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18話


村長の家は馬車が停止していた村の入り口からさほど遠くなかった。

先触れをお願いしていたので、村長宅の前には村長一家が迎えに出ていた。

ドレスに合わせた靴は思ったより歩きやすく、以前怪我した靴擦れの再発もなさそうなので、私たちはアンバー先生を馬車と伴に先に帰し、帰りは歩いて待ち合わせの店に戻ることにした。

村長さんは薄毛の恰幅のいいおじさんだ。

馬車を家の軒先に停めたら、彼はうやうやしく私たちを迎え入れてくれた。

…従僕のヘマタイトさんもその場にいて、少し驚いた。


「ほお、この先の草原の土地を…!」


村長は驚きの声をあげた。


「いったい、なににお使いに…?」


ソレを今聞かれると辛い!

無計画です!


「アイアンディーネ様は土地の精霊と契約が相成りました。そのため、管理のためにこちらにお住まいになるのです」


ダートナが説明する。

ほうほうと村長は感心しきり。さすが、フロウライト伯爵令嬢とほめちぎる。エレスチャレ子爵の婚約者は、やはり只者ではございませんでしたなあ、と。


「おお、では先日、荷馬車が大量の家具や荷物を運び出していたのは、そのアイアンディーネ様の新しいお屋敷のためですかな!? いや、あの後、館の者が村に戻ってきましたから何事かと村の者も案じておりました!」


おおう、あいつら村を経由してセルカドニーに戻ったのか…。この様子だと彼らは事情を知らないのかしら?

従僕のヘマタイトさんをチラ見すると、小さく頷いた。


村長は人手がいる際はお声かけくださいと、人の良さそうな笑みを見せた。

帰りは土産にとアップルパイと瓶詰めのリンゴジャムを頂き、私たちはその場を後にする。

ヘマタイトさんが安心したように息をついたのを見逃さない。

彼も私たちと伴に村長宅を辞した。


「ヘマタイトさん、子爵は事情をお話なさらなかったのですね?」


私の質問に彼は口を引き結ぶ。


「私と侍従さんで判断しました。旦那様はお疲れなのです。今は正常な判断が難しいと思いますから。だからと言って、アイアンディーネ様方の在留を諸手をあげて歓迎することも立場上…、いたしかねます」


そう、と私は返事する。


「子爵はずいぶん慕われているのですね」


その言葉が意外だったか、ヘマタイトさんが間抜けな顔をした。


「正直、わたくしの子爵のいんしょうは良くありません。相場なんて賭け事ですもの。それに手を出した彼を館の皆様はかばってらっしゃる。村に戻った使用人すら。そこまで にんげんてきみりょくのある方だと思えませんでしたから」


スマラルダスに叱られそうな正直な感想を口にしたが、後ろを歩く彼は特に口出ししなかった。


「それはっ…!」


勢い込んで反論したのはヘマタイトさんだ。

従僕のヘマタイトさんがいつになく憤慨しているのが手に取るようにわかった。


「確かに相場に素人が不用意に手を出したと言われれば、お言葉は返せません。ですが、旦那様は決して暗愚な人物ではありません。執事のアゲートは…、先の長年仕えてくれていた執事が急病で亡くなったため雇った、いわば新参者でした。アゲートの正体を見抜けなかったのは、むしろ、伴に働いていた我々の非でしょう」


お、これは思わぬ展開。

ふんふん、聞きましょう。

私、アイアンディーネ、七歳児、偉そう。心根がジャイアン。


「じゃあ、今の子爵が冷静ではないだけで、わたくしに対する態度は落ち着けば軟化する可能性があると思ってらっしゃる?」


だが、これにはヘマタイトさんも答えに窮した。


「旦那様はその…情のある方です。そのせいで、今回のような状況に…。その…信用した人間を疑うことが…出来ない方で…」


しどろもどろの彼に私は少しいぶかしむ。


("信用した人間"って、お金持って逃げた執事のアゲート? 新参者の彼をどうしてそこまで、子爵は信用したの? 情って、アゲートとは旧知だったとか?)


ふとスマラルダスを見上げると、彼は続きを促せと無言の指示。

はいよー。


「もう少しエレスチャレ子爵について、お聞きしたいわ」


はい、とヘマタイトさんが語りだす。


「この土地は先代様がフロウライト伯爵から代官に任じられました。慣れぬ土地で先代様も苦労をしており、エレスチャレ子爵がもともと治めていた町から移住した私たちも、先代様とその苦労を伴にして参りました。

先代の子爵のお子様たちは幼い頃か我々の苦労を見ていらっしゃったため、村々に温情があり、私財を投げ打って、エレスチャレの町に診療所を建ててくださったのです。

確かにこのエレスチャレ自体は豊かとは言えませんが…、その対策のおかげで、エレスチャレ子爵の治める村々では流行り病も近年起きず、少し先の町はその医療所のおかげで、人も集まりつつあります」


(お子様"たち"?)


子爵は一人っ子では?

言いかけて、やめた。

スマラルダスが私の背中を突いたから。


(何かあるらしい…。ふむ、今はスマラルダスの顔を立てて、聞かずにおくか。フフフフフ)


私に中で探偵ごっこのスイッチが入った。


「そう。…お医者様はひつようですわね」


ふ~む、人材投資先行したってことかな。

少し先の町に医療所…。その投資したお医者が、あのお母さんかしら?

そうかぁ、医者育てるのはお金がかかるもんな~。


「わたくしが子爵のしんらいを得るには時間がひつようかしら?」

「一番いいのは、アゲートの捕縛でしょう。金銭の持ち逃げです。立派な犯罪ですよ」


口を出したのはスマラルダスだ。

だが、ヘマタイトさんが苦い顔をした。


「…ですが、アゲートはセルカドニーのやくざ者とつるんでいます。おそらく、その連中がアゲートを隠しているんでしょう…。侍従さんを怪我させたのもヤツらの差し金でしょうし。ただ、ヤツらの目的が金銭でなければ、またやってくるでしょう」


彼らの行動は略奪同然じゃない?


「騎士団にようせいはできませんの? アゲートをわたくしたちで捕まえることは…」


スマラルダスが答える。


「騎士団の要請は代官たる子爵の委任が必要です。が、子爵はそのつもりがないようですし。それに村を襲ったわけではありません。彼らはあくまで債権者で、爵位相当の家財を持っていっただけです。…過剰な押収とも思えますが、子爵自身がこれに異を唱えていないのですから、今のところ、彼らは法の下の行動になりますね」


アゲートと裏でつながっていた証拠がないからなあ。

借金のカタに持ってったモノは彼らに債権があったら断れないのか~。


「それに、ヤツらは領外に逃げています。セルカドニー侯爵領に依頼するのも、フロウライト伯爵にまず報告ですが、それでは子爵の立場が…」


ボソリとヘマタイトが呟く。

そうか~。一気にエレスチャレ子爵が代官罷免になるかも。

フロウライト伯爵の放漫経営の糾弾していたはずのエレスチャレ子爵がこんな有様では立場逆転されるだけか。袋小路じゃん。


とりま、気になることはあるけれど。村の人の信頼も厚いならエレスチャレ子爵とはうまくやっていきたいものよ。

国盗りしようという私が言うのもナンですが。


「わかりました。わたくしはヘマタイトさんを信用いたします。なので、そのあなたが信じる子爵の人格を疑うこともよしましょう。

わたくしたちは隣人になるのですもの。良い関係を作りたいと思いますわ」


にっこり笑った。

また、スマラルダスから子供らしくないと言われるのかしら。

スマラルダスは子供に夢見すぎだよ。だいたい、キミが育てているスピネル君は私より子供らしくないぞ。


「今回、アイアンディーネ様が土地を購入頂いたおかげで冬の食糧が買えます。伯爵に納める分も。感謝申し上げます」

「いいえ。困りごとがあったらおっしゃって。新しい土地はまじゅうが多いので、狩人はかんげいしますわ。村長にもそう伝えてくださいませ。冬の間、たがいに健やかでありますよう」


村長宅からヘマタイトさんと道々話しながら村の入り口の青鹿亭まで戻った。

うーん、彼は大変実直な人だ。

そんな彼がここまで信用しているのだから、子爵は信用に足る人物か? と私は少し困惑。

けれど、村や、村長、エレスチャレ子爵の館の人達にはそこそこ好感度高い。


彼とは青鹿亭の前で別れ、私たちはスマラルダスの仲間が待ち受ける店の中に入った。






「まあ! 本当になにもないのね!」


ログハウスに成人男子4名、成人女子2名、子供2名。

ぎゅうぎゅうでんがな。

そんな状況なので、美少女さんは大層不機嫌です。

まあ、わかるけど。

ちなみに、この世界の成人は十五歳なので、スマラルダスとブルーレースは成人に数えられる。彼女は花の十五歳であった。


モルダヴァイトとコンクシェルは二十代の若者で、アンバー先生が最年長だ。

モルダヴァイトは温和で明るい、いや、やや軽い雰囲気の青年だった。だが経理一般は彼の仕事だという。

そして、対面時注目したのが、髪色。髪が…ピンクだった。

パールもピンクだけど…この世界では地毛がピンクはわりと多いのか…?

成人男性のピンク…。

コンクシェルはガテン系の体格で、スキンヘッドの青年。ヘアスタイルの理由は尋ねづらい。でもイケメン声の兄貴系だ。


そして、いかにも都会のお嬢様のブルーレースと三人で青鹿亭でホットワイン飲んでいた様は

「あー、都会モンがなんか管まきにきたのかぁ?」と思ってしまう異質感だった。


実際、店のお客様は彼らの他に一人もいなかったし、店主のおじいさんがいかにも迷惑そうな顔していた。

騒いでいたワケじゃないけど、よそ者に厳しいのはどこも同じよね。

ちなみに昼間からワインはこの世界の田舎じゃ普通です。ワインを温めて、アルコール飛ばしてお茶代わりにするのだ。秋から春にかけての寒い時期の飲み物。日本では甘酒的な立ち位置か。

江戸時代は甘酒は夏の飲み物だったそうだ。冷やし甘酒は結構美味い。


そんな彼らを回収して、荷物もログハウスへ持ってきて落ち着いたが、2LDKのログハウスでは今夜の寝床には手狭だ。


「コンクシェルには明日から城の建築に働いてもらおうと思っているので…。いっそ、今ここはもう一軒、建てますか」


アンバー先生があごに手を当て言い放つ。


「先生、働きすぎでは…」

「嬉しいな、アイアンディーネ様。心配してくれて。ですがこれくらい平気ですよ。基本的に魔力はスピネル頼みですから」

「そ、そうなの?」


スピネル君を見ると彼はしょうがないなという顔をした。


「私が作れるのはログハウスくらいですしね。きちんとした城砦を作るのは、その設計ができる魔法建築士じゃないと」


言って、先生はコンクシェルさんを見た。

コンクシェルさんは力瘤を作ってみせる。


「任せておけ。…で、場所は決まっているのか?」

「それはシルバートが調べた地形から決定している。ここから奥の森林を切って場所を作る。渓谷があるから…」


ふ~ん、とお話を聞いていたが、アンバー先生の言葉にハっとした。渓谷!?

思わず二人の間にずずいと割って入って地図を覗き込んでしまった。


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