頼るといいよ」
「わかった。で、お前さんたちはどこへ行くんだ?」
「俺は、そんな町を作りに行くのさ。その猫たちがギスギスしている所へ行ってみるよ」
「ははは、物好きな猫だ。でも、俺は嫌いじゃないぜ。そうだな、あと何年かしたら戻ってくるよ。それまでにお前の理想の町を作っておいてくれよ」
「まかせとけ!」
俺たちは互いの旅の無事を祈りながら別れた。
どうやら、ノブの行くべき所もだいぶ絞られてきたようだ。
『日本一の湖 琵琶湖』
滋賀県に縁のない人は、県の面積に対して琵琶湖の面積は半分くらいあるようなイメージですが、実際には約6分の1(約16.7%)です。




