表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/50

20話


ダートナに雷落とされ、涙目になっている私におずおずと声をかけたのはジェダイトだった。


「その、大丈夫か?」


私の中の見栄張り令嬢が目を覚ます。


「だ、大丈夫ですわ、このくらい。ドーンと来いですもの!」


あ、ダートナが睨んだ。嘘 嘘、反省してます。


コホンとわざとらしく咳払いしたスピネル君が話題を変える。


「先ほど手伝いと仰って頂きましたが…。どうでしょう、アイアンディーネ様。ジェダイト様たちにも出来ることがありませんか?」


あ、手伝い? ダートナとブルーレース二人しか女手がないのでお手伝いは嬉しい。

明日から村の外で募った人足さん達が入るので、新しく用意した人足用のログハウスに彼らの寝床の準備をせねばならない。さすがに寝袋は失礼かと、簡易の藁のベッドでお布団を用意中なのだ。

藁は夜明け前に モルダヴァイトが荷馬車で買い込みに行ったので、午前中には届くはず。


(でも手伝ってもらうことって、藁ベット作って、それにあり合わせの布で縫ったシーツを敷く作業や草刈だけど、彼らに出来るのか?)


つい失礼ながら私は二人に胡乱な目を向けた。

それに答えたのは、ガーネット嬢の方だ。


「私、隣町の診療所でお手伝いもしています。縫い物だって出来ます。ジェダイトはお父上の非礼をアイアンディーネ様にお詫びしたいとお考えです。手伝わせて頂けないでしょうか?」


ガーネットはしっかりと話す。

おおう、アテ馬令嬢のガーネット嬢は設定どおり、しっかり者だわぁ。


そう、彼女はエレスチャレルートでのライバルキャラ。

アイアンディーネは基本嫌がらせキャラ。まあ、悪役だしね。恋のライバル役はエレスチャレルートではジェダイトの幼馴染のガーネットなのよ。


彼女は正々堂々戦う正義の女。

言ってしまえば、「委員長キャラ」だった。


人により好き嫌いの分かれるキャラだが、今実際に会った彼女には好感が持てる。

何というか、普通の女の子なのだ。


(お友達になれたらな~)


と、ジャイアンな私も思っちゃう。

チラチラと彼女を見ていたら、スピネル君がため息ついた。


「ガーネット様。アイアンディーネ様とご一緒いただいて宜しいですか? ダートナ、草刈りに人手が要りましょう。私たちで出来るところを刈りますよ」


ダートナがそうね、と微笑んで、草刈用の鎌を用意してくれた。

そして、スピネル君とジェダイト、私とガーネットが組んで草原の草刈を始めた。



さて、ここでも魔剣大活躍。

足のつま先から魔剣を出して、すい~と回転すると、私を中心に半径一メートルが綺麗に刈れます。


「す…ごい」


ガーネットが感嘆の声を上げる。

うふふ、そう? 受けを狙ったわけではないよ?

とか思いつつ、鼻高々。


「アイアンディーネ様。回転するのは止めてください。片足で立ってるのですから不安定です。前方だけ、四十五度刈るように」


スピネル君から注意を受けて、は~い、と返事して、どんどん刈ります。

ガーネットが怪我しないよう、私の前方は誰もいない。魔剣は持ち主は斬れないので、私自身は転んでも心配ないんだけど、彼らに触れたら大変だからね。

私が刈った草木を、ジェダイトとガーネットが端にまとめる。

一定の広さを刈ったら、スピネル君がまとめた草を魔法で焼き払う。


道沿いからログハウス周辺、森へ続く辺りを広く一本道を作った辺りでモルダヴァイトが藁を荷馬車二台に乗せて帰ってきた。片方の荷馬車は売ってくれたお百姓さんから借りたらしい。


「ああ、今日は冬を前にしても暑いですね」


ダートナが用意した冷やしたお茶をクっとあおる。


「丁度いいわ。お昼にしましょう」


ブルーレースとダートナがじゃがバターを用意してくれた。

ひゃっほう、大好き、ジャガタライモさん!

前世ではひいお祖母ちゃんがジャガイモをそう呼んでいた。語源はもともと"ジャカルタイモ"かららしい。これ豆な。

塩茹でしたホクホクのジャガイモにバターを乗せただけのシンプルな食べ物だが、これは美味しいのだ。

ジェダイトは初めてらしく、目をパチパチ言わせていた。


「随分草刈が進んでますね」

「アイアンディーネ様が頑張ったんです」


おお、ガーネット嬢が私を持ち上げてくれる。ええコや。


「あ? え、その子、アイアンディーネ様?」


モルダヴァイトはズボンの私を男の子だと勘違いしていた模様。

まあ、夜明け前、私が起きる前に出掛けたものね。


「わたくし、いつもはこういう格好ですの」

「口調が違和感ありますね…」


ツンと鼻をあげた。

まだ、君たちに慣れていないからだよ。私は人見知りなんだよ~。

そんな私を見てジェダイトがクスリと笑った。


「アイアンディーネは素直な方ですね…。僕は少し誤解していたみたいだ」

「そうかしら? わたくしは贅沢な人間ですわ。その贅沢の基準が少々貴族からは外れているみたいですけど」


お外サイコー、田舎暮らし万歳なだけで。


「素直…。馬鹿正直という方が合っていると思います」

「スピネル君には聞いていないからね!?」


言って、私はスピネル君を軽く睨む。

スピネル君はしらんぷり。ンナロ。


このやり取りを見ていたモルダヴァイトが噴出した。


「スピネルが…。子供らしい…!」


クックッと笑うモルダヴァイトに私はハテナマークが浮かぶ。

天使少年スピネル君は素だと遠慮のない子よ?

しかし、天使はジャガイモ食べていても絵になる。眼福。


「午後からはまた頑張りますわ。ガーネットさんとジェダイト様はどうなさいます?」


ほくほく、ハフハフしながら問いかける。

綺麗に皿を空にしたジェダイトが答えた。


「僕は帰らないと。エレスチャレ村の者がちゃんと来ているか確認したかったのもあったから、ヘマタイトにも報告しないと」

「私も。でも、明日も来ていいかしら? お屋敷では私の仕事がないの…」


ガーネットちゃん、伺うような上目遣い、あざといな! でも可愛い。

勿論、歓迎と言って、少し仲良くなった二人を見送りご機嫌で私は午後の作業にいそしんだ。






午後は十人ほどが寝泊りできる新しい人足さん用ログハウスの中で、ブルーレースとダートナが準備したシーツを藁ベッドにセットした。

ついでに今まで寝袋だった私たちのログハウスにも藁ベッド投入だ。やったー。


人足さん用ログハウスは個室なしのドーンと広い建物だ。

シンプルなベッドに、こぼれないよう藁を敷き詰め、スピネル君と二人で白いシーツをバっと広げて包み込む。

キャー、シーツの揚力で飛べそう!

これを奥から手前までどんどん行う。結構楽しい作業だった。


こぼれた藁をほうきで集め、外に出す。

森の奥からドーンと木の倒れる音がするので、切り出し作業は順調なよう。

ログハウスは食事用の屋根のあるテラス付きで、そのテラスは草原より少し高い位置にある。

草原を上から見下ろす形でぐるりと見回す。午前中、四人で頑張ったがやはり草原自体がかなり広いので当分子供たちの仕事は草刈だな。

魔剣を使うとちょっと疲れるが、どんな草木も両断できるので便利だ。


(ただ、廃棄する草の量が。スピネル君が焼いてくれるけど相当な量なんだよね)


いっそ、範囲内から炎が出ないなら、草原の残っている場所全部焼いた方が速いのでは? とスピネル君に聞いてみた。


「いっぺんに焼けないの?」


私の質問にスピネル君が ええ、と答えた。


「火力の調節が難しくて。飛び火しないようにするには、特定の広さしか私はまだ制御できないんです。魔法は魔力だけではなく、その操作が重要です」


なるほど、魔法も万能じゃないんだ。


「アンバーだったら、周囲に煙すら感じさせず、おそらくこの山ひとつ燃やせますよ。魔力さえあれば、ですけど」


(……。アンバー先生、人間兵器やん。魔力が普通で良かった…)


「--あれ?」


今更気づいた。


「スピネル君はアンバー先生のこと良く知っているね」


そういえば、ダートナとアンバー先生は最初からスマラルダスと親しげだった。


(あ、シルバートの事も知っていたっけ)


顔見知りなのだと思っていたけど、もしかして…。


「ダートナとアンバー先生も…同じ孤児院なのですって。それって…?」


小首を傾げて聞けば、スピネル君が珍しく"しまった"、という顔をしている。


「…ええ。そうです。私たちの孤児院が、彼らが育った院ですよ」

「ほとんどが、公に出来ない子供って言っていたよね」

「そうですね。実際、ダートナとアンバーの出自を私は知りません」

「そう…」


私は少し寂しい気がした。


「どうして言ってくれなかったんだろ…」

「必要ない知識でしょう? それに、アイアンディーネ様はまだ七つの子供です。詳しい話は省いたんでしょう」

「危険だから?」


スピネル君が息を吐く。


「それもありますね。今更ですけど。--彼らにとってアイアンディーネ様は特別なんです」

「そっか。まあ、秘密は誰にでもあるよね」

「もしかして、アイアンディーネ様は前世の話はダートナたちには話してしないのですか?」

「うん。秘密にする必要はないと思うけど、言う必要も感じないの」


--嘘。この世界で起きる摂理がわかっているんだから、大きな情報だ。

でも、それを言って、むしろ大切な二人に危険が迫るのが怖い。


「…秘密は誰にでもありますよ」

「スピネル君も~?」

「ありますよ」

「そっか」


私は少し安堵した。

それが、どんな秘密かは聞かない方がいいのだろう。私が自分の秘密を言わない方がいいと感じるように。


でも、これ、のちに思う。

絶対、聞いといた方がいい秘密だったって。







しばらくは穏やかな日が続いた。

ジェダイトやガーネットが毎日来て、出来ることを手伝ってくれる。

村から通う人達もそれに感心していた。

殊にジェダイトの評価が大きく変わったらしい。


「坊ちゃんは村の事には無関心だと思っていやしたが、いや、いい跡継ぎにお成りだ」


--と高評価、ジェダイト人気うなぎのぼり。

ガーネットがそれを嬉しそうに聞いているのが可愛かった。

見ていてわかるくらいの好意に、ジェダイトが気が付いているのか、いないのか。他人事ながらハラハラします。


「最近、子爵が政務に戻られたの。お体も、もう大丈夫みたい」

「へーえ」

「アイアンディーネ様、ご友人相手でも気を抜かないでくださいませ」

「はい!」


ブルーレースがこの頃言葉遣いに煩いのだ。相手によって使い分けているのだけど、いつか失態を演じるからダートナやスピネル君にも丁寧な言葉遣いを、と言い募る。

注意を受けた夕食は人参の比率が高くなる…。いつぞやは人参グラッセが皿にてんこ盛りになってしまった…。


「美人の素、美人の素」


と呪文のように呟きながら二時間かけて半泣きで完食したけど。

スピネル君は「自分は充分美人だから」と言って手伝ってくれなかった。いけず。


そんなこんなで草原もあらかた草は刈られ、エレスチャレ村からの道筋は土も盛られ、平坦な道が草原を横切り森まで続いている。

せっかくなのでとかなり広い道になっていて、二車線くらいの幅で、二頭立て馬車の往来がゆとりもって出来る道だ。

いずれ、黄色いレンガで舗装したいと言ったらスピネル君に奇異な目で見られた。

そういう有名なお話が前世であったの!


その先は森に入る道になるが、いまだ魔獣が闊歩する森だ。

草原地帯は魔獣が現れないが、私が契約した精霊、空晶の土地だ。本来は魔獣が現れてもおかしくない。空晶が森にしか現れないので魔獣も森から出てこないだけで。

それに契約したばかりで、こちらの魔獣狩りが間に合っていない。

シルバートが夜に狩りに出ていて、大物の魔獣に関しては、彼が駆逐している。

なので小さな魔獣がほとんどのため、空晶が自衛できるようにはなっているらしいけど。

けれどたとえ小さくても魔獣は魔獣。

危険が残る森に入るには護衛が必要で、木の切り出し時はシルバートとアンバー先生で木こりの人足さんの警護にあたっていて、正直足手まといの私は森には入れなかった。


しかし!

今日はそれがようやく解禁なのだ!


「今日は充分な木の切り出しが終わったので、一気に砦囲いと、冬を越すための建物を建てますよ」


このアンバー先生の言葉に私は大きく頷いた。

この森に、入ることが出来る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ