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孤得集 ――届かなかった人たち

猫じゃないふりをしている

作者: FU
掲載日:2026/05/10

人間社会に潜伏して九十七日目。


私はまだ、正体を見破られていない。


もっとも、彼らはすでに私に名前をつけている。


「おにぎり」だ。


だがそれは、敵側による私の身元についての重大な誤認である。


私の真のコードネームは夜爪三号。猫国第七情報部所属。主な任務は、人間が缶詰を備蓄しているかどうか、そして彼らがなぜ毎朝、水を浴びせられたような顔で校舎に入っていくのかを監視することだ。


現在、任務は順調に進んでいる。


ただ一つ問題がある。


最近、ある女子学生が私を家に連れて帰ろうとしている。


彼女は危険だ。


なぜなら、彼女が持ってくるささみスティックがとてもおいしいからである。


---


彼女に初めて会ったのは、大学のコンビニ前だった。


その日はよく晴れていた。私は重要な任務を遂行していた。人間の食料庫、その出入口の観察である。


人間は不思議だ。


狩りをしないのに、毎日あの透明な扉の向こうから、おにぎり、パン、牛乳、ソーセージを取り出してくる。彼らは小さな板を機械にかざす。機械が「ピッ」と鳴る。すると食べ物は彼らのものになる。


長く研究した結果、私は結論に達した。


人間は高度な供物交換技術を手に入れている。


光る板をコンビニの神に捧げることで、サンドイッチを授かっているのだ。


これは重大な情報である。


報告書にまとめようとしていたところ、例の女子学生が私の前にしゃがみ込んだ。


薄い色の上着を着て、風で髪が少し乱れている。手にはささみスティックを持っていた。


「ねこちゃん、食べる?」


私はその場で警戒した。


第一に、私はねこちゃんではない。


第二に、ささみスティックは非常に怪しいにおいがする。


第三に、非常に怪しいささみスティックは、たいてい非常にうまい。


専門の諜報員として、私はまず敵方資源に接近し、毒性の有無を確認することにした。


私は近づき、一口かじった。


毒はなかった。


とてもうまかった。


その瞬間、私は理解した。彼女は私を買収しようとしている。


顔を上げると、彼女は笑っていた。


「なんでそんなに真面目な顔してるの。仕事中みたい」


私は内心ぎくりとした。


この人間、ただ者ではない。


私の職務状態を見抜いたのだ。


私はすばやく三歩下がり、安全距離を確保した。


彼女はまた笑った。


「明日も来る?」


私は答えなかった。


諜報員は行動予定を軽々しく明かさない。


だが翌日、私は来た。


情報収集には継続観察が必要だからである。


決して、ささみスティックのためではない。


---


三日目、彼女はまた来た。


四日目も来た。


五日目には、私がコンビニ前に着くより先に、彼女がベンチに座って待っていた。


非常に危険である。


私の行動経路が敵に把握されているということだ。


私は彼女の背後に回り、花壇の縁から潜入し、彼女が何をしようとしているのか観察した。


彼女はスマホを見ていた。画面には文字がたくさん並んでいる。しばらく読んでから、彼女はため息をついた。


人間はため息をつくとき、肩が少し落ちる。


雨に濡れたしっぽみたいに。


私はベンチに飛び乗り、彼女の横に座った。


彼女がこちらを向く。


「来たんだ、おにぎり」


私は訂正した。


「にゃあ」


意味は、違う、おにぎりではない、夜爪三号だ、である。


当然、彼女には通じなかった。


彼女はささみスティックの袋を開け、私に差し出した。


私は食べた。


彼女の交流意欲を損なわないため、私は誤った呼称の継続使用を許可することにした。


彼女が手を伸ばして、私の頭をなでた。


本来なら避けるべきだった。


しかし、彼女の手のひらは温かかった。


だから避けなかった。


これは敵方の体温情報を収集するためである。


彼女は私の頭をなでながら、小さく言った。


「今日も寮に帰りたくないな」


私は彼女を見た。


彼女は続けた。


「あそこ、うるさいの。みんな悪い子じゃないんだけど、それでもうるさい」


私はよく分からなかった。


猫の群れがうるさければ、私たちはたいてい別の屋根へ移動する。


人間はそうはいかないらしい。


彼女は私を見て、ふいに聞いた。


「君も一人なの?」


私は衝撃を受けた。


もちろん私は一人ではない。


私は一匹の猫である。


だが彼女の声はとても軽く、今それを訂正するのは適切ではないと判断した。


私はただ「にゃあ」と鳴いた。


彼女は笑った。


「そっか。分かるよ」


違う。分かっていない。


でも笑った顔はさっきより少し楽そうだった。


だから、それ以上は説明しなかった。


その夜、私は猫国本部に報告書を提出した。


---


猫国第七情報部 外勤報告 097


観察対象:コンビニ前の女子人間。

行動特徴:定期的な給餌。頭部接触に長ける。こちらの行動経路を把握している疑いあり。

危険度:中〜高。

備考:彼女はため息をつく。ため息をついているときは攻撃に適さない。

追記:ささみスティックは非常にうまい。本部で研究すべき。


---


本部からの返答はなかった。


これは普通のことである。


猫国本部はたいてい忙しい。


あるいは、私がまだ正しい報告書の提出方法を見つけていない可能性もある。


現在、報告はすべて心の中に記録している。


心の中は非常に安全だ。


眠ってしまわない限り。


眠ると、いくつかの報告書はよだれとして漏れることがある。


---


彼女は大学三年生で、よく図書館へ行く。コンビニではおにぎりを買うのが好きだ。いちばんよく座るのは校舎裏のベンチで、そこは午後には日が当たり、夜には風が通る。人間が長居するにはあまり向いていないが、猫にはかなり向いている。


私は彼女を尾行し始めた。


もちろん、監視任務のためである。


彼女が図書館へ行くと、私は図書館の入口までついていった。


入口には札があった。


ペット入館禁止。


私は長いあいだ、それを見た。


まず、私はペットではない。


次に、私は諜報員である。


さらに、この札は非常に失礼である。


私は側面のドアから潜入を試みた。失敗した。窓台からの潜入も試みた。これも失敗した。最終的に、私は図書館前の階段に伏せて彼女を待つことにした。


長く待った。


日なたが階段のこちら側からあちら側へ移動した。


二回眠り、目が覚めると、彼女がようやく出てきた。


私を見た瞬間、彼女の目が少し明るくなった。


「待っててくれたの?」


私は立ち上がり、たまたま通りかかっただけというふりをした。


彼女はしゃがんで私の頭をなでた。


「ありがとう」


なぜ感謝されたのか、私には分からない。


私はただ階段で寝ていただけだ。


人間は本当に、感動しやすい生き物である。


その日、彼女は寮に戻らず、私を大学の裏手にある小さな東屋へ連れていった。


「ここ、私の秘密基地なんだ」


私はすぐ緊張した。


人間が自分から拠点を明かす場合、それは私を非常に信頼していることを意味する。


または、警戒心が非常に低いことを意味する。


どちらにせよ、監視を強化する必要があった。


東屋のそばには一本の木があり、根元には葉がたくさん落ちていた。彼女は石のベンチに座り、鞄を横に置いた。私はベンチの反対側へ飛び乗り、適切な距離を保った。


彼女は言った。


「おにぎり、私、失恋した」


耳が少し動いた。


失恋。


人間によく見られる病の一種である。


観察によれば、症状には、食欲低下、スマホ凝視、ため息、突然の散髪などがある。


「恋愛だったかっていうと、そうでもないんだけど。私が好きで、相手は知らなくて。後から知ったけど、特に何もなかった」


私は分からなかった。


彼女は両手を膝の上に置き、指を絡めていた。


私は近づき、頭で彼女の手の甲に触れた。


彼女は少し驚き、それからそっと私をなでた。


「慰めてくれてるの?」


違う。


これは猫国外交儀礼である。


ただ、彼女の指はもう絡まっていなかった。


効果は悪くないと判断した。


---


それから、私の任務は複雑になった。


人間の食料庫だけでなく、彼女も監視しなければならなくなった。


彼女は朝に講義へ行き、昼に学食へ行き、午後は図書館へ行き、夜になると遠回りして東屋に少し座った。誰かと一緒に歩くときは、自然に笑っていた。一人で歩くときは、見えない紐に引かれているみたいに足取りが遅かった。


私は彼女の規則性を把握し始めた。


試験前にはコーヒーを二本買う。

気分が悪いときは、いちごミルクを買う。

本当に落ち込んでいるときは、何も買わず、コンビニ前でぼんやり座る。


それは心配だった。


食べないと、すぐ愚かになるからだ。


それで私は、彼女がぼんやりしているときに現れるようにした。


ある日、彼女はベンチに座り、スマホの画面が消えているのに動かなかった。


私は飛び乗った。


彼女は私を見た。


「どうして毎回、私がここにいるって分かるの?」


私は心の中で思った。君の行動経路が固定されすぎている。対諜報能力が低すぎる。


彼女は言った。


「君って、実は人を守れる猫なの?」


私は「にゃあ」と答えた。


意味は、違う、私は専門の情報員である、だ。


彼女は私を抱き上げた。


本来なら直ちに離脱すべきだった。


しかし彼女は、とても注意深く抱いた。


腕が少し震えていた。


私は一時的に離脱を見送ることにした。


敵方の情緒が不安定な状態で強行離脱すると、局面が悪化するおそれがある。


これは専門的判断である。


決して、彼女の腕の中が温かかったからではない。


---


大学の人間たちは、少しずつ私を認識し始めた。


彼らはよく私を指さして言う。


「おにぎり来た!」


「今日のおにぎり、触らせてくれるかな」


これは深刻な情報漏洩である。


この大学には巨大な監視網が存在し、私の行動経路を公開している疑いがある。


しかし彼らは、自分たちが猫国の諜報員を見物しているとはまったく気づいていない。


つまり、私の偽装は非常に成功している。


彼らには、私はただかわいいだけに見えている。


かわいい、は強力な保護色である。


副作用はある。


腹を触られることだ。


---


彼女は本気で私を連れて帰ることを考え始めた。


最初は探るように言った。


「おにぎり、冬休み、うちに来る?」


私は即座に彼女の膝から飛び降り、花壇の中へ隠れた。


危険すぎる。


人間の住居に入るということは、行動の自由を失うことを意味する。

行動の自由を失えば、大学内の監視任務が遂行できない。

大学内の監視任務が遂行できなければ、ささみスティックの供給変化を猫国が即時に把握できなくなる。


彼女は花壇の外にしゃがみ込んだ。


「嫌かあ」


私は黙った。


「そうだよね。君は自由な猫だもんね」


少し、気分が変だった。


私は自由な猫ではない。


組織を持つ猫である。


私は口にくっついていた葉っぱを一枚、彼女の足元に置いた。


彼女は葉っぱを見下ろした。


「くれるの?」


私は顔をそむけた。


本当は、道で口にくっついただけのものだった。


けれど彼女はとても嬉しそうだった。


「ありがとう」


彼女はその葉っぱを本に挟んだ。


人間は本当に不思議だ。


一枚の葉っぱで喜ぶし、一通のメッセージで一日中落ち込む。


猫国が人間を支配するなら、この点は重点的に研究すべきである。


---


学期末が近づくと、彼女は忙しくなった。


試験の準備をし、レポートを出し、寮を移り、インターンの面接にも行かなければならなかった。毎日、歩く速度が速くなり、コンビニに寄らない日もあった。


私は最初、もう彼女に必要とされていないのだと思った。


だから校舎横の植え込みに隠れ、ただの巡回のふりをした。


彼女は二日間、私を探した。


三日目、東屋で私を見つけると、ほっと息をついた。


「どこ行ってたの」


「にゃあ」


秘密任務だ。


彼女はしゃがみ込んで私を見た。目が少し赤かった。


「いなくなったのかと思った」


私は黙った。


人間は面倒だ。


自分たちはあちこち歩き回るのに、猫が歩き回ることは許さない。


彼女はそっと私の頭をなでた。


「おにぎり、私、引っ越すんだ」


私は顔を上げた。


「インターン先が少し遠くて、これからは毎日大学に来られないかもしれない」彼女は言った。「連れて行きたいけど、嫌かなって」


東屋を風が抜け、木の葉がさわさわ鳴った。


私は初めて彼女に会った日のことを思い出した。コンビニ前でしゃがみ、ささみスティックを持って、食べるかと聞いてきた彼女。


あのとき彼女は危険だった。


今も危険だ。


なぜなら、私の監視範囲から離脱しようとしているからである。


これは重大事態だ。


私は決断しなければならなかった。


その夜、私は長い報告書を書いた。


---


**猫国第七情報部 外勤報告 128**


対象女性、居住地点を移転予定。

追随しない場合、長期観察対象を失う。

対象の情緒状態は不安定だが、明らかに改善傾向にある。

本猫による継続監視が関与している可能性あり。

提案:対象に同行し、新区域での長期潜伏任務を継続する。

危険:飼われる可能性。

利益:ささみスティック。

結論:危険は管理可能。

潜伏地点移転を申請する。


---


本部はまた返答しなかった。


私は黙認されたものと判断した。


---


引っ越しの日、彼女はキャリーバッグを持って私を迎えに来た。


薄いグレーのキャリーバッグで、中には柔らかいクッションが敷かれていた。


私はその周りを三周した。


罠に見える。


ただし、罠の中は柔らかい。


彼女は私の前にしゃがみ、小さく言った。


「嫌なら無理には連れていかないよ」


そう言うとき、彼女は笑った。


けれど私は、彼女がキャリーバッグの持ち手を強く握っているのを見た。


人間はいつもこうだ。


口では無理にしないと言う。


手はとても正直だ。


私はキャリーバッグに入った。


飼われたからではない。


長期潜伏任務が新段階に入ったからである。


彼女は笑った。


ファスナーを閉めながら言う。


「おにぎり、帰ろう」


私はバッグの中できちんと座った。


帰る。


重点研究が必要な新しい言葉である。


---


彼女の部屋は広くなかった。


だが窓台があった。


柔らかいクッションがあった。


猫缶が一箱まるごとあった。


私は即座に判断した。敵方資源は十分。長期潜伏に適している。


彼女は私を外へ出し、おそるおそる言った。


「今日からここが君の家だよ」


私は部屋の中央まで歩き、周囲を見渡した。


それからソファへ飛び乗った。


さらに窓台へ飛び乗った。


外には木がある。


木には鳥がいる。


よい。


この拠点は戦略的価値を有する。


夜、彼女は机に向かって何かを書いていた。私は窓台に伏せ、彼女を見ていた。彼女はしばらく書くたびに、こちらを振り返った。


「おにぎり」


私は動かない。


「おにぎり」


それでも動かない。


彼女は笑って、また下を向き、続きを書いた。


少しして、小さな声で言った。


「君がいてよかった」


耳が動いた。


その言葉はよく分からない。


猫は当然、重要である。


私は窓台から下り、彼女の足元まで行って伏せた。


彼女は私の背中をなでた。


私は逃げなかった。


「そばにいてくれて、ありがとう」


私は目を閉じた。


そばにいる?


違う。


これは監視である。


長期、近距離、高強度の監視である。


だが彼女の手は軽く、灯りは温かかった。


私はひとまず訂正しないことにした。


---


猫国第七情報部 外勤報告 999


本猫は対象人間の住居への潜入に成功した。


対象住居は広くないが、安定した食料、水、窓台、暖かい灯り、そして継続観察を必要とする人間一名を備えている。


彼女は決まった時間に食事をする。

夜には私に「おやすみ」と言う。

悲しいとき、私の毛に顔を埋める。

この行為は任務効率に影響する可能性がある。

ただし、現時点では許容範囲内である。


人間は非常に壊れやすい。

返信が来ないだけで落ち込み、雨が降るだけでいろいろ思い出し、猫がキャリーバッグに入るだけで泣く。


猫国はこの生物を真剣に扱う必要がある。


彼女たちは、一人で長く暮らすのにはあまり向いていない。


以上の理由により、本部には当面、他の猫を交代要員として派遣しないことを提案する。


現場は複雑である。


私一匹で対応可能だ。


報告終了。


――夜爪三号


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