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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第11章

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11-14 猫神の道標

本日もよろしくお願いします。


 イヨのフォーチューブが人気爆発しているある日のこと。


 命子たちが青空修行道場に行くと、サーベル老師から連絡事項があった。


「今日は修行を始める前に少しお知らせがある。すでに午前中にいた者らには話したが、7月から夏の終わりまで、わしは少し旅行をしてこようと思う。なので、その間は各師範代が代わりに稽古をつけることになる。師範代にも都合があるので、休みになる日もあろう。まあ、わしがダンジョンに行っている時と同じような感じじゃな。迷惑をかけるが、承知しておいてほしい」


 命子たちは師範代クラスなので、すでにある程度聞いていたが、中学生は違う。クララがシュバッと手をあげた。


「どちらへ行かれるのでしょうか?」


 すっかり老師を尊敬する弟子の様相。爺ちゃんがどこへ行くのか気になって仕方ない。


「うむ、ちょっとエギリスまでな」


「さては薔薇騎士! 帰ってくるんですよね!?」


「うむ。それは安心せい。この地が一番面白いからの」


「それなら行かなければいいと思います!」


「現行の航空機は来年には飛べんじゃろう。だから、この機会に行っておきたいのじゃよ」


「ぬぅ!」


「クララちゃん、どうどう」


 唸るクララを、萌々子が窘めた。

 そんな萌々子もそろそろアリアが帰国してしまうので、寂しく思っていた。




 同じ日のことだ。


 命子たちは教授に呼ばれて、駐屯地の教授の研究室に来ていた。


「いよいよ航空機が飛べなくなる」


 教授が言った。


「マジですか」


「ああ、数日中には告知されるだろう」


「へえ、でもまだ事故って起きてないですよね?」


「チキンレースをするわけにはいかないからね。ここ数日のことだが、一般系ジョブの『飛行機乗り』をマスターしているパイロットたちから、航行中の機体に粘り気のようなものを感じるという報告が相次いでいるそうなんだよ」


「そんなのがわかるんですか?」


「君らも車の運転をするようになればわかるが、運転手は車を運転していると車体に起こる小さなことが割とわかるようになる。旅客機などは大きすぎるから今までは感じにくかったが、『飛行機乗り』をマスターしたパイロットは、今の車の例と同じような繊細な感覚を得るらしいよ」


「ほえー、カッコよす」


 これがプロかと命子は感心した。


「でも、そうすると、アリアちゃんが帰れなくなっちゃう」


「いや、アリア君は大丈夫だ」


 教授がさらりと言うので、キスミアの要人だし大丈夫なのかな、と命子は思った。


「サーベル老師のエギリス行きもキャンセルになっちゃいますわね」


 と、ささらが言った。


「エギリス? というと、フォーサイス家か。いつ行くんだい?」


「7月から夏の終わりまでって言っておりましたわ」


「7月か、微妙だね。少なくとも帰りはもう飛行機は難しいだろう」


「それ一番困るやつじゃん!」


「困りますわ!」


 命子とささらはわたわたした。

 爺ちゃん大人気だった。


「まあ森山氏のことは置いておこう。それでだ、君たちを呼んだ本題なんだが、今のうちに日本とキスミアを繋げておきたいんだ」


 教授はそう言って、命子たちにノートパソコンの画面を見せた。

 そこには猫の置物の画像が映し出されていた。


「猫神の道標じゃな?」


 イヨが言った。


「うん。調べた結果、これはキスミア産の精霊石であることがわかった」


「うむ。それは当然なのじゃ。龍道を繋ぐには、それぞれに繋げたい場所に馴染みのある物を設置しなければならんのじゃ」


「ふんふん。じゃあ、キスミアと日本を繋げるには、日本産の精霊石で作った物と猫神の道標を交換して設置すればいいわけか」


 紫蓮が言った。

 この前、フォーチューブで生放送を一緒にして、紫蓮とイヨはちょっと仲良しになっていた。


「その通りなのじゃ」


 紫蓮はふんふんとしながら納得した。


「でだ。イヨ君、日本とキスミアを繋げるのは誰でも簡単にできるのかい?」


「いや、そんなことはないのじゃ。まず、猫の国の巫女を日本に呼ぶ必要がある。これはアリア殿で良いじゃろう。アリア殿の手で龍道に猫神の道標を設置してもらい、祈祷を行なってもらうのじゃ」


 イヨの説明を教授と紫蓮がメモする。

 命子たちはポテチを食べながら、ふむふむとした。


「問題は猫の国なのじゃ。そちらへは妾が行かねばならんのじゃ。おそらく、猫の国の猫神池には術式がないと思うのじゃ」


「術式か……こういうのかい?」


 教授はそう言って、ノートパソコンで動画を再生した。

 イヨはパッと顔を明るくして動画の視聴を始めた。イヨは動画っ子になっていた。


 その動画では、龍道を使用する自衛隊の姿が映されていた。

 精霊を頭に乗せた自衛官が龍神の剣を握ると、龍道の下層部にある魂魄の泉からマナが引き寄せられた。そして、その光がワンフレームの内に消え去る。転移が終わったのだ。


「うむ、これじゃの」


「なるほど。ちなみに、アリア君が猫神の道標を設置したら、それを使ってキスミアへ転移することは可能かい?」


「できるじゃろうが、妾は止めた方が良いと思うのじゃ。相手は土地を統べる神だし、神秘の道を使うならしっかり挨拶へ行くべきだと思うのじゃ」


「そういうものかい?」


「龍神様以外の神はよく知らんし、実際のところはわからんけどの?」


 土地神信仰についてよくわからない教授や命子たちは、ルルとメリスを見た。

 ポテチを口に運んでいた2人はキリッとしながら、カッコよくパリッとした。命子は挨拶とかしなくても別に大丈夫な気がした。


「ふーむ。じゃあ、イヨ君。もし国から要請があったら、キスミアに行ってもらえるかい?」


「うむ、問題ないのじゃ」


「私も行きたい!」「ワタシも行くデス!」「拙者も行くでゴザル!」「わ、ワタクシも!」「我も」


 イヨが返事をすると、間髪容れずに命子たちがシュバッと手を挙げた。


「そう言うかなとは思ったよ。ふむ、そうなると……」


 教授はカレンダーを見つめて考えた。

 命子はその視線を追って、言った。


「私たちの予定を考えてます?」


「うん、まあね。今回の件は国が段取りを組むが、君たちの予定に合わせることはおそらくない。だから、一緒に行く場合は、君たちに学校を休んでもらうことになるかもしれないだろう」


「まあ私立だし、どうにかなるっしょ!」


 命子はあっけらかんとして言うが、紫蓮は日程によっては高校最初の期末テストを休むので不安になった。ささらも真面目なので紫蓮と似た気持ちだ。


「それで、いつくらいになりそうですか? あっ、飛行機が飛べなくなるって話だし、近日中ですかね?」


「いや、先ほど数日中に告知されると言ったのと矛盾するが、おそらく国はイヨ君を飛行機に乗せないだろう。危険度が跳ね上がっているからね」


「じゃあ船ですか?」


「そうなるね。ただし、船は船でも空を飛ぶ船だけどね」


「ふぁ! まさか飛空艇!? ついに完成したんですか!?」


「世界中で飛空艇のテスト飛行が何度も行われているので、君らももしかしたらネットなどで見ているかもしれないが」


 ぴょんとお尻を浮かせる命子に、教授はノートパソコンに一つの画像を表示した。


「ラビットフライヤー・ウラノス!」


「ぴゃわー!」


「カッコいいのじゃー!」


 命子と紫蓮とイヨが、手をぶんぶんして興奮した。


 それは、どこかファンタジックな佇まいの大型帆船の姿だった。船体はもちろん塗料に至るまで、全てがダンジョン産の素材で作られた飛空艇だ。

 陸にあるので専用の台座に鎮座しているのだが、その姿は王者の風格を宿して見える。


 その名も、ラビットフライヤー・ウラノス。

 ウサギの系譜は天空の神の名を冠するようになったのだ。


 この機体はデモンストレーションを兼ねたテスト飛行が何度も行われており、ニュースでも取り上げられているので割と知っている人は多かった。


「のうのう。妾、これに乗れるのかえ?」


「ねえねえ。教授、私たちこれに乗れるんですか?」


 イヨと命子は、教授に質問した。


「もし、君らをキスミアへ送るとしたら乗ることになるだろうね。ちなみに、アリア君たちキスミアの視察団もこれに乗って帰ることになるはずだ」


「あー、だからさっき飛行機が乗れなくなっても大丈夫って言ってたんですね?」


「うん。ウラノスの開発は、日米豪猫が中心で行なったからね」


「猫の存在感。ぴゃ!」


 紫蓮がツッコむと、すかさず猫たちに襲われた。

 ちなみに、『猫』はキスミアの漢字表記の略である。国の漢字を知らない人が新聞でこれを見ると、ペット連れの国際会議でもしたのかな、と思う場合がある。


「でも、たしか航行速度がそこまで速くないという話ではなかったでしょうか?」


 ささらが首を傾げた。


「うん、それは事実だよ。海路より速いがジェット旅客機ほどの速さは望めない。代わりに船団を組めるようになったのだが……まあ、今後しばらくの空の旅は、若干のんびりしたものとなるだろうね」


「補給のために港に寄るわけですね?」


「そんな感じだね。さて、そんなわけで君らの意思はわかった。とりあえずそのように上に報告しておくから、念頭に置いておいてほしい。あと、親御さんを交えて話もするからね」


「「「ハッ!?」」」


 今年もおねだりの季節がやってきたのだ。




 それから数日後の大安吉日。

 命子たちは龍道に猫神の道標を設置するイベントに参加していた。


 日本とキスミアを結ぶ世界初の転移術式なので、かなり大きなイベントになっていた。

 そのため、命子たちの他にも総理大臣や偉い神職者などたくさんの人たちが参加している。


 イベント地の龍道は風見山にある小さな沢となっているのだが、その沢の内と外に参列者の席が用意されていた。

 沢の奥、龍道に近づくほど各業界の重鎮が座っているようで、特等席にはアリアパパの姿もある。


 命子たちの席もそんな中にあった。

 偉い人の中なので、命子たちはキャッキャを抑えて大人しくしていた。


 沢自体は、命子たちが以前来た時とはまったく違っていた。

 積もり積もった木の葉や土砂、倒木などが片されてすっかり綺麗になっており、流れる水も増えて、さらさらと清らかな音を立てて流れていた。

 もう女子高生が怖気づくような雰囲気はそこになく、なんなら絶景百選みたいなランキングに載ってそうな景観となっている。

 なお、これは今回のイベントのために掃除されたわけではなく、極めて重要な遺跡の保護のため、龍道が発見されてすぐに取り掛かられたことに起因している。


「アリアちゃん、大丈夫かな」


 友人枠で命子たちと同じ席にいる萌々子が心配した。


「大丈夫だよ。きっと私たちが想像しているより、あの子はこういう経験してるから」


「ニャウ。アイルプ家はお祭りでみんなの前に出るから、慣れてるでゴザルよ」


 命子とメリスがそう言って萌々子の心配を和らげてあげる。


 開始時刻が近づくにつれて、周囲には緊張感が漂い始めた。


「ここで前に出てアニソンのバラード歌ったら、みんなアニメみたいにうっとりしてくれるかな?」


「禁断の遊び」


「やっぱりその類か」


「ていうか、お姉ちゃんの歌、可もなく不可もなくだよ」


「え? 生まれて初めて聞いた情報なんだけど。世間で『合いの手の命子ちゃん』って言われてるのは、もしかしてお世辞?」


「それ歌ってないが」


 萌々子や紫蓮たちとこしょこしょお話ししていると、開始時刻になり、儀式が始まった。

 命子たちはお喋りを止めて、シュバッと背筋を伸ばした。


 神楽の厳かな演奏が始まり、沢の外や中で祝詞があげられる。

 すると、辺りが清浄な気配に満たされていった。


「ほう、音に魔力が宿っている……」


 命子はすぐに見切って、小声で言った。

 雰囲気が命子をキリリとさせているが、見切ったことを率先してアピールしたい年頃。

 それは紫蓮も同じで、魔眼をキュピンとさせて知ったような顔をした。

 なお、祝詞の意味はまったくわからぬ命子である。


 一方、ささらとルルとメリスは、近くに保護者代表のささらママが座っているのでピシッと座っていた。特にささらはこの席に座ってから、非常に大人しい。こういう席に親がいるとやはりこうなるものだ。


 沢の外の気配が少し変わった。

 リハーサルなどないイベントなので命子たちには大体の流れしかわからないが、沢の外の一般席に、イヨとアリアが登場したのだろう。


 その予想は当たり、しばらくして正装をした2人が沢をゆっくりと上がってきた。


 前を歩くのは、トヨから贈られた龍絹の衣をまとったイヨ。

 そこら辺でぶっこ抜いた草をフリフリして歩いてくるが、道具の雑さに反して、イヨが草を振るたびに、周囲の大地が祝福を得たように淡く光を放つ。

 その頭の上にはイザナミが乗っており、やはり枝をフリフリしていた。


 その後ろを歩くのは、民族衣装をまとい、頭にネコミミ飾りを装着したアリア。

 アリアは両手を前に出し、その上に猫神の道標を置いていた。

 頭の上では精霊のアリスが猫じゃらしの束をみょんみょん振っている。


 背筋をしゃんとして2人を見つめる命子たちは、ギュッと唇の裏を噛んだ。


 厳かな雰囲気の中に現れた、神秘をふりまく古代ロリと手のひらに猫の置物を添えたネコミミ西洋ロリ。

 あまりの情報量の多さに、お膝の上で握られた手の中がじんわり汗ばんだ。


 しかし、日本やキスミアのために神事を頑張っている2人をどうして笑えようか。

 命子たちは唇をキュッと引き結び、キリリとした。


 龍道の入り口まで来ると、イヨは手に持っていた草をポイっと捨てた。

 だが、やっぱりまだ使うのか、すぐに拾った。


 ちょいちょい雑なんだよな、と命子は心の中で古代龍神信仰にツッコミを入れた。


「遠き地より、猫神の巫女が龍神様へ挨拶に参られた。彼方かなた此方こなたを龍道で繋ぐ許しを請いたい」


 イヨはそう言うと、龍道がある石壁に触れた。

 すると、仕組みが動いて龍道が開いた。


 参列者の中には、古代の秘術を見てテンションを上げる者もいる。完全にモンディ・ジョーンズの世界観だ、と。人間、偉くなってもそういうところはあるのだ。


 そこでイベントは次の段階に移る。

 白い手袋をしておめかしした馬場やシーシアたちと共に、イヨとアリアが龍道に入るのだ。


 今回のイベントでは、命子たちはお休みである。


 命子がチラッと近くに座っていた総理大臣を見ると、すいっと自然に視線をそらされた。


 命子が動く時、官僚の胃の細胞が絶望に暮れるのだ。

 なんかキスミアまで旅行に行くって言ってるし、その前段階である今回のイベントでは胃を休ませたかった。


 イヨとアリアがそんな命子たちに目礼して、龍道の中へ入っていった。


 2人は出発したものの神楽と祝詞は続いているが、全体的に少し気が緩んだ雰囲気となった。

 命子たちも体をもじっとして、気を楽にした。


「あーあ、私も行きたかったな」


「お姉ちゃんが行っても特にやることないでしょ」


 自衛隊の魔眼専門官は、命子に匹敵するほどの魔眼になりつつある。それに伴って「俺の仕事量ヤバくないか?」と疑問を抱きつつもある。東奔西走、力を手に入れてしまった公務員の宿命だ。


 そんな魔眼専門官が今回は参加しているため、命子の出番はなかった。


「冒険は家の中じゃ遭遇しないの。数撃って拾っていかなくちゃ」


「我、家にいてダンジョンに落ちたが」


「私もアリアちゃんちの庭で地下に落ちたけど」


「君たちってもしかしておウチは安全じゃない説の人たち?」


 1時間ほどして、イヨたちが戻ってきた。

 2人の顔色を見るにどうやら成功したようだ。


 馬場たちと別れ、イヨとアリアは神楽や祝詞に合わせて、草と猫じゃらしをフリフリして沢を下りていく。

 ちゃんとお仕事ができたアリアは自信が宿ったのか、行きよりも少しだけ大人びて見える。


「さて、これであとはキスミアで設置するだけだね」


「ニャウ。また大暴れするデス」


「あはは、トラブルなんて起こらないって」


「フラグをあえて立てていくスタンス」


 命子たちはそんなこと言って笑った。

 その会話が聞こえていた総理は、お腹をそっと摩った。



読んでくださりありがとうございます。


【お知らせ】

明日から新作を発表します。

タイトルは仮として【アアウィオル王国物語 ~僕たち、私たちの国にチートが来た】です。

軽く調べましたが、なろうの検索で『アアウ』くらいまで入れれば出るはずです。

また、この小説はカクヨムでも投稿しようかと考えています。


この物語は、なろうによくあるチート系町運営ものの亜種です。


一人称視点で語られますが、本来なら主人公となるような人物たちの視点では一切描かれることがない予定です。

全ての話が、チートな町に関わる脇役たちのみで語られる多視点形式になっています。


地球さんで例えるなら、命子視点ではなく、全編が部長や馬飼野やサーベル老師の視点みたいな感じです。


「もう主人公サイドの話はいらんな」

「脇役が幸せになる話が読みたい」

「驚愕する脇役たちの話が好き」


そんな人にオススメです。

何を隠そう、私自身が町やダンジョン運営ものの中でそういった話が好きだったりします。誰も書かんから書きました。


というわけで、こちらも楽しんでいただければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
おウチにいたのに冒険が始まるレアケースがこの場に二人もいるの、ほんと新時代の申し子だよなぁ。 「開始零秒でダンジョン」二名 「シークレットイベント経験者」六名(アリア込みなら七名) 「シークレットイ…
[一言] 中盤の 「うん。ウラノスの開発は、日米豪猫が中心で行なったからね」 日猫で十分なはずだけど、2国がごねてねじ込んできたと推測。
[一言] 激動と言うにも生易しい1年ですな
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