14-29 帰宅
大変お待たせしました。
本日もよろしくお願いします。
「ルルパパ、ありがとうございました!」
「ああ、ゆっくり休むんだよ」
「また明日デース!」
「じゃあねー!」
ルルパパが運転するバンから降り、命子は門扉を開く。
修学旅行を無事に終え、命子は自分の家に到着。
敷地内に入ると、玄関が開いて命子ママが出てきた。
「あらー、行っちゃったの」
どうやら、ルルパパに送迎のお礼を言おうとしたようだ。
「ただいま」
「おかえり。楽しかった?」
「うん。お土産届いた?」
「たくさん届いたわよー」
そんな話をしながら、家の中に。
夜の暗さから明るい家の中に入り、帰ってきたと感じたのも束の間、光子がぎゅーんとコーナリングをかまして飛んできた。まるでフローリングで足を滑らせながらお迎えに来る犬のよう。
「みっちゃん、ただいま」
『やーっ!』
光子は命子の龍角に抱き着き、数日ぶりに命子の魔力を吸収し始める。
命子はそれを放っておき、居間へと入った。
「ただいまー」
「おかえりー」
「おかえり、命子。楽しかったかい?」
「めっちゃ楽しかった!」
家族も命子の無事の帰宅を喜んで、久しぶりの一家団欒。
「珍しく事件を起こさなかったじゃん」
「やだなー、モモちゃん。そう毎回起こしませんって!」
「まあ、ルルさんとメリスさんは話題になってたけど。中学でもみんな見てたよ」
「今回は珍しくささらじゃなかったんだよねー」
「あー、ささらさんは絡まれ体質だしね」
萌々子からもそんな認識である。
命子はそんな雑談をしつつ、居間の隅に置かれたお土産を漁る。紙袋や木の箱、プチプチで巻かれた物など、かなり多い。これが財力を持ってしまった女子高生の修学旅行の結果である。
「なにをそんなに買ったんだい?」
「みんなのお土産。あっ、これだ」
命子はオシャレな箱を萌々子に渡した。
「これ、モモちゃんへのお土産ね」
「えーっ、それ私のだったの。なになにぃ?」
花柄のオシャレな箱で、これまた綺麗な帯で封がされている。
光子も気になるのか命子の頭から飛び立ち、萌々子と一緒に箱の中身に注目する。
帯を解いてフタを開けると、中には白いマフラーが入っていた。両端に桃の花が控えめに散りばめられており、若干大人びた印象はあるものの、なかなかに素敵だ。
「わぁ、ありがとう!」
「なかなか良いでしょ」
命子はえっへんと胸を張った。
まだ12月なので、今冬はまだ2、3か月ほど使えるだろう。
さっそく萌々子が巻いてみると、その中に光子が潜り込み、上半身を出して謎のキリリ顔を見せる。2人共、気に入ったようだ。
「お父さんたちにはこれね」
「おっ、俺たちにも買ってきてくれたのかい?」
命子パパとママにもマフラー。
「みっちゃんにはこれ!」
『やう? やーっ!』
光子にはお土産屋さんで見つけたキャラ物のご当地スタンプセット。
それを受け取った光子は、すぐにお絵描き帳をテーブルに運び、ペッタン! 仕上がりを見て、ふぉおおお、みたいな顔をした。
「こっちは青空修行道場で、こっちは修行部のね。いっぱいいるから、勝手に食え方式」
「ずいぶんと買ってきたわね」
「このくらいしかお金を使う機会がないからね」
世の中にはお土産を買うのが好きな人がいるが、命子はまさにそれだった。
「自分のは買ってきたのかい?」
「うん。これ!」
命子は旅行鞄から例の和風カーディガンを取り出した。しっかりと畳んでビニール袋で保護している。
「あっ、それ動画で着てたヤツ!」
「まあっ、凄く素敵ねー!」
風女の生徒は配信やSNSが趣味みたいな生徒が多いので、命子は映像に映り込むことが度々あった。
「京都の方で流行ってるの。しかも、これ、お店の人が私たちをイメージして作ったヤツなんだって」
「へえ。着てくれる確率なんて凄く低いのに、そんな奇特な人がいるんだね」
「職人ってのはそういう生き物なんじゃない? サッカーや野球に感動して、なんか作ったりしてさ」
「そうかも」
命子は制服の上に着て、この旅行で完全にマスターしたぶわりを披露した。
「めっちゃ良いじゃん!」
「でしょー! しかもこれダンジョン装備だから結構暖かいんだよ」
命子は、そんな自慢をしたり修学旅行の話をしたりして、久しぶりの団欒を過ごした。
翌日。
本日は振替休日。遊びみたいなものなのに振替休日も貰えてしまうのだから、修学旅行と体育祭と文化祭はなんぼあっても良いものだと命子は思う。
とはいえ、世の中は平日である。
紫蓮や中学生たちは学校なので、お土産渡し会はまた後で行うとして、午前はイヨと一緒に過ごすことにした。
現在のイヨは自衛隊駐屯地のすぐ近くに住んでいる。
いまの風見町は土地があれば使いたいという状態なのだが、この場所は風見町の名士・笹笠家所有の土地で、割とすんなりと2つの家が建った。片方はイヨの家で、もう片方はお手伝い兼SPの宿泊所だ。
2階建ては持て余すというイヨの意見で、造りはどちらも平屋。周囲は生垣で門はなく、その知名度とは裏腹にセキュリティは人力の面が強い。
生垣の中で、ゴザに座った巫女姿のイヨが練炭に向かって何やら作業をしていた。作業の様子をイザナミが見学し、さらにその様子をスマホのレンズがジーッと眺める。
「イヨちゃん、イザナミ、来たよー」
「むっ、命子様。おかえりなのじゃ」
『なんなん!』
「ただいまー」
「命子様が来たのじゃ」
イヨがスマホに向かってそう言う。生配信中らしい。
「なにやってんの?」
「これは矢を作っているのじゃ」
「へえ!」
イヨはそう言いながら練炭で竹を炙り、切れ目が入った板で扱いて真っ直ぐにしていく。
「え。イヨちゃんの矢って自分で作っているんじゃないよね?」
「うむ。いつものは買っているヤツなのじゃ。そっちのが強いしの。今日は矢を作る生配信なのじゃ」
「配信用!」
命子が気になって自分のスマホでイヨのチャンネルを見てみると、まだ9時だというのに150万人が見ていた。学術的にも世界的に注目されている人物なので、見ているのは日本人だけではない。時差で現在夜の地域の視聴者が多いのだろう。
「昔もこうやって作ってたの?」
「道具はもうちっと拙い物だったがの、大体こんなものなのじゃ。尤も、妾はほとんど作らんかった。村の者が作ってたのじゃ」
「へえ」
「村の者がたくさん作ってきて、妾たち龍の巫女がそれらに祈祷をするのじゃ。その祈祷のお礼に矢を少し分けてもらうのじゃ」
「なるほどねー。わっ、すげー。ちゃんと真っ直ぐだ」
「竹はこうやって炙ると歪みなく真っ直ぐになるのじゃ」
「手間だったんだねー」
「なのじゃ。全部手作りだったからの、みんな物を大切にしておったのじゃ」
若い女子がしているとは思えない会話。
「それで、朝からどうしたのじゃ?」
「私の用事は後ででいいよ。どのくらいかかるの?」
「うーむ、1時間くらいなのじゃ」
「じゃあ、お庭貸してよ。修行してるから」
「わかったのじゃ。でも、あんまり風は起こさんでほしいのじゃ」
「オッケー」
ずっと見ているのも暇なので、命子は庭の隅で修行をして過ごすことにした。
イヨから少し離れ、さあどんな修行をしようかと考えていた時である。
チュンチュン、チュンチュン。
数羽のもこもこ羽毛のスズメが囀りながら、作業をするイヨの近くに飛んできた。
「森の聖女やん」
その姿に、思わず命子はそんな感想を呟いた。小鳥も訪ねてくる、これが龍の巫女。
しかして、次の瞬間、イヨの周りで無邪気に囀っていたスズメさんに魔の手が迫る!
イザナミでもそこらの野良猫でもない、他ならぬイヨが目にも留まらぬ速さでスズメさんを掴んだのだ。
命子は「えーっ!?」、仲間のスズメさんも「えーっ!?」みたいな顔。
「命子様はスズメを食うかえ?」
「いーやいやいや! 日本は許可をもらわないとスズメは食べちゃダメなんだよ!」
「ほう、そうなのか。昔はよく食べたものなのじゃがのう。こう見えて、こやつらは結構美味いのじゃ」
「逞しすぎるよ! 現代っ子のスズメさんもポカーンってしてんじゃん!」
「まあ食う物はいっぱいあるからの。ほれ、お主、命拾いしたの」
イヨはそう言ってスズメさんをペイッとゴザの上に転がした。
転がされたスズメさんに、仲間スズメさんがチョコチョコと慌てて駆け寄る。ついでにイザナミも駆け寄る。転がされたスズメさんは羽を広げ、わたわたとし始めた。
「チュンチュン!」
『なんなん!』
「チュチー!」
『なーん!』
スズメさんたちとイザナミが今のヤバい出来事を熱く語る。その横ではイヨが知らん顔で竹を炙る。
「うーん、これは森の聖女」
命子があんなことしようものなら、スズメたちはすぐに逃げてしまうだろう。
そんなハートフルでバイオレンスな光景が全世界にお届けされ、古代の巫女への畏怖が少し上昇。
スズメが遊ぶ場所で激しく動くのも粋ではないので、命子はスキル【イメージトレーニング】で遊ぶことにした。幻影の相手と戦える便利スキルで、命子ほどの熟練者だと瞑想しながら戦闘をすることもできた。
瞑想状態に入った命子は、今まで戦ってきた強敵を相手に剣と魔導書で立ち回る。
「命子様、待たせたの。終わったのじゃ」
イヨが声をかけてきて、目を瞑っていた命子はハッとした。
「もうそんなに経ったのか」
「相変わらず凄い集中力じゃの」
見れば、先ほどまで作業していた場所もすっかり片付けられていた。スズメたちの姿ももうない。しかし、まだ配信は続けているようで、イザナミがスマホを持って、『なんなん』と電波攻撃をしながら飛んでいる。視聴者の耳は今日一日『なんなん』となる。
「さてと。イヨちゃん、今日はお土産を持ってきたんだよ」
「ほう、土産とな?」
命子は縁側に置かせてもらっていた包みを渡した。
「ずいぶんと大きいのじゃな。それに中から強い力を感じるのじゃ」
「おー、イヨちゃんは箱の外からでもわかるのか。それはね、着物みたいなのを買ってきたんだよ。京都の方で流行ってるの」
「ほう」
さっそくイヨが包みを開ける。
中からは桐の箱が出てきて、古代人のイヨにも一目で立派な物だとわかる。イザナミも『なんなん』と言いながらスマホで撮影。学者が多い視聴者たちもサプライズお土産開封にちょっとワクワク。
「ほう、これは見事な物じゃのう!」
イヨをイメージして作られたその羽織は、白と淡い緑色がグラデーションされた物で、新緑を彷彿とさせる模様が施されていた。巫女衣装の上に羽織ってみれば、丈は測ったようにぴったりだ。
「どうじゃ?」
「うん、めっちゃ似合ってる!」
『なんなん!』
これには生配信のコメントも各国の言葉で称賛が乱舞する。
「命子様、ありがとうなのじゃ!」
「ううん。いつもお世話になってるからね」
「それは妾の方だと思うが。どうじゃ、イザナミ。良いじゃろう?」
『なんなん、なーん!』
姿を変えられるイザナミも、スマホを縁側の台に置いてさっそくイヨの真似をして服装チェンジ。レンズが下を向いたので、視聴者は何が起こっているかわからない。
せっかくなので命子がそのスマホを手に取って、2人の姿を撮影した。サービスカットだ。
余談だが、桐箱には『龍眼堂』の刻印が入っており、箱の外からでも力を感じたというイヨの発言から、関西方面で有名だった龍眼堂は全国規模で有名になっていくことになる。
イヨにプレゼントを渡した命子は、イヨと一緒に帰宅。
命子が作ったインスタントラーメン味噌味を一緒に食べ、放課後の時間になると、2人は荷物を持って紫蓮が住むマンションへ。
マンションの玄関ホールで待っていた紫蓮が、命子とイヨを見るなりすぐに出てきた。
「紫蓮ちゃん久しぶりー!」
「うむ、おかえり」
眠たげな口調の紫蓮だが、とても嬉しそう。
3人で紫蓮の家に行く。
「はー、この中はこうなっておったのか。旅の時に泊まったホテルみたいなのじゃ」
「そういえばイヨちゃんって、紫蓮ちゃんちに入るのは初めてだっけ」
「うむ。こういう建物を見ると、どうなっているのか気になっていたのじゃ」
イヨは初めてのマンションに興味津々だ。
「これ、紫蓮ちゃんへのお土産ね」
「むっ、お菓子っぽくない質感」
「お菓子じゃないからね。あっ、こっちはおばさんたちと食べてね、八つ橋」
「ありがとう」
それよりも自分用のお土産に興味津々の紫蓮。
さっそく包みを開けると、やはり桐箱が姿を現す。その桐箱に刻印されている名前を見て、紫蓮が眠たげな眼をカッとさせた。
「むむむっ、龍眼堂」
「知ってるの?」
「アイズオブライフ系列で、関西の方だと最近有名なお店」
「みたいだね。あっちで偶然会った金剛さんも知ってたよ。ほら、聖姫森の」
「あー、あの人なら知っているかも。冒険者向けの和装で有名な店だし」
紫蓮は桐箱の造りからじっくりと観察し、命子とイヨは早く開けないかなと焦れた。
やっと開けると、中には薄暮を彷彿とさせる青と紫の和風カーディガンが入っていた。裾には蓮とアゲハ蝶が白い輪郭で描かれ、その周りに波紋模様が施されている。
「むむぅ! カッコイイ!」
紫蓮が珍しくテンション高く言い、命子もニコニコ。
さっそく羽織ってみた紫蓮は、すぐに裾をぶわっとした。命子と感性が同じである。
「いいじゃん!」
「おー、紫蓮殿はやっぱりそういう色がよく似あうのじゃ」
「む、むふぅ。羊谷命子、ありがとう。大切にする」
「うん、喜んでもらえて良かったよ」
褒められて照れる紫蓮だったが、すぐにそれを脱いで着物掛けに吊るした。
そして、魔眼を光らせてその様子をジッと見つめる。職人としては、自分で使うのも良いが観察して楽しみもしたいのだ。
「魔導回路が入ってるでしょ」
「うむ。さすが有名になるだけある。我も衣服でこんなに見事な装備は作れない」
「そこの人がさ、4つ子なんだよね」
それを聞いた紫蓮はハッとした。
「たぶんそれ。魂が近い者と作業するのは魔法生産において極めて重要」
魔法と魂は非常に重要な関係性にある。
例えば、バフ魔法は一切関わりのない他人には掛からないし、装備ですら長く使っている物ほど使い手の魔力のノリが良くなる。
職人が使う生産魔法もこの法則上にあり、別の人が魔法で作った物を改変するにはいくつかの手順が必要だった。現状で、服で最高級品を作るには、分業をせずに、糸から全部自分で作るのが良いと考えられている。
もちろん、これはファンタジー初心者である地球人の現状なので、そのうち革命的な量産方法が発見されるかもしれないし、実際に世界中でその研究はされている。
なんにせよ、魂が近いおかげで、龍眼堂の4つ子は分業をしても最高の品が作れるのではないかと紫蓮は考えた。
とにもかくにも、紫蓮がお土産を喜んだようで、命子はほっと一安心。
「さて、それじゃあ次は青空修行道場だね」
紫蓮を仲間に加え、その足で青空修行道場へ。
青空修行道場は今日も大盛況。
何人かの武術の達人が教えてくれるうえに、最近は命子も魔導書教室をしているので、遠方から受講しに来る人も後を絶たない。
すでに子供たちは木刀や杖で素振りをしており、真面目に取り組んでいる。そんな子供たちを、ささらたちが見て回りアドバイスをしていた。
命子はお婆ちゃんたちが集まるテーブルに近寄った。
パソコンをタタタッと操作して青空修行道場にまつわる事務処理をしたり、修行に来た人たち用のドリンクを準備したりして、お喋りをしている。いつもの光景である。
「こんちはー」
「あらよー、命子ちゃん。修学旅行だったんだって?」
「はい、京都の方に行ってきて、昨日帰ってきました。これ、お土産です」
命子はそう言って、【アイテムボックス】化されたカバンからお土産をたくさん出した。
「まあ、こりゃたんと買ってきたねー」
「人数が多いですからね。あと、これはお婆ちゃんたちにお漬物」
「ありがとうねー。それじゃあさっそく開けようかね」
などと、お婆ちゃんがプレハブの中に入っていった。
青空修行道場は市から補助金が、近隣の企業からは寄付金が貰えている。このプレハブはそんなお金で購入されたもので、中には冷蔵庫や電子レンジが置いてあり、水道もあるので、普通に住めるレベルとなっていた。
お婆ちゃんは3枚のお皿に漬物を盛って持ってくると、テーブルに置いた。命子が買ってきた物以外の漬物も盛られており、冷蔵庫の中身が年寄り仕様になっていることがわかる。
それと同時に、他のお婆ちゃんがお茶を淹れ直す。婆さんたちのコンビネーションプレイである。その連携はとても素早い。
命子はついでに八つ橋も1箱お婆ちゃんたちに提供した。
「あーこれは美味しいね」
「どれよー」
「八つ橋なんて何年ぶりかしらねー。あら、美味しい」
「わたしゃ死ぬまでもう食べられないと思っとったよー」
などとマイ湯飲みでお茶を飲みつつ、お漬物と八つ橋の品評会。
命子たちも自由使いの湯飲みにお茶を淹れてもらい、お漬物をポリポリ。
「これ美味しい」
「私が買ってきたのじゃなくて草」
「羊谷命子が買ってきたのも美味しい」
「命子様、ふにふにしたの美味しいのじゃ」
「それは八つ橋って言うんだよ」
紫蓮が美味しいと言ったのは白菜漬け。さすがに漬物を作り続けてきたお婆ちゃんたちなので、そのクオリティは高い。対して、命子が買ってきたのはしば漬けと千枚漬けだ。イヨは初八つ橋に夢中である。
「京都の方はどうだった?」
「私が行ったのは中学2年の時だったけど、いまはダンジョン街ができてて、凄く人が来てましたよ」
「あっちにもダンジョンがあるのねー」
「京都だと凄いダンジョン街になってそうねー」
ダンジョンの周りにできる経済地帯は年寄りだって知っている。というか風見町はその恩恵をモロに受けているので、知っていて当然だ。
そんなふうに世間話をしていると、道場の方が休憩時間になった。
すぐに中学生たちが自分の方へやってくるので、命子はテーブルから少し離れた。
「みんな、ただいまー」
「おかえりなさい、命子お姉様!」
萌々子の友達のクララが元気に挨拶した。1年半前に出会った時よりもずいぶんとお姉さんになった印象だ。
「みんなにお土産を買ってきたから、手を洗ったら食べてね」
子供たちはお婆ちゃんたちが用意したお菓子置き用の長テーブルに目を向ける。青空修行道場は年寄りがお菓子をたくさん持ってくるので、専用テーブルがあるのだ。
最初の頃はまさにお婆ちゃんちにあるお菓子といったラインナップだったが、最近は若者に人気のお菓子になりつつある。お婆ちゃんたちもデータを取っているのだ。
そのテーブルの上に、命子が買ってきたお土産がフタを開けてスタンバイしていた。
「あとはこれ!」
命子はカバンから束になった木刀を出した。明らかに入らない大きさだが、【アイテムボックス】を知っている子供はもう驚かない。
「木刀ですか?」
「そうだよ。カッコイイ木刀をたくさん買ってきたから、忘れちゃった時なんかに使ってね」
「ありがとうございます!」
お礼をするクララだが、みんな、自分専用の木刀や杖を持っている。そのため、これはふらりと来た時などに使うための予備の木刀になる予定である。
「わぁ、カッコイイ!」
「でしょー」
子供たちは木刀を貸してもらい、品評した。
最近の子は武器を振りまわす世代になっちゃったので、やはり武器に目がない。中学生となればなおさらだ。使う機会は少ない武器ではあるが、見ているだけで楽しそう。
「美味しー!」
「なんかお薬みたいな味ー」
「それはニッキ味でゴザル。ニッポンのシナモンみたいなものでゴザルよ。ヤチュハシに使うでゴザル」
「はえー、メリスお姉様博識ぃ」
「にゃふーっ」
「あたしもその味食べたーい!」
「あたしもー!」
などとお菓子コーナーでメリスが最近仕入れた知識を披露して、得意げな顔をしている。
木刀を見ていた子供たちはそんな声を聞いて、ハッとした。このままではお菓子を食いっぱぐれる!
木刀への興味はひとまず保留され、みんなで八つ橋を食べに行った。
旅行を終えた命子はそんな光景を見て、やっぱり地元は落ち着くなと思うのだった。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




