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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第11章

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311/433

11-8 キャッチボールと掲示板回

本日もよろしくお願いします。


 ズパンとグローブに球が納まる小気味良い音がする。

 以前だったら世界中の至る所で聞こえた音だが、いったい何か月ぶりの快音だろうか。


 いま自衛官が2人1組でキャッチボールをしていた。


 その球速はプロ野球のピッチャーの投球を超えていた。もはやキャッチボールで出るような音ではないのだが、マナ進化している彼らからすればそれでも全力ではなかった。


 ダンジョンから出た一行は、その足で自衛隊富士駐屯地へ来ていた。

 理由は、投擲術の検証である。


 新時代における物を飛ばす能力で重要なのは、飛行時に混乱してしまう物の気持ちを正してあげることだ。物に指示を出すと言い換えてもいい。


 この時、相手を攻撃する意思を与えれば、その物体には破壊力が宿る。なので、キャッチボールをする際には、攻撃の意思は与えないようにする必要がある。


 そんなふうに、現在は自衛官たちがあれこれ試しているわけだ。

 特にキャッチボールは相手が必要なので危険すぎるため、まずは自衛官が行なっている。


「ふむふむ……あーはいはい……はーそゆことね」


 命子はそんな自衛官たちの様子を【龍眼】で観察して、体の動かし方を盗んでいた。

 命子は自分の投球フォームがゴミクズというのを自覚しているのだ。

 速すぎて見えないよ、とかつてなら指遊びしていただろうその動きも、今の命子ならば事細かに分析することができた。


「なるほど。要は投げるときに目を瞑っちゃダメってことか」


「当たり前で草」


 ペカーッと目を光らせながら大真面目に言う命子へ、紫蓮がツッコンだ。


「当たり前のことでもできない人はいるの!」


 命子は自分と教授の名誉のために、紫蓮の太ももを引っぱたいた。


 そんなキャッチボールだが、重大なことがわかった。

 キャッチボールを含む投擲術には、魂の絆による攻撃力減少効果が適用されるのである。


 新時代式の投球が成功すると、攻撃力を宿すつもりがなくてもグローブの下の手には相応に痛みが走る。これは通常の物理法則とさして変わらない。

 しかし、魂の絆が高い相手だと、物理法則を無視して痛みを軽減することができた。

 自衛隊の交友関係がいま試されていた。


 魂の絆が関連するところだと、ささらの種族『御伽姫』は種族スキル【触れ合う心】により、同士討ちで受けるダメージを大幅減少させる。今のささらは命子の魔法が当たってもほぼダメージを受けないほどだ。


 というわけで安全性がある程度確保されたので、命子たちも軽くキャッチボールをしてみた。


 命子と紫蓮とささらに対して、ルルとメリスと馬場が相手をする。

 この布陣は命子たちの投球が下手だからだ。それに対してルルとメリスと馬場なら大抵の球をキャッチできるのである。


「ボールさん、行きますわよ。えい!」


「シャーラもノーコンデス!」


 ささらの暴投をルルがシュババと走って空中キャッチ。

 みんなの憧れの女性騎士なささらだが、命子と同様に練習していないことはできない。


「かっせーかっせー、ひっつじや!」


「それは投球者には言わない掛け声」


 紫蓮のツッコミを聞きつつ、命子はボールに意思を込めて投げた。

 さすがに地面には叩きつけなかったが、暴投気味だ。

 そんな球を馬場が高い身体能力を駆使してキャッチ。


「いくわよー……」


 馬場はボールに強く思念を送り、命子に投げ返した。このキャッチボールはポンポン投げられるものではないのだ。

 ルルたちは投球センスが高く、いいコントロールで相手の下へボールが返る。速度の方は練習なのであまり出しておらず、山なりの投球だ。


 一方、ボールが返ってきたポンコツの3人はグローブと右手を同時に上げつつ、若干のへっぴり腰。腰が引けているのは恐怖というよりも昔からの癖に近いのだろう。

 なんにせよ、捕球の仕方を全く知らないことが一瞬でわかる姿だった。


 しかし、3人の顔はボールが飛んできたことに対してちょっと楽しげだ。上手にキャッチできるとぱぁーと顔を明るくする。


「命子様。そのグローブというやつで視界を邪魔しているのじゃ。たぶん、それは開きっぱなしで構える物ではないのじゃ」


「なるほど。やってみる!」


 指導員のイヨにアドバイスをもらい、命子は頷く。


 命子は飛来する物の軌道を一瞬で見切る目を持っている。このため、グローブで視界を遮ってもキャッチできてしまうおかしな能力があった。

 しかし、当然のことながらキャッチボールにおいてそれは極めて非効率、というか危ない。正しくグローブを使えば、そんなことをしなくてもいい。


 そんなふうにイヨからアドバイスを受けつつ、命子たちはキャッチボールを理解していく。


「ふむふむ。グローブでのキャッチは力を受け流すわけか。ブゥーン」


 命子は馬場が投げる時速120kmの速球をグローブでキャッチしつつ、ブゥーンと口で言いながら体を少しずらす。それだけでボールの勢いがグローブの中で散らされた。


 命子の場合、グローブに納まったボールは『見習い空間魔法使い』の【物体転移】で右手に移動する。こういう小技をちょいちょい練習しているのだ。


『むーっ!』


『なんっ!』


 検証のために見学している教授の足元では、アイとイザナミも石ころを投げていた。50cmくらい飛んでおり、縮尺から考えるに教授よりもセンスがあった。


 とまあそんなふうに、キャッチボールの術理を覚えてしまうと全員がその高い能力を十全に発揮し始めた。

 とはいえ、やはりポンポンと投げられることはない。ボールへ思念を送る必要があるので、投球前にはその分だけ時間が取られるのだ。


 しかし例外もある。

 イヨと紫蓮が始めたキャッチボールがそれだ。


 イヨと紫蓮の思念付与は非常に早く、キャッチから返球までのプロセスがとんでもなく速い。そんな2人の姿に、オッチャン自衛官たちはこれからのプロ野球にワクテカした。


 オッチャンたちは気づかない。

 仮に300km/h出せるピッチャーがこれから生まれたとして、それは果たして素人の動体視力で観戦できるのかという点に。超人スポーツは、観戦者もまた超人に近い能力が必要なのだ。


「でも、野球はできそうな気がしないでもないけど、サッカーとかはどうすればいいんだろう」


 ドリンクを飲んで休憩する命子がそんな疑問を口にした。


「やっぱり蹴った瞬間に思念を送れるようにしなくてはダメなんじゃないでしょうか?」


 ささらが首を傾げる。


「やっぱりそうなのかな。イヨちゃんはできそう?」


「サッカーというものはよくわからんが、蹴った瞬間に思念を送るのじゃろう?」


 命子の話を聞いていた自衛官が、すぐさまサッカーボールをイヨに渡した。


「それは魔物素材で作られた研究用のサッカーボールだよ」


 と、教授が教えてくれる。ちなみに先ほどまで使っていた野球ボールも同じだ。


 イヨは、サッカーボールを手でポンポンと遊ぶと、頷く。

 そうして、誰に教わるわけでもなく足首でリフティングした。


「ば、万能っ子や!」


 基本的にスポーツセンスがない命子は、球技において練習が必須だった。だから、この冒険でイヨへのリスペクトゲージが上昇しっぱなしだった。


「なるほど。いけそうなのじゃ」


 しばらくリフティングしていたイヨはそう言うと、ボールをポンと上に蹴り上げる。

 そうしてグルンと体を回して、高高度のオーバーヘッドキックを決めてみせた。


 体と長い黒髪が円を描き、そこから蹴り出されたボールが力強くグラウンドに飛んでいく。そのボールを追ってルルとメリスが競うように走り出した。本能が刺激された模様。


「「「す、すげぇ!」」」


 美少女の足から繰り出されたとは思えない鋭すぎるシュートに、命子たちも自衛官も大興奮。


 そんなイヨの活躍を見ていたイザナミが、近くの石ころをオーバーヘッドキックで蹴ろうとした。ポテンと石ころが落っこちた。難しい様子。


 こんなふうに、今回の検証会でイヨの活躍は留まるところを知らなかった。

 遠距離攻撃の可能性を見せた、という点ではなく、その技術力だ。


 投擲術の実演をした際には。

 ぎゅるんと体を回転させた瞬間に3本の鉄針を投擲し、1回転して止まると左手が前方に突き出されていた。その左手からはさらに3本の鉄針が放たれたのだ。

 計6本の鉄針がストトトトンと的に突き刺さり、ルル&メリスの偽忍者説を加速させた。


 さらに、短弓術ではマンガでしか見たことのない2本同時射出を披露し、2つの的を矢で割ってみせた。

 ほかにも【精霊魔法】を組み込むことで、射出した矢を超カーブさせるなど曲芸じみたこともした。


 イヨはこれらの技を、旧時代には使えていたという。

 イヨは古の達人だったのだ。


 みんなから絶賛されて照れるイヨの姿を見て、命子は昨晩のことを思い出す。


 責任ある立場にいたからか、体は小さくともその精神は成熟している。だから命子たちには暗い顔を決して見せない。けれど、その孤独感はどれほどだろうか。


 イヨの孤独を癒してあげられるかはわからないけれど、命子はたくさん仲良くしようと思うのだった。




>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


【総合】新世界を語るスレ PART4550


340、名無しの新世界人

 なんで唐突に弓矢や手裏剣が売られ始めたんだ? やっぱり古代関連か?


341、名無しの新世界人

 とりあえず、弓が使えないって泣き言がそこら中で上がってるぞ。


342、名無しの新世界人

 使い方とか妖精さんが教えてくれないのかな?


343、名無しの新世界人

 教えてくれるのならもっと前に誰かが教わってるだろ。


344、名無しの新世界人

 弓使い的なのもジョブに出ないって話だしな。


345、名無しの新世界人

 誰かしらがアップグレードさせたってことだろうし、そいつは使い方を知っているんだよな。


346、名無しの新世界人

 WANTEDやん。


347、名無しの新世界人

 俺、その賞金首が誰だか知ってんだ。


348、名無しの新世界人

 まさか犯人は……(。-`ω-)


349、名無しの新世界人

 なんにせよ、これでやっと野球の封印が解かれるのか。


350、名無しの新世界人

 今なら時速600kmくらいでるかな?


351、名無しの新世界人

 600kmとか見える気がしない。


352、名無しの新世界人

 でもプロ野球選手で野球に戻ってくる人どんくらいいるんだろう。結構な数が冒険者になっただろ。


353、名無しの新世界人

 さすがに戻ってくるだろ。冒険者兼プロ野球選手みたいなん素敵やん。


354、名無しの新世界人

 前レスの600kmの話じゃないけど、超人すぎると見る人を選ぶことにはなりそうだな。

   ・

   ・

【投擲系武器の謎が世間を騒がせながら数日が過ぎる】

【スレがいくつか進む】

   ・

   ・

47、名無しの新世界人

 やっぱり命子ちゃんでしたぁあああ!


48、名無しの新世界人

 (*’▽’)<俺、知ってたよ!


49、名無しの新世界人

 まあ、たぶんその場にいただけだと思うけどな。封印を解いたのはイヨちゃんだろ。


50、名無しの新世界人

 イヨちゃんヤバくね? これなんて忍術?


51、名無しの新世界人

 回転六連影千本!


52、名無しの新世界人

 見たまんまで草。


53、名無しの新世界人

 あー、あの鉄針は千本か。たしかにそんな名前だったわ。


54、名無しの新世界人

 つーか、こういう投擲武器ってクルクル回るもんじゃないの? マンガみたいに真っすぐ飛ばすことって実際にできるんか?


55、名無しの新世界人

 少なくとも少年時代の俺のナイフ投げは1回も真っすぐ飛ばんかったな。


56、名無しの新世界人

 お前は俺か。


57、名無しの新世界人

 弓も凄くね!? 2発同時撃ちって創作じゃなかったんか!?


58、名無しの新世界人

 できてるしできるんだろう。


59、名無しの新世界人

 それに対して命子ちゃんたちのキャッチボールよ(*´ω`*)ほっこり。


60、名無しの新世界人

 かっせーかっせーって言いながら投げてるwww 可愛すぎるだろwww


61、名無しの新世界人

 素人丸出しのグローブ捌きがたまらん。凄く指導したい。


62、名無しの新世界人

 すぐやきうの話をするんだから。


63、名無しの新世界人

 いやでも、ポンコツ気味なのは最初だけだからね?


64、名無しの新世界人

 コントロールは安定してないけど、たしかにあの小さな体で出る球速じゃないなwww


65、名無しの新世界人

 ささらちゃんが妙に絵になるな。


66、名無しの新世界人

 袴だから始球式にしか見えん。150km以上出てるけど。


67、名無しの新世界人

 始球式かっこガチ(震え声)


68、名無しの新世界人

 ルルちゃんはセカンドだな。メリスちゃんはショート。ささらちゃんはファーストで、紫蓮ちゃんはサード。んでイヨちゃんはピッチャーで、命子ちゃんはライト。馬場ちゃんはセンターで、教授ちゃんはスコアラー。俺は監督ね。


69、名無しの新世界人

 いやいや、命子ちゃんは4番キャッチャーだろ。あの超動体視力ならこれしかないだろ。


70、名無しの新世界人

 すぐやきうの話するんだから!


71、名無しの新世界人

 それよりも肝心な投擲術の方法が告知されてないよ、自衛隊さん!


72、名無しの新世界人

『もうしばらく検証しますのでお待ちください』らしいよ。


73、名無しの新世界人

 まあ新時代の技法はなんでも危ないからな。


74、名無しの新世界人

 やっぱり弓が妖精店で売られ始めちゃったからこの動画を出したのかな?


75、名無しの新世界人

 そうだろうね。検証の場所も富士演習場みたいだし、危険視してるんだろ。


76、名無しの新世界人

 なにかの拍子に投擲の発動に成功しかねないから注意しろってさ。


77、名無しの新世界人

 その注意があるってことは、逆説的には俺達でも使えるかもしれないってことだよな?


78、名無しの新世界人

 世界中で研究されて解けなかった謎だし、大人しく検証を待とうぜ。


79、名無しの新世界人

 イヨちゃんと紫蓮ちゃんのキャッチボールに自衛官が驚いているってことは、生産系は投擲の適性が強いのかな?


80、名無しの新世界人

 でも魔力を纏わせる投法は絶対に誰かが検証してるはずだし、いくつかある条件の1つに紫蓮ちゃんの何かが当てはまってるって考えるのが妥当だと思うぞ。


81、名無しの新世界人

 命子ちゃんのプイッターがアップされてた。つ【イヨのオーバーヘッドキック&イザナミのマネっこ動画添付】


82、名無しの新世界人

 す、すげぇ!?


83、名無しの新世界人

 精霊さんカワよ!


84、名無しの新世界人

 これ、海外の人は巫女が忍者に匹敵する超人集団だと勘違いしそうだな。


85、名無しの新世界人

 いや、勘違いじゃなくて古代の巫女はガチでヤバいんじゃないか?


86、名無しの新世界人

 それな。古代の人ってみんなこんなに身体能力高かったのかな。


87、名無しの新世界人

 現代人よりは全体的に丈夫だったかもしれないけど、やっぱりこの子は特別なんじゃないか。


88、名無しの新世界人

 サッカーも復活しそうでワクテカ。


89、名無しの新世界人

 というか球技がほとんど復活すると思っていいんじゃない?


90、名無しの新世界人

 またルール改正が大変そうだな。


91、名無しの新世界人

 みんな超人だろうからな。まったく別のものになってもおかしくない。


92、名無しの新世界人

 というか、野球はバッターのほうが問題だろ。現代人の攻撃力で球を打ったら、絶対に爆散するぜ?


93、名無しの新世界人

 それな。バットの素材次第だけど俺ですら爆散させられる自信があるわ。


94、名無しの新世界人

【剣装備時、物攻アップ】系持ってたらヤバいよな。もしくは棒装備時か。


95、名無しの新世界人

 ボールのスペックも考える必要があるし、やはり野球の道は険しいな。


96、名無しの新世界人

 今日の名言。野球の道は険しい。


97、名無しの新世界人

 なお、野球道の険しさではなくプレイするまでが厳しいという言葉。



読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。

誤字報告もありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
すぐやきうのはなしするんだから!
[気になる点] NINJAvs忍者 実際に忍者さんは手裏剣とか投げてたのかな??
[一言] やきうに趣味を潰されてきた人「これでやきう人気が復活して試合終了まで中継する番組になったら、後の番組が潰されて放送延期や中止になる悲しみを再び背負うことになるのか……」(遠い目)
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