第38話「純白の来訪者、あるいは大司教の誕生」
「……次の志願者、前へ」
あかりの声は、依然として淡々と落ち着いていました。差別は許されません。たとえ相手が誰であろうと、パンへの誠実さを問うのがこの面接の鉄則です。 扉を開けて入ってきたのは、透き通るような肌と、どこか幻想的な雰囲気を纏った女性――ココマルさんでした。
「失礼します。ココマルと申します」
その声が響いた瞬間、スタジオの空気が微かに震えました。まるで森の奥で竪琴が鳴ったような、清らかな響き。あかりは一瞬だけ目を見開きましたが、すぐに居住まいを正しました。
「ココマルさん。……志願する役職と、その理由を教えてくださる?」
「はい。私は**『パンになりたい人窓口』**を志願します。地下に、パンになりたいと願いながら迷っている方たちがたくさんいると聞きました。彼らの心に寄り添い、優しく発酵のお手伝いができればと思って」
あかりは手元にあったベーコンエピを指し示しました。
「……ベーコンエピ。このパンは、一つの茎から多くの穂が連なっているわ。ココマルさん、あなたにとって『連なり』とは何かしら?」
ココマルさんは穏やかに微笑みました。 「そうですね。例えば……シュトーレンが時間をかけて熟成し、味が馴染んでいくように、あるいはベーコンエピの穂を一つずつ分け合って食べるように。それぞれ違う個性があっても、パンを愛する心で繋がれば、それは美しい形になる……そう信じています」
その答えを聞いた瞬間、あかりの瞳に強い光が宿りました。 「……素晴らしいわ。あなたの言葉には、パンへの深い理解と、何より慈愛を感じます。……ココマルさん」
あかりは決然とした表情で、身を乗り出しました。
「あなたを窓口だけに留めておくのは、教団の損失よ。お願い、私の隣に立って。**『大司教』**として、私と一緒にこの世界を焼き上げてくれないかしら? あなたほどの気高さと徳があれば、全教徒を導く大司教として相応しいわ」
「えっ……大司教? いえ、私はそんな大役……窓口で皆さんの相談に乗れればそれで十分です」
ココマルさんは謙虚に辞退しようとしましたが、あかりの熱意は止まりません。
「いいえ! あなたのその妖精のような声、そしてパンを分かち合おうとする精神……。それこそが、大司教に求められる資質なの。窓口との兼任で構わないわ。どうか、私の願いを聞いて……ココ」
あかりは親しみと敬意を込め、初めて彼女を愛称で呼びました。その真剣な眼差しに、ココマルさんはふっと、春風のような微笑みを漏らしました。
「……あかりちゃんがそこまで言ってくれるなら。微力ながら、大司教として、そして窓口として、お手伝いさせていただきますね」
「ありがとう、ココ! さあ皆さん、新しき大司教の誕生よ!」
あかりは歓喜とともに、合格を宣言しました。 こうして、パン教に最強の守護者、大司教ココが誕生したのです。




