↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王を倒した翌日、勇者の俺が世界から指名手配された ~裏切った王国を追われたので、魔王の娘と戦争を終わらせます~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/60

第十話 勇者ユリウス、世界に向けて王国の罪を告発する

隠し扉の向こうにいたのは、十二歳の少年だった。

金髪に青い瞳。

王家の紋章が刻まれた首輪をつけ、薄い毛布の上で膝を抱えている。

「君がルカ・アルディアか?」

少年は頷いたが、俺の剣を見ると身を縮めた。

「勇者になれなかったら、また暗い部屋に入れられる」

「ここから出よう。剣は使わなくていい」

「勇者は怖がっちゃいけないって言われた」

「俺は魔王と戦う前、足が震えたぞ」

少年が顔を上げる。

「本当に?」

「本当だ。怖くないことと、勇気があることは違う」

首輪の裏には細い魔術文字があった。

『所有者:王家』『拒絶時:記憶矯正』

スーシャが聖印を重ね、俺が金具を断つ。

少年はようやく深く息を吸った。

だが、手首には同じ紋章の刻印が残っている。

「首輪を外しただけでは契約は消えません」とスーシャが言った。

「本人が自分の意思で拒絶する必要があります。ただ、今は術式が強すぎる。安全な場所で解除方法を探しましょう」

少年は唇を噛んだ。

「僕が嫌だって言っても、聞いてもらえなかった」

俺はしゃがんで目線を合わせた。

「今は聞く。君はどうしたい?」

「……外へ出たい」

「なら、そうしよう」

リリスが水筒を差し出した。

少年は彼女の角を見て、少しだけ手を引いた。

「魔族は悪い人だって聞いた」

「私も、人間はみんな敵だと教わりました」

リリスは水筒を床に置いた。

「飲むかどうかは、あなたが決めて」

少年はしばらく考え、自分で水筒を拾った。

その小さな動作に、俺は胸を締めつけられた。

少年にとって、選ぶということ自体が初めてなのかもしれない。

警報が鳴り、壁から回収用の鎖が伸びた。

『勇者器の離脱を確認。

強制回収を開始』

グレンが扉を支え、リリスが闇魔法で鎖を絡め取る。

スーシャは記録の写しを胸に抱えた。

「証拠は?」

「王命書と帳簿、勇者たちの名前もあります」

「よし。西の整備路へ!」

地下水路は狭く、少年は何度もつまずいた。

俺が抱き上げようとすると、彼は首を振った。

「歩ける。自分で歩きたい」

「分かった。疲れたら言え」

俺たちは速度を落とした。

追っ手の足音が近づくたび、グレンが最後尾で盾を構える。

それでも誰も、少年を置いて走ろうとは言わなかった。

地上へ出ると、王都の市場には手配書が貼られていた。

俺が魔王を倒した日に花を投げてくれた少女が、その前に立っている。

少女の母親は俺たちに気づき、子供を抱き寄せた。

「近づかないでください」

「分かりました。怖がらせてすみません」

少女が母親の腕から顔を出す。

「勇者様、悪い人になっちゃったの?」

「それを、これからみんなに確かめてもらうんだ」

俺はそう答えた。

近くでは兵士がパン屋の主人を殴っていた。

主人が手配書を剥がしたからだという。

止めに入ろうとした俺を、主人は手で制した。

「俺のことより、本当のことを言ってくれ。息子は戦争で死んだ。何のために死んだのか、知りたい」

その問いを抱えて、俺たちは大鐘楼へ向かった。

鐘楼には各地の神殿へ声と映像を送る通信魔法陣がある。

王国が戦勝を宣言するための装置を、王国の秘密を明かすために使う。

スーシャは王命書を握りしめた。

「公開すれば、私の家族も反逆者の家族と呼ばれます」

「無理はするな。俺だけでも話せる」

「いいえ。私が黙ったせいで、あなたは罠にかかった。今度は自分の言葉で証言します」

リリスも頷いた。

「私の言葉を信じない人もいるでしょう。でも、魔族にも話す権利があると示したい」

少年は鐘楼の陰から俺たちを見ていた。

「僕も話さなきゃいけない?」

「いいや。君のことは、君が決めていい」

彼は安堵したように肩を下ろした。

魔法陣に光が走り、遠くの神殿を示す点が一つずつ灯る。

「俺は勇者ユリウス。魔王を倒した翌日、国家反逆罪で指名手配された男だ」

広場に人が集まった。

「俺の言葉を信じろとは言わない。王宮の記録を見てほしい。帳簿の日付を調べてほしい。消された勇者たちの名前を確かめてほしい」

俺は石板の写しを掲げた。

「王宮は歴代勇者を追放し、その一部を新たな敵として利用してきた。戦争が終わる前に、次の戦争のための金が動いていた」

スーシャが前へ出た。

「私は聖女スーシャ。王宮に虚偽の証言を求められ、拒んで投獄されました。これが命令書です」

リリスも隣に立つ。

「私は魔王ゼルガディスの娘です。父を殺した勇者と、今は共にいます。互いの子供を、もう戦争に送らないためです」

広場から罵声が飛んだ。

「魔族の言葉を信じるな!」

「だったら帳簿を見せろ!」

兵士たちが階段を駆け上がってきた。

先頭にいたゾイド将軍が言った。

「放送を止めろという王命だ」

俺は剣を抜かなかった。

「止めるのか?」

将軍は広場を見下ろした。

石を投げる者、記録を写す者、黙って泣く者が同じ場所にいる。

「……証拠を確認するまで、誰も動くな」

兵士が足を止めた。

鐘楼の下では、パン屋の主人が血のついた口元を拭っていた。

彼は怒鳴る群衆に混じらず、スーシャの示した日付を何度も書き写している。

俺はその姿を見て、声を張り上げた。

「今すぐ信じなくていい。だが、調べることまで禁じられないでくれ」

王国の旗が風に鳴った。

その旗を守ってきた将軍が、剣を抜かずに立っていた。

放送が終わると、俺の手は震えていた。

魔王と戦ったときより怖かった。

剣なら相手の動きを読める。

言葉は届いたあと、誰のものになるか分からない。

鐘楼を降りると、古い軍服の男が帳簿の番号を隣の人へ読み上げていた。

一方で、少年を指さして「偽物の勇者だ」と叫ぶ声もあった。

俺は少年の前に立った。

「彼は何も選んでいない。責めるなら俺にしてくれ」

少年の肩が震えた。

告発のために連れ出したのは俺だ。

彼が今ここに立っているだけで、また王国に狙われるかもしれない。

「ここから離れてもいい。証言は俺たちだけで続ける」

少年はしばらく俯き、それから首を横に振った。

「今は、まだ話せない。でも……僕がいたことまで、なかったことにしないで」

「約束する」

少年がそっと俺の袖を引いた。

「僕も、いつか自分で話せるかな」

「ああ。話したくなったときでいい」

王国の手配書は、その夜も剥がされなかった。

宰相は記録を偽物だと声明で否定した。

それでも各地の神殿には、王宮の数字と消された名前が届き始めていた。

リリスが隣で呟いた。

「少なくとも、もう知らなかったことにはできません」

俺は頷いた。

真実を伝えることは、戦争を終わらせることとは違う。

だが、終わらせるための最初の一歩にはなる。

俺たちは公開した文書の写しに、検証できる日付と保管場所を添えた。

信じろと叫ぶだけでは、王国が繰り返してきた命令と変わらない。

疑う者にも確かめる道を残す。

それが、今の俺にできる告発だった。

王都の小さな印刷工房では、告発を見た若い写字工が、王宮から配られた布告と神殿の記録を机に並べていた。

父親は王国軍で戦死した。

布告には「魔族による虐殺」とある。

だが公開された輸送帳簿には、その日の王国軍の命令番号が残っていた。

「父さんが何のために死んだか、俺は知りたい」

写字工は窓の外を見た。

王宮の巡回兵が通り過ぎる。

紙を一枚隠すことはできる。

だが、それではまた誰かの父親が、都合のいい言葉に埋もれる。

彼は二枚の文書を写し、どちらも同じ壁に貼った。

「どっちが本当か、自分の目で確かめてくれ」

最初に立ち止まったのは、王宮の布告しか読んだことのない隣家の老人だった。

老人は一行目を読み、次の行へ視線を落とした。

写字工は、その間、紙を剥がさなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。