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オイナカムイ伝  作者: 日川文月
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第3話 前世

「アレが天狗山ならココは石狩湾の西端、小樽か。

あのでかいのは石狩川か。

札幌は何処いった?大湿原が水蒸気でかすむほど広がってるだけやん」


(去年の夏、黒雲の間に走る雷を見たら前世の記憶が降りてきた。

名前は湊貴志、北海道札幌市の大学4年生、新型感染病で隔離されて死んだ。

多分。

中国の研究所から漏れた生物兵器だとか騒いでいたような気がする。

そうだとしたら本当に頭にくる。

ともかく、前世の記憶でアイヌの民族衣装だとわかり、自分がオンネシと呼ばれてる3歳の子供だともわかった。


アイヌ言葉も割に普通に喋れているのは、自慢じゃ無いけど語学の才能だよな。

留学生ともすぐに仲良くなって、関西人や中国人や韓国人との会話も何となく成立してた。

みんなの会話を聞きながら「何処?何年?」と探ってきた。

母も一緒に船に乗って父が決めたという拠点に降り立ち、そこが前世の北海道小樽らしいところまでは見当がついた。

聞いた父の遭難が永禄6年だから生まれが1564年の春。

今は1568年で織田信長が活躍している頃、9月に上洛する手前か)


「坊、なんかブツブツ言って・・・こんなんでええか?」

「うん、2寸対4寸対8寸の木枠を使えば同じのを何個も作れる。

焼くなら早く乾く二つの穴ぬきも重要だよ」

「おつむええの~」

「粘土と火山砂の割合も確かめるのかや」

「うん」

「まあ、最初は試しやし」


去年、良さそうな場所を切り開いて倒した木材は一冬超えて乾いている。

剥いた樹皮も積み重ねて石を置き圧縮され平たくなった。

水辺のササ・ヨシ・ススキ・ガマも、薪用の倒木や落ち枝も大量に干した。

露頭の粘土層から掘り出した粘土と土を水で練って塗り固めた炭焼き窯が2コ、更に増やすスペースもある。


天日干しで乾いたレンガ(みなそう言うようになった)を粘土と灰を水に懸濁した釉薬に浸して再乾燥、窯に並べて焼成した。

貝焼き漆喰ときめの細かい川砂でモルタルも作った。


「できたぞ、火山砂と粘土は同じ分量が良いな、形も崩れにくい」


秋には2軒分のレンガが完成、チセの大きさは2×6間程、入り口は川下の北、垂直が不安なので四隅と中に計8本の柱を立てて縄張り、半割レンガも作って、互い違いになるように積んだ。

窓は南のロルンプヤル(上座窓)と西に2つで半間角木枠をモルタルで固めた。

屋根は伝統的な入母屋で骨組みの上にスダレを縄で縛り、断熱材のササ・ヨシ・ススキを厚く敷き詰めた上に、防水タールに浸した樹皮を縄で縛り重ね葺いた。


「前室の入り口をずらす工夫もええのう」

「考えてみたらその方が暖気を逃さんわいな。アシンル(便所)も作ったしな」

「寒いのに外に行く気はせんもんな」


前室の奥に部屋を作って陶器の瓶の上に板を渡し、たまったら捨てにいく。

捨て場は穴に板をかぶせ、いっぱいになったら埋めて隣に穴を掘る。

基本的に畑作しないので肥料にする需要も無く、穴を掘って便所小屋を建てて、たまったら移動させるのが伝統的だ。


「簾の代わりに和式の開き戸も作ってみるか」

「そやな」


船大工の息子だった猪之助が横開き戸や窓の上開き板戸をつけ、和人の知識で煮炊きが効率的にできる竈も設置した。


「坊が作った陶器の油火皿は倒れないから安全やな」

「そやな、賢いで」

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