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第99話「午後の休息、あるいは無垢なるソーダブレッド」

パン教本部、最上階テラス。

午後の柔らかな光が、あかり様の瞳を淡い黄金色に染めていました。傍らでは、総監督にゃんが影のように静かに控え、ティーカップから立ち上がる湯気の角度さえも完璧に整えています。


今日のテーブルを彩るのは、アイルランドの伝統的な無発酵パン、『ソーダブレッド』。

酵母イーストの力を借りず、重曹ソーダの魔法で力強く膨らんだそのパンは、表面が岩のようにゴツゴツとしていて、素朴ながらも大地のエネルギーに満ちています。


「ふふ、たまにはこういう、飾らないパンもいいわね」


あかり様は、十字に切り込みの入ったその「聖なる十字」をなぞるように、優しく手で割りました。中からは、真っ白で温かな湯気がふんわりと立ち上ります。


「ねえ、うほちゃん。私は最近、時々考えるのよ。……世界中の人がパンを愛して、争いも憎しみもない『黄金色の日常』がずっと続いたら、私たちはそこで何をしようか?」


あかり様は、バターと蜂蜜をたっぷり塗った一切れを、愛おしそうにうほちゃんの口元へ運びました。


「うほっ」


うほちゃんは美味しそうにそれを頬張り、幸せそうに目を細めます。その無垢な横顔――一切の計算もないその表情を見つめながら、あかり様は穏やかな昼下がりの空を見つめました。


「私の夢はね、誰もが自分を『一番美味しい状態』だと信じられる世界を作ること。……朝起きたら、隣にいる人が香ばしいパンの香りをさせていて、お互いに『今日もいい焼き色ね』って笑い合える……そんな、なんてことない午後が、明日も、明後日も続いていく世界。……うほちゃんはどう思う?」


うほちゃんは、もぐもぐとソーダブレッドを咀嚼し終えると、少しだけ真剣な表情になって、あかり様の瞳をじっと見つめました。そして、いつものように自分の胸をポカポカと叩き、テラスのプランターに咲く一輪の花を指差しました。


「……うほっ。うほ、うほっ」


言葉はありません。けれど、その響きには「今、ここで、あかり様と一緒にパンを食べている。それだけで、もう世界は十分幸せ」という、等身大の肯定が込められているようでした。


「……そうね。未来の心配なんて、パンが焼き上がるのを待つ間だけで十分かもしれないわね」


あかり様は穏やかに微笑み、最高級の紅茶を一口含みました。


「にゃん、皆の様子は?」

「はい。今日も各地から、香ばしく焼き上がったという喜びの報告が届いております」

「そう。……それじゃあ、もう少しだけこのお茶会を続けましょう。このソーダブレッドみたいに、温かくて、優しい時間を」


テラスの下、街の喧騒の中では、教団の若者たちや、密かに結成された『ポカポカ団』のメンバーたちが、それぞれの日常を愛し、美味しいパンを分け合いながら、いつも通りの明日を迎えようとしています。


あかり様とうほちゃん。二人の少女が語る「夢」は、重曹の魔法でふっくらと膨らんだパンのように、素朴で、けれど確かな温かさを持って、これからも続いていく穏やかな日々を、静かに、そして豊かに熟成させていくのでした。


『あかり様の夢が優しすぎて泣ける……これが本当の救済なんだな』

『うほちゃんの「うほっ」が、すべてを肯定してる感じがする。浄化される……』

『このままずっと、二人がパンを食べてる配信を見ていたいよ』


コメント欄には、いつものように穏やかで、パンへの愛に満ちたコメントで溢れていました。

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