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メタルインカーネイション  作者: 安永英梨
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エピローグ

 身体が重い。もう寝返りさえうてない。

 無数のギリュに噛まれ、彼らが持つ強い毒素に蝕まれた肉体は限界を迎えようとしている。

 ギリュの毒に対する特効薬は存在する。治らない病気ではない。私が自分の意思で治療を拒否しているだけだ。

 ルドヴィークの足音が近付いてくる。

 今朝、なんとか起き上がり一日分の食事を用意してやれた。空腹ではないはず。

 傍らにやってきたルドヴィークは、ベッドに前足をかけ私の顔を覗き込む。

「どうしたの?」

 何かをせがむような素振りはなく、ただ、じっと私を見つめている。

 彼はわかっているのかもしれない。私に最期のときが迫っていると。

「大丈夫よ。私がいなくなっても、お隣の奥さんがあなたの面倒を見てくれるそうだから」

 気怠い左腕をゆっくり持ち上げ、ルドヴィークの頭を撫でる。力無く後頭部を滑った指先が首輪に触れた。エリシュカを見つけ、この家に帰ってきてから私が誂えた手製のものだ。

 首輪に指を伝わせていくと、ひんやりと冷たく硬い感触に辿り着いた。首輪を装飾するその金属プレートに刻んだ愛しいひとの名前を、一文字ずつ、確かめるように指先を進める。

「エリシュカ、今のあなたは幸せ?」

 幸せだと思いたい。彼女が人を模した姿を捨ててまで望んだのだから。甦った記憶は、幸せな想い出だったのだろう。

 私と過ごした一時よりも――

 だから、愛玩人形でい続けるより、こうして生まれ変わる未来を選んだのだと思う。

 軽く握った右手の中には、胡桃色の樹脂がひとかけら。これも愛しい彼女の一部。

 樹脂にも記憶があれば、一緒に弔われ燃え尽きたなら、彼女の断片と溶け合える?

 ぼんやりと天井の木目を眺めながら、ポツリと呟く。

「お姉ちゃん……、そっちでもう一度会えるかな」

 優しい姉はきっと天国へ行った。私は同じ場所に行く資格があるだろうか。

「もしも生まれ変われるなら、今度はお姉ちゃんとエリシュカと私、三人一緒がいいな……、なんて、ワガママだよね……」

 最後の最後まで、報われない恋をした。幸福とは言い難い一生でも、この世に生を受けたことまで悔やむ気持ちはない。

 お姉ちゃんの妹でよかった。

 エリシュカと出会えてよかった。

 私が私として生まれてきたことを、神様に感謝しよう。

 胡桃色の欠片を握り締め、そっと目を閉じた。

               END

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