第58話:二人も一緒に
◆◇◆◇ Side:森羅 鏡花 ◆◇◆◇
霧島さんに続いてダンジョンゲートをくぐった私の目に飛び込んできたのは、想像とかけ離れた光景でした。
「き、綺麗……」
そこには草原が広がっていました。
澄み渡る空。
頬を撫でる風。
春先のような心地よい日差しが少し眩しい。
「うわっ!? フィールドタイプじゃない!?」
少し遅れて入ってきた三上さんがあげた驚きの声で、我に返りました。
そうだ。ここ、ダンジョンなんだ……。
「これがフィールドタイプ……」
知識の上では知っていました。
再現した映像も資料で見たことがあります。
でも、実際に入るのはもちろん初めてです。
まさかここまで気持ちのいい場所だなんて……。
ダンジョンに入ってこんな気持ちになるなんて想像していませんでした。
そんな風にちょっとした感動を覚えていると、突然霧島さんが畏まった態度で……。
「ようこそ。我がダンジョンへ」
と言って、胸に手をあててお辞儀をしてくれました。
本当にどこかの避暑地に招待されたような気分です。
「あはは。うむ。なかなか良いところではないか」
「お気に召したようでなにより」
三上さんが乗っかって慇懃な態度で答えているのが可笑しい。
「ふふふ。二人ともなにしてるんですか~」
「いや。なんかここに誰かを招待するのなんて初めてだからさ。ダンジョンって感じでもないだろ?」
それはそうですよね。
ここがダンジョンってことを本当に忘れそうになります。
「そんな台詞が出るってことは、ほんとにこのダンジョンを掌握してるのね」
「掌握と言っていいのかわからないけど、管理者だからな」
「管理者……なんかダンジョンの管理者というより、別荘地の管理人って感じがするのは私だけ?」
三上さんの言葉に霧島さんがちょっと苦笑いを浮かべています。
でもごめんなさい。
私もちょっと共感してしまいました。
本当にここは避暑地のように気持ちの良いところだから。
それに……。
「霧島さん、あの遠くに見えるログハウスって……」
だって、低い丘の上にログハウスが建ってるんですよ?
なんの冗談かと思って一瞬目を疑いました。
「はははは。せっかくだから土地を有効活用しようかと思って頑張って建てたんだ」
ダンジョンの中だと重機なくてもなんとかなるかと思ってとか、発想がなんというか……すごく、柔軟ですよね。
「私、ちょっと霧島さんの見方を変える必要があるかもー」
「え!? どうしてだ? こんないい場所放って置くなんて勿体ないだろ? しかもここ、外の一〇倍の早さで時間流れてるから、週末の休みだけでヨーロッパの大型休暇並の休みを過ごせるんだぞ?」
んんん!? 霧島さん、今なんて言いました!?
「え!? うそ!? もしかして時間の流れも設定できるの!?」
「当然できるぞ? 管理者だからな!」
「当然って……ぁ~そう言えば、こないだのダンジョンでも最後の方はこんな感じだった気がするわね。こっちが素の霧島さんってことか~」
今でもすごくしっかりされた方だと思っていますけど、どこか飄々としていて、それなのになんだかちょっと安心感を感じる。そんな不思議な方ですね。
「そんなこと言われてもな。どうせ秘密を明かすことにしたんだから勿体ぶっても仕方ない」
「そうだけどさ! 極端すぎ……ん? え!? なに!?」
「きゃっ!?」
そんな風に話していると、足元の青々と茂った草原が突然闇に覆われました。
え!? これは……影?
光を遮るものもない、こんなに明るい場所に?
「あぁぁ!? 落ち着いて! 大丈夫だから!」
霧島さんが大丈夫というのならきっと大丈夫なのでしょうけど、なにか大きな魔力を感じ、緊張が走ります。
探索者は僅かに魔力を感じることが出来るようになるのですが、ここまでの感覚はまるであの異邦人と対峙した時のようです。
この圧倒的なまでの魔力はいったい……?
「だいふく~!!」
え? だいふくって、だいふくちゃん? と疑問に思っていると……。
「ばっふぅぉ~ぉん!」
だいふくちゃんが……なんというか、とても、とても個性的な遠吠えをあげ、影の中から回転しながらせり上がってきました……。
いったい何が起きてるの?
これ、霧島さんじゃなくてだいふくちゃんがやってるの?
「はぁ~……仕方ない。最後にしようと思ってたんだが、先に改めて紹介しておくよ。このダンジョンのフィールドボスをやっているだいふくだ」
「は……? 今なんて?」
「ふぃーるど、ぼす?」
「だから、このダンジョンのフィールドボスをやってるだいふくだ」
言葉は理解できるのに、意味が理解できません。
だって、だいふくちゃんはどこからどう見ても普通の……ちょっとだいぶまん丸だけど、普通のパグです。
「え? ちょっと待って!? じゃぁこの子はダンジョンでポップした魔物ってこと?」
「違う違う。だいふくは元々普通の犬だったんだ。それがまぁ、いろいろあってな」
そこから語られるお話は、俄には信じられないようなちょっとふざけたような話でした。
吠えたからそれが了承ととられたって……。
ちょっとダンジョンの見方が変わりそうです。
「それでもまぁ、見た目も全然変わってなかったし、元々外の存在だからか普通にダンジョンの外にも出られるし、ひとまずは大丈夫だろうと思ってたんだが……」
「大丈夫じゃなかったと?」
霧島さんは盛大に溜息を吐いた後、苦笑しながら話を再開しました。
「最初、まだダンジョンの管理がどこまで出来るかわからなかったから色々と検証してたんだ。それで、その時にスライムを数匹配置していたんだよ。そしたら、どうも知らないうちにそれをぷちぷちひたすら倒すのにハマってしまっていたようでな……」
「ばぅ♪」
「なんか時間を忘れてぷちっと無心でやってしまうそうだ」
あ、あれですか? あの梱包で包むぷちぷちをつい全部つぶしてしまいたくなるような?
い、いや、でもスライムって結構打たれ強いはずなのにと思って疑問をぶつけてみると……。
「そこはほら、フィールドボスになった時に実際はかなり強くなっていたみたいなんだ。でもこいつ、普段からだらだらするの大好きなもんで全然気付かなくて……」
「なんか霧島さんも苦労してるんだね……。でも、それだけでここまでの強さにはなれないわよね? さっきお店で会った時と違って、今ものすごい威圧を感じてるんだけど……」
「あぁ、ダンジョンの外では威圧を抑えるように言ってあるんだ。それで強さの秘密は……だいふく、眷属を呼んでくれ」
「ばっふぅぉ~ぉん!」
だいふくちゃんが変な……じゃなくて個性的な遠吠えをすると、周りに五つの魔法陣が現れました。
「「「わふぅ!」」」
そして、魔法陣から勢いよく飛び出てくる五匹のコボルトたち。
一見するとただ黒い大きなコボルトのようにも見えますが、この五匹からもだいふくちゃんに並ぶような強大な魔力を感じます。
「ちょっ!? アビスコボルトってS級ダンジョンクラスの魔物って言ってたよね? それをこんなに……」
私もですが、驚き過ぎてもう頭がついていきません。
「あぁ、オレなんて一方的に攻撃させてもらっても、未だに一撃も入れられないからな」
「ん? あの……もしかしてですが、アビスコボルトを相手に模擬戦的なことをしてるんですか?」
「そうだ。だいふくもこの眷属を相手に特訓して強くなっていったようだから、それを見習ってな。そして……ここからがオレからの提案だ」
な、なんでしょう? すごく嫌な予感がします。
「これからこのダンジョンで……二人も一緒に特訓しないか?」
「「………………え?」」
大変お待たせしました!(汗)
WindowsUpdateで執筆に使っていたPCが起動しなくなり、復旧に手間取ってしまいました;
これからまた更新再開するのでよろしくです!
ただ……ストック数話が全部下書きに巻き戻ってしまったので、
2-3日に1回更新ぐらいのつもりでお願いします……。




