048(確信歩きで外野フライ)
ーー数日後の午前。俺は鈴木節句。黒人と日本人のハーフだ。今日はマウ大の授業を2コマ飛ばして、排気量1600ccのバイクで横浜陰茎学園の校門まで来た。米子が心配だ。
俺は、実家のちゃんこダイニング・タツから離れて東京で一人暮らしを始めた。横浜市より東京23区で暮らした方が何かと便利だ。マウ大に近いからというだけだが。瀬名はちゃんとキャプテン・ジャパンを務めているかも心配だ、それと聞きたい事がある。1人じゃ不安だから、元第3勢力リーダーの飛平大谷を連れてきた。飛平はマウ大に進学せず、警察組織にも属してない。今は探偵事務所、興信所で勉強の日々らしい。飛平のバイクはレーシングタイプだ。下っ端の割りに稼いでる。いいな~、後で乗らせてもらお。
「お兄ちゃん!」
俺はビクッとした。米子の声だ。急に後ろから声をかけられた。振り向くとスカジャンにジーンズとラフな服を着ていた。
「よ、よう、米子、重役出勤だな。もう10時回ってるぞ」
「私、女郎蜘蛛のリーダーだよ? どうせ心配して、授業サボって偵察に来たんでしょ。飛平君も。今時、ノーヘルなんて流行らないから」
「ま、まあ落ち着け、明日からはちゃんとヘルメットを被る。瀬名はちゃんとキャプテン・ジャパンを務めているか?」
「瀬名君も心配ないから、もう後継者選びしてるから」
「ほう、少し安心した。どんな奴だ」
「二年生の柔道家の達也君や一年生に瀬名君と同じ流派の暴走族上がりが居るよ」
「目利きが良い、瀬名も成長したな」
「校庭でランニングしてるのが、二年生の達也君とその門下生だよ」
俺は、バイクを降りて横浜陰茎学園の校庭を見渡す。柔道着姿の数十人が裸足で校庭のトラックを走ってた。エッホ! エッホ! と先頭を走ってるのが、達也って二年生か。俺くらいデカいな。まあ、一安心だな。
「お兄ちゃん、飛平君、瀬名君に会ってく?」
「そうだな、顔くらい出してくか」
「俺はいいや、鈴木だけで行ってくれ」
「なぜだ?」
「ハンズフリーで通信が入った、呼び出しだよ。事務所に戻らないと」
「コキ使われてるんだな」
「まあそんなとこ。じゃあね、鈴木、米子ちゃん」
ブオン! コォァーーン! 飛平がアクセルだけで向きを変え、そのまま直線を爆走していった。何しに来たんだ、アイツ。まあ、誘ったのは俺だが。
米子が携帯電話をいじってる。瀬名を呼び出してるのだろう。
「今、授業中だから直ぐには来れないよ」
「そうか。じゃあ、昇降口で待たせてもらうか」
「バイクはサッカー部部室前に停めといて」
「懐かしいな」
俺は、バイクのギアをニュートラルに入れて、バイクを押してサッカー部の部室前に停めた。米子は校内に行ったのだろう、後ろ姿が見えた。
俺も昇降口に向かう途中、校庭に目を遣るとブッ千切りだ。柔道家は体力がある。デカい奴が周回遅れを追い越してる。
俺は、昇降口に入る。すると、1人の男子生徒が俺に近付いてくる。
「おい黒人、お前留学生か? 図体だけはでけえな」
ピキッ! 殺そうかな、コイツ。まあ、一年生か二年生なんだろう、俺を知らなくて当然だ。
「死にたくなければ去れ」
「てめえ殺すぞ」
「やってみろよ」
シュッ。拳に蚊が止まりそうなくらい遅いパンチだ。バキッ! 俺はガキの顔面にカウンターパンチを喰らわせた。勿論、手加減して。
「イテー! この野郎ー!」
「その程度か? 横浜陰茎学園も弱くなったようだな」
「こうなりゃ本気出してやる。石破天驚流……」
瀬名と同じ流派、石破天驚流か? こりゃ一発カマすか。
ズドン! ガシッ! ガキが構えてから石破天驚流を使おうとした時、俺は片手でガキの手首を掴み、徐々に握力を強めていく。
「イテテ! ぐぅー!」
「お前、石破天驚流紛いか? 瀬名は遥かに強かったぞ?」
「こ、降参します! すみませんでしたー!」
「手首を千切ってやろうか」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「そこまでだ、鈴木!」
瀬名の声だ。俺は手を緩めるとガキは逃げて行った。ガキは俺に勝てると確信したんだろうが、センターフライだったな。
「懐かしいな、瀬名」
「うちの一年坊をいじめないでくれ。あれでも暴力少年団っていう暴走族のメンバーだった奴だよ」
「聞いた事があるチーム名だ、中坊の集まりだよな」
「多少は活きが良いだろ。で、鈴木はわざわざ顔を出しに来ただけか?」
「色々聞きたい事もあるが。さっきのガキは本当に石破天驚流を使えるのか?」
「当然、使えない。石破天驚流は殺人拳だからな、教えてるのは1人だけ。ありゃブラフだ」
「なるほど」
「聞きたい事ってなんだ?」
「そうそう、エメラダを知ってるな? 奴は何者だ」
「エメラダはマウ大に匿われてるヒュムだよ」
「という事は魔法使いか?」
エメラダは、ザ・魔法使いみたいな格好をしている。緑色の髪の毛に緑色のローブ。そして、ゆるふわ感がある。
「そうだよ、大地との親和性があるタイプ。ってか何で俺とエメラダが知り合いって知ってたの?」
「噂だ。エメラダはマウ大のある研究室に出入りしている。俺が雑用でその研究室に入った時に瀬名の話をしていた」
「エメラダと一緒にカラスが居たろ」
「ああ、間抜けそうなカラスが居て、トマトを啄んでた」
「あれはヤタガラスだよ、三本足の」
「伝説の生き物か。エメラダは敵なのか?」
「殺したい奴が居る日和見主義って言ってたな、味方みたいなもんだ。ヒュムの王族側の暗殺者が来るかもしれない。いざという時は守ってくれ」
「俺は軽々しくエメラダに近付けない。マウ大の上層部の指令なのか、キャンパス内でエメラダに護衛が付き、守られている」
「がっちりガードされてるなら安心だ」
「マキは大丈夫なのか? ヒュムの王女みたいだが」
「その辺りについては俺も分からない。本人に確認しようとしてもはぐらかされるだけだ」
「マウ大に入ったという事は味方か?」
「解らない。鈴木は、マキから目を離さないでくれ」
「善処しよう」
俺と瀬名は懐かしい思出話が尽きない。俺達は数々の修羅場を潜ってきた。天草みたいに対等な戦闘力とは違い、瀬名は一枚も二枚も上手だ。瀬名は俺より年下なのに勝てる気がしない。石破天驚流をベースとしたマーシャルアーツ、そんじょそこらの人間では心技体を極められない。だが、再戦の機会があれば闘ってみたい。それまでに俺も精進しないとな。
ーー俺の名前は飛平大谷。俺に課せられた任務はキャプテン・ジャパン、瀬名レイの身辺調査だ。鈴木には悪いが、盗聴器を付けさせてもらった。鈴木が米子ちゃんと話してる間、直径5ミリメートル、厚さ0.3ミリメートルの超極小タイプの盗聴器を鈴木に投げて付着させて、俺は呼び出しと言い訳をして電波が届く県道脇にバイクを停めて盗聴を開始する。
瀬名レイの動向調査をうちの探偵事務所に依頼したのは〝金子さん〟だ。金子さんは初代キャプテン・ジャパンで今は公安警察のインテリジェンスをやっている。金子さんも瀬名レイと同じで、白人と日本人のハーフ、目立った行動は控えたいから探偵事務所に依頼したんだろう。金子さんがなぜ瀬名レイを調べてるのかは聞かなかった。守秘義務があるからな。全一教会絡みなんだろうけど、とにかくヤバい案件だって事は分かる。




