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39話

ブックマーク、評価ありがとうございます! 急に増えていてびっくりです。


「では、第一回、子爵会議を始めたいと思いますわ」


と、私の掛け声で集まった皆様に本日議題としてお考え頂きたいのがこれだ。


「村の名前を改めて欲しい、と実はエレスチャレ村の村長さんから頼まれましたの」


お祖父様も帰り、ガーネットちゃんとジェダイトもエレスチャレ館へ戻りようやく落ち着いた空晶館で、私は自分の執務室に孤児院の大人たちを集めて会議の議題を提示した。


「それはどういういきさつで?」


王都から仕事を一段落させたコンクシェルも今日はいる。

美術館の設計を請け負っていたそうな。まあ、文化的! 孤児院の稼ぎ頭である。


「まず、フロウライト領の中心に近い、街道寄りにあるエレスチャレ町。これと名前がかぶっていることと、エレスチャレ子爵がこの土地の代官をになる前は、この村は違う名前だったそうですわ。エレスチャレ子爵が来たのが三十年ほど前なので、そちらの村名の方がこの地の皆様には馴染み深いそうですの。

その名前に戻せないか、という要望ですわ」


スマラルダスがああ、と頷いた。


「たしか、アンダリュサイトと言ったか」


私はそれにコクリと頷く。


「あわせてわたくしの爵位もエレスチャレ子爵ではなく、新しい名前にするよう、王宮から沙汰もありました。エレスチャレ家は代々の貴族。爵位がなくとも、その名を奪うことは はばかられる、とのこと。わたくしも貴族の一応お披露目済みと認められ、新たな家名を名乗るご許可がおりましたの。それで、地元の皆様に愛されているお名前だし、ご縁もあるこの村の名前にあやかろうかと思いますの。…いかがかしら」


私はどうだろう、と室内の大人の顔を ぐる、と見回す。

ダートナとアンバー先生は賛成してくれたけど、スマラルダスや孤児院メンバーはどうかなー。


「俺はかまいませんぜ」

「いいんじゃないか?」

「ええ、私も賛成です」

「反対する理由はありませんね」

「よろしいんじゃありません?」


おお、良かった!


「では、孤児院も正式名称があった方がいいかと思いまして、名前を新たにしたいと思いますわ」

「ああ、そうだな」


スマラルダスも好感触。


「では"エメラルディン孤児院"と…。うきゃ!」


いきなりスマラルダスにアイアンクロー受けた。

アイアンクロー!? 七歳とは言え乙女にアイアン…。アイアンディーネにアイアンクロー…。

くッ、なんかくやしい! ならぬ、ならぬよ。この組み合わせはならぬーーー!


「なになさるの、スマラルダス!」

「なにはお前だ。この流れで あからさまに王宮と繋がりある名前つけようとするな!」


キャー、握力強めないで!


「スマラルダス!」


スピネル君がスマラルダスの手をベリッと剥がしてくれた。んで、説教かましてくれている。


「アイアンディーネ様、"アンダリュサイト孤児院"で宜しいのでは?」


ブルーレースが呆れて言う。


「では"スマラルダス孤児院"では…?」

「俺の名前を入れようとするな。いずれ、この孤児院は王や俺とも関係ない、アイアンディーネ、お前が代官を務めるこの町々の子供のための施設になるんだ。名称はお前の家名にしておけ」


スマラルダスがフー、とため息ついて言う。


「うう、わかりました。では、そうしますわ…」


スマラルダスには世話になっているから名前残したかったのに~。なんちゃら記念病院的な。

仕方なくブルーレースの提案どおり、アンダリュサイト孤児院に。




実は私は子爵位は成人後はジェダイトに返そうかと思っていた。

最初代官代行もリビアンさんに どう? と声をかけたが彼女は研究者気質で経営などは向いていない、とお断りされてしまった。

エレスチャレの町の医療所も若手に任せて来れて、本当はホっとしているとのこと。

子供だけれど、ジェダイトも貴族として認められている。

同じ七歳だし、彼にも将来子爵をやる気があるか聞いた。

私の中ではどうも子爵位は融通できる役職のようなもの、という認識だったが意外やそれは違うとジェダイトに諭されてしまった。

少し冷めたところのあるジェダイトを私はいつも「大人ぶりおってー」、と見ていたが、この話をしていたジェダイトは決して冷めてはいなかった。

誇り高い祖父が守ってきた爵位であるからこそ、このフロウライト領を継ぐ可能性のある私が持つべきと彼は語った。

ジェダイトは爵位より、植物--寒冷地向けの小麦の研究をしたいと言う。

貴族としての魔力をそのために使いたい、と。


--フロウライト領は決して豊かではないから、と。


まだ、小さいが、その姿は私の知っている、フロウライト領全体のために情熱を注いでいたゲームの中の、彼そのものだった。

…ジェダイトはきっと、私よりいい子爵になれるのに…。


エレスチャレ館はそのままリビアンさんとジェダイトたちが暮らすことに。

ジェダイトの貴族としての対面を保つ費用や学園の学費は私とリビアンさんで半々で出すことにした。

遠慮しないで。貴方のお父様にがっつりツケておくので。


「この館なら、たくさんの患者さんを受け入れられるわ」


と目をキラキラさせて、エレスチャレの館を診療所として改装準備中のリビアンさんは医者として手放しがたい人材だ。経営苦手、と言いつつ結局診療所始めちゃう辺り。

リビアンさんやエレスチャレ町の医療所の医療研究に対しての援助は変わりなく行うことにした。

エレスチャレ村改めアンダリュサイト村も含めて、この地域一帯が地域医療の先進地域になれば、王都からも集客あるぞ。ごめん、穢れた子供で。




結局、代行はスマラルダスに。仕事やらせてばかりで申し訳ないけど適任だ。


この話が出た時、スピネル君と色々話した。

実は駆け落ちのお供にあのジャスパー…、リビアンさんの伯父が護衛としてついていったのだ。

いや、シルバートが命じてついていかせた--のだ。


「ジャスパーはリビアンさんを女子爵にしたかったんだよね…。そんな人で大丈夫なの?」

「誰かが見張っていないと。エレスチャレ子爵がまた人質にされたら困るでしょう? ジャスパーは子爵の信頼がありますから、まさかアイアンディーネ様に自分の動向を逐一報告されているとは思わないでしょう。それに、ジャスパーがシルバートの命に逆らうことは出来ません。魔剣の眷属になるというのはかなりの強制力が働くんです」

「なるほど…」


ジャスパーは今や、シルバートの舎弟だ。

私はエレスチャレ子爵の出奔はスマラルダスやソーダライトのお祖父様が関わっているのでは、と疑っている。

だって、エレスチャレ子爵、邪魔者なのは違いなかったもん!


「聞いても教えてくれないでしょうけど…」

「……ジャスパーに唆すように命令を出したのは確かですよ。でも、決めたのは子爵です」


答えが返ってきて、ビックリした。


「スマラルダスに怒られない…?」

「アイアンディーネに聞かれたら真実を話すようにと言われています。今回のことで、スマラルダスは覚悟を決めました。…アイアンディーネが精霊と契約していなければ、子供達は危うかった。私たちはここに根を張りたいと思っているんです」


その言葉に、一気に安心した自分がいた。

スピネル君やスマラルダスたちは私は成人したらいなくなるんじゃないかと不安だったから。

その言葉で、子爵位を安心して受けることが出来たのだ。







「それと、今更ですが、新しい仲間の紹介ですわ。ラリマーさん、どうぞ」


会議室の縦長テーブルの隅に座っていた、ラリマー氏が はいっと起立。ううん、いいね~。


「ご紹介に預かりましたラリマーです。祖父がサンタクロース牧場でアカハナトナカイの畜産農家をしており、今回アイアンディーネ様の支援でこの空晶様の敷地内でアカハナトナカイの繁殖を行うことになりました。王宮での経験を活かして皆様のお役に立ちたいと思います。よろしくお願いします!」


ラリマー氏には社畜の気配を感じる…。

てか、すでに自分の配下扱いしているモルダヴァイトが うんうん頷いている。

お前か、お前の仕込みか! ピンクめ、油断ならないヤツめ!


「それで、早速だが、今後の予定を話したい」


スマラルダスが発言始めると、皆様の視線が彼に集まる。

私の司会時はだらけた空気だったのが、ピシと引き締まる。

私の出番は終わりか。大人しく、用意されたおやつに手をつけます。

今日のおやつはクリームブリュレですって。カラメルをパリパリ崩すの楽しい。


「本格的な冬に入ったが、その間にまず商会の立ち上げを行いたい。これはオニキス・ソーダライトが保証人を請け負ってくれた。ソーダライト商会と協力していくことになる。商会の名前だが、これもアンダリュサイト商会でいいか?」


私はコックリ頷く。起業か。前世の私が聞いたら冗談だろと、話も聞かないわな。


「会頭はアイアンディーネ。アイアンディーネ・フロウライト・アンダリュサイト女子爵の名前の登録が終わり、書面上の手続きが済んだら準備を開始する。--で、その最初の商売はなにをするつもりだ?」


ハッ、わたくしの出番ね! とスプーンですくったクリーム部分を飲み込もうとしたら、別方向から声がした。


「量産したい商品があります。スマラルダス」


そう言って立ち上がったのはモルダヴァイトだった。


「へ?」


私の間抜けな声が空を切った。

ブルーレースがゴホンとわざとらしい咳をした。

だが、モルダヴァイトはアンバー先生と目と目を合わせ、頷きあい、そしておまけのように私を見ただけで話を再開する。


「"シャチハタ"とアイアンディーネ様が言いましたが名称はもう少し判りやすい方がいいと思います。これは魔法陣をペイントできる道具です。しかも、小さく持ち運びに便利。これを量産したい」


そう言ってテーブルにコロリと私がアンバー先生に作って貰ったニンジャを眠らせたシャチハタを出した。



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