第9話 堺の豪商
「今井宗久でおます」
「某は安倍傳二郎、これは嫡男の貴丸や」
「よろしゅう」
「村井様から聞いたんやけど、塩硝をえらい低値で商うそうでんな?」
「せや、あんさんら南蛮や明の商人からえらいふっかけられとるな」
「それはわかってるんや、どないカラクリなんや?」
「わいらは大陸の北方から入れとる」
「え!」
「詳しく言えないけどな、貴丸が説明するわ」
「バテレンから地球儀や世界地図を仕入れたやろ、複製してはる?」
「あ、ああ、イエズス会が献上したアレか、ちょいまちなはれ」
地球儀も世界地図もその頃のヨーロッパの世界観を表したもの。
東に目を向けたのは、元の進攻のせいでもある。
「これがそうやけど」
「ふ~ん」
「どないしたん?」
「ま、こんなもんやな、いろいろあったりなかったり。
ジパングがデカかったり、わかってないのかわざとなのかわからへんな」
「へ?」
「ま、ええわ、塩硝が採れるんは大陸の真ん中、ココは雨も降らん砂漠地帯や」
「雨が降らない?」
「そうや、塩硝は湿気に弱いやろ」
「それはわかるのう」
「油紙に何重も包まれて樽に入っておるな」
「火薬は塩硝と硫黄と炭で調合してるやんか。
大陸には火山が少のうて硫黄がさほど採れんのや」
「明の商人は硫黄や粗銅を欲しがるのう」
「粗銅は精製法が稚拙で金銀が採れるからやで」
「さようや、明から方法を仕入れたさかい織田様には知らせてあるわい。
秘中の秘やぞ、何処で聞いたんや?」
「まあ、ええがな、ほんで蝦夷はここやろ、大陸に近いやんか。
アイヌかて船ぐらい持ってるわ。
蝦夷錦は明から流れてくるんや」
「なるほどのう・・・硫黄と交換なんやな」
「そういうこっちゃ、南蛮も大陸もあちこちで戦が起きとる。
火薬の発明は唐の時代で元が武器にしたんやで。
元寇ではてつはうや焙烙玉が使われたやろ」
「種子島は?」
「南蛮で発明されてたちまち広がったんや。
種子島は旧式を何百倍もの値で売りたかったんやろ」
「堺でもすぐにまねとるから、和人の鍛冶屋は優秀やな」
「うう~む」
「話戻すけど、わいらも天下人の織田様と喧嘩したいわけやないんや。
他の勢力には売らんし、そのかわり便宜を図ってもらいたいことがあるんや」
「なんやろ?」
「道具や、鋸や鉋に大鉄鍋、鍛冶道具や。
腕の良い鍛冶師が移住してくれたらなおええな」
「ほんま言うとアイヌ国の安堵や」
「和人はどないするんどすか?」
「過去からいろいろ問題を起こしとるから出ていってもらいたいんや。
けど・・・もし戦になるならやっつけるで。
わいら火薬はえげつのう持ってるさかいな」
「そやろな」
「とりあえず、蝦夷の産品と欲しいものを書きだしておるんや。
麻木綿絹糸は蝦夷にはないものやからたくさん欲しい。
植物油や塩は安ければ買うわ」
「・・・シャボン?!」
手荷物から石鹸を出した。
「今井はん、硬いのも液もあるで、使ってみておくれやす。
製法も渡すわ」
「おおきに、安倍はん、織田様と面会されるよう、ワイからもお知らせするわい」
「「よろしゅうに」」