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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第3章 不穏
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高い所から低い所へ

「今日は私も離宮まで同行する」


「殿下⁈ご予定は大丈夫なのですか?」


レイドナー教授が驚いて聞き返し、その場にいた者達がざわついた。


「ああ、もちろん大丈夫だ。アリア、私の馬車に乗りなさい」


「…は、はい、ライナス様」


僕の急な予定変更に、アリアも当然のことながら驚き、戸惑った顔をしていた。




今日は、騎士団長であるフィリップ兄上の命を受け、魔術調査班は調査研究の場をウェーンブレン離宮へと移す。


当初、僕はアカデミーで見送る予定にしていたが、朝になって離宮まで同行することを皆に申し出た。


……と表向きは急に僕が予定変更をしたように振る舞っているが、本当は、兄上から調査班の移転の話を受けた二日前から準備をしていた。


僕が同行すれば警備を厚くすることができる――そう思って、魔術庁内の承認が必要な書類の処理は昨日までに全て済ませ、僕の護衛も今日と明日は離宮へ向かえるように準備をさせた。


魔術に対する抗議活動の内容から、アリアの情報がアカデミーのどこからか漏れているのは間違いない。だがそれが魔術調査班内からなのか、それ以外からなのまでは特定できなかった。だから調査班に対しても、その計画をギリギリまで伏せることにしたのだった。



調査班には、騎士団の方で用意した二台の馬車で荷物を積み込み次第出発するよう指示をして、僕の馬車にアリアを乗せて先に出発した。


馬車の向かいに座るアリアは、僕が話し掛けるとにこやかに答えてくれるが、会話がひと段落すると、すぐに黙って窓の外を眺めていた。急に離宮へ移ることになっただけでなく、先日のハンティントン邸へ向かった時の投石されたこともあり、不安に思って当然だ。できるだけ穏やかな声で話し掛けた。


「アリア、これだけの兵で護っているから心配いらないよ」


僕の言葉に、アリアはこちらを向いて「ありがとうございます」と作り笑顔で答えた。


でも視線は足元へと向けられてしまった。スカートを掴み、キュッと唇を結んで何かを考え込んでいた。これまでの色々なことを思い返しているのだろうが……、僕はそれを彼女一人で抱え込んでほしくなかった。


「アリア、大丈夫か?」


その呼び掛けに、再びハッと視線を僕の方に向けてくれたが「はい、大丈夫です」と言って、すぐに視線が下がっていこうとした。


僕はその視線の先に両手のひらを上に向けて、彼女に差し出した。手を握って、少しでも安心させられないかと思って。


アリアは遠慮がちに両手を差し出して僕の手のひらの上に指先をそっと乗せた。僕はひんやりとしたその手を温めるように優しく握った。


お互いの手のひらがぴたりとくっついた途端――


「えっ、これは……⁈」

「ライナス様に……⁈」


僕らは同時に異変を感じてパッと手を離した。


お互いに何が起こったのか言葉で表すことができずに驚いた顔で見つめ合った。僕はもう一度両手を差し出した。アリアもその上に、今度は手のひらをぴたりとつけるように置いた。


「あぁ……」


僕は思わず声を漏らした。やはり先程感じたのは勘違いではなかった。アリアの手のひらから、僕へと何かが流れ込んでくる感じがした。


魔力だろう。


アリアの許容量を超えて溢れるほどある魔力が、許容量に対してほんの僅かしか魔力を持たない僕に流れ込んでくる。まるで水が高い所から低い所へ流れるように。それはごく自然なことに感じられた。


アリアの手は冷たいのに、そこから流れ込んでくるものは温かく、それが僕を満たしていく。


魔力許容量の計器がないのに、不思議とその量を感じられた。半分を過ぎ、六割、七割……大体の感覚だが、僕の中の魔力量が増えていく。


―――このまま溢れるほど魔力が流れてきたら、僕はどうなってしまうのだろうか……


八割に近づいてくると少し不安を感じたが、アリアの方はまだ魔力が溢れているようだ。僕が引き受けられるならいくらでも貰ってやろうと繋いだ手を離さなかった。


僕の魔力量が九割に迫ったところで、アリアの魔力量に少し余裕を感じた。「あっ…」とアリアが小さく声をあげたのと同時に魔力の流れを感じなくなった。


「あ、止まったのか?」


アリアも同じように流れが止まったのを感じたようで、こくりと頷いた。そして僕らは少しの間言葉もなく見つめ合った。


思いがけなく魔力の移動を体験して、信じられないような、アリアの助けになるなら嬉しいような……色々な思いは巡るが、それを言葉に表せずにいた。

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