6-8
朝が・・・寒い!
こんにちわ。
皆さんの為の歌って踊れるアイドルのアリスです。
最近は夜な夜な敷地内の探索です。
色々な所に忍び込んで情報を入手します。
むむ、これはスパイなのでは?
つまり私の「スパイ大作戦」が始まるのですね。
みっしょんいっぽっしぼーですよ!
「気抜いてると大怪我するぞ!」
リュードラルは爆発的な踏込みから剣を振り下ろす。
最初の狙いはバッボアだ。
「ふぬん!」
剣撃をバッボアは斜め下から迎え撃つように戦斧で迎え撃つ。
だが正面から打合えばドワーフの肉体を持つと言えども相手の方が上だ。
上手く角度を付け逸らすように叩きつけリュードラルの体勢を崩す事に成功する。
「お?俺の剣を逸らすか」
「フハハ、この程度なら造作もない事よ」
リュードラルの攻撃を逸らしつつ同じ趣向を持つ者同士で笑いが漏れるも表情は真剣だ。
どちらの攻撃が直撃でもしようものなら致命傷も免れないのをお互いが分っているからだ。
そのままリュードラルが攻撃しバッボアが流すのが続く。
俺は参加せずに距離をとって観察していたがアイはそうでも無かったようだ。
気配を消し無言のまま死角から短剣を繰り出す。
ギィン。
甲高い音と共にリュードラルの盾に防がれる。
「ハハ、お前も良い感じじゃねーか
この攻防の中に突っ込んでくるとはな
だが連携にもなってない攻撃じゃ俺には通じねぇな」
驚く事にリュードラルはバッボアへの攻撃を片手で行いつつ
アイの死角からの攻撃も簡単に盾で防いだ。
ゾクリと俺の背中に汗が流れる。
ありゃ・・・・強いな。
闘士を他に知らないが今のディズよりは間違いなく強い。
となると≪手加減≫中の俺じゃ苦戦する事は間違いないだろう。
どうする?スキル全オフだけにしとくか?
でもあまり手の内を見せたくもないしなぁ。
正面から真っ向勝負を楽しんでいるバッボア。
死角からの素早い攻撃を狙うアイ。
それぞれタイプの違う攻撃を軽々と防ぎつつ攻撃を続けるリュードラルの
技能と身体能力は本当に高い。
それでいて俺の動向にも目を光らせてるしな。
"お前は来ないのか?"
そう目で訴えてくる。
確かに俺が全力を出せばアイとバッボアを差し置いて
リュードラルを倒す事は可能だろう。
でもこれは試験だ。
出来れば全員で受かりたい。
と言うか恨みを買いたくないってのが本音だし必要以上に目立ちたくない。
じゃぁあの中に混ざるかと言うと微妙でもある。
バラバラに攻撃してる2人に混ざれるほど
俺は他人との連携は上手くない。
更に言えばどの程度の実力を出して行けば良いかも掴みかねる。
なるべくならリュードラルに合格と言われつつ倒される位が良いのだが・・・。
ここはアレだなナイスタイミングで戦いの輪に入って漁夫の利を掴むしかない!
一撃である程度のダメージを与えて認めさせる感じだな。
ビバ!他力本願!
と言う訳でタイミングを伺う事にする。
バッボアとアイの攻撃が弾かれた時が狙い目だ。
準備をしつつジリジリと場所を移動しチャンスを伺う。
「今ッ!」
俺は≪手加減≫を発動したまま≪投擲≫を発動する。
威力増加無し&命中補正だけを限界まで高めて"短槍"を投げる。
目標は股間のやや上よりだ。
音を切り裂いて短槍がリュードラルに飛来する。
剣と盾でそれぞれを相手をしていればどうしても軸である胴体が固定される一瞬がある。
そこを狙ったんだ。
更に≪投擲≫後に短槍を追いかけて≪魔力爆瞬≫を使い急加速をする。
リュードラルが驚いた様な顔をしているのが見えるが
知覚出来たとしても防御も回避も間に合わないだろ。
万が一に防御なり回避をされたとしても俺の追撃は入るハズだ。
コレって俺が2人を囮にしたって事になるのかな?
2人共に打合いをして実力もある程度見せれたと思うし・・・まぁ良いか。
カアァン。
そんな音と共にリュードラルに迫っていた短槍が視界から消えた。
「まぁ狙いと大胆さは評価できるわな」
そんな声がしたかと思うと上から猛烈な衝撃が襲ってきて吹き飛ばされる。
「グフゥ」
ゴロゴロと吹き飛ばされつつも何とか姿勢を立て直しガバっと立ち上がり追撃を警戒する。
と、俺の目の前にガランガランと短槍が転がってくる。
リュードラルは"コレでやったんだぜ"と言わんばかりに右足をプラプラと見せつけてくる。
それどころか両隣ではアイとバッボアが崩れ落ちていた。
「悪い・・・やり過ぎたようだな
連携は取れてないが流石に3人同時にくるとな
手加減がちょいと狂っちまった
お前にも結構なのが入ったハズだが・・・・大丈夫そうだな」
口では悪いと言いつつもニヤリと笑うリュードラル。
「その2人は合格?」
「そうだなぁ・・・・俺には物足りないが合格で良いだろうな
俺と打合えるなら新人闘士にしちゃ上出来だろしな」
「俺は?」
「お前も狙いとタイミングは良かったがな
威力がちと足りてないな
まぁだがさっきの蹴りに耐えられるんだ
まだ続けられるんだろ?」
「続けないと合格にならないんでしょ?」
「まぁ合格にしても良いんだけどな
折角試験官の依頼を受けたんだ
もう少し楽しみたいって思うのは仕方がないだろう?」
「このまま合格でも良いと思うんですが」
「ハハ、まぁ他にも見てる奴らは居るんだ
もう少し頑張ってみろ
俺を楽しませてくれたら評価に色をつけてやるからよ」
ふむ?邪魔だなよなと呟いて意識を飛ばしたアイとバッボア
を少し離れた所に放り投げた。
トタタと武装した兵士が現れて連れて行ったんだが
2人とも物のように扱われてたけど大丈夫なんだろうか?
「よし、これで思いっきり戦えるな」
全く意に介せず両手を広げてさぁ来いと言わんばかりだ。
仕方がないやるか・・・・。
転がされた短槍を拾い≪手加減≫を解除し身体能力を素の状態に戻す。
この状態でディズには勝てるがリュードラルには通じるだろうか?
最悪の場合でもスキルをオンにすれば負ける事は無いから
良いっちゃ良いんだがなぁ・・・・。
とりあえずやってみるしかないか。
スキルはオフのままで身体能力だけ解放状態。
どこまでやれるかなっと。
刺突の構えのままダッシュで距離を詰め数歩で短槍の攻撃範囲に入る。
今迄のリュードラルの攻防を見てる限りでは回避できる場合は回避するハズだ。
だからこそシンプルで無駄の無い動きで刺突を繰り出す。
だが最後の一歩は≪魔力爆瞬≫を使ってタイミングを外す。
急加速した俺に驚くでもなくリュードラルは僅かに動き剣で短槍を弾かれてしまう。
だが剣を使わせただけでも儲けものだ。
弾かれる直前に短槍を手放していたので予想以上に飛んでいく。
それはリュードラルも同様で想定していたよりも軽い手応えでバランスを少し崩してしまう。
既に距離は至近距離だ。
勢いをそのままにリュードラルの腹に拳を叩きこむ。
ズドンと重い音と共に数歩下がらせる事に成功する。
「ツテテ・・・・・
お前、その体でなんて重い拳だよ」
「良いの入ったと思ったんだけどな
全然堪えてなさそうだ」
「そりゃそうだろ
俺の胸にも届かないような奴の拳で倒れる訳ないだろ
まぁ多少は痛かったけどな」
チッ、腹部分は革だから打撃は通ったハズなのに頑丈過ぎるだろ。
≪重撃≫でも叩き込めばダメージを与えられたのかもしれないな。
右手で短剣を腰から引き抜き移動しつつ左手でナイフを狙いのみの≪投擲≫。
だがそのナイフは左手で簡単に受け止められてしまう。
「嘘だろ?
ナイフなんて掴めるものなのかよ」
「動きながら投げるナイフなんざ速度も出ないからな
そんなもん馴れりゃ簡単だぞ」
笑いながら言ってるが俺だって素の状態でも出来るかわからんぞ?
そりゃスキルをフル運用すれば楽勝だけどさ・・・。
さてどうするか・・・正攻法で行くしかないかな。
ジリジリと距離を測りながら間合いを詰める。
「お、正面から来るのか?やっぱそうじゃなくちゃな
っとその前にお前、ディズの知り合いか何かか?」
「さっきのよ急に速くなったのってアイツのお得意だろ?」
「あ・・・あぁ・・・ディズは俺の教官だ
そこで教わった」
「アイツ教官なんてやってんのかよ
つうかそれでかよ・・・・」
「何か・・・?」
「んー、そうだな・・・・
説明してやるから後で残れ
兵士達には俺から言って少しは時間を作ってやる」
「ん?何だかよくわからんがわかった」
「よし、それじゃぁ楽しもうぜ
来なッ!」
それからは正面からリュードラルとぶつかった。
短槍で突き短剣で払いナイフを投げ時折、体術も織り交ぜていく。
戦いは30分ほどでリュードラルの終了の言葉と共に終了した。
やりあって分かったが今の俺だと身体能力自体は上回っている。
だが戦闘経験や技術はリュードラルが圧倒的に上だ。
更に言えば圧倒的な体格の差があるのでスキルも魔法も
使用しない場合だと真面には勝てないな。
現に戦いは俺が一方的に抑え込まれたまま終了したし。
「ハハ、お前は面白いな
俺の攻撃を1発も喰らわないなんてどんだけだ
その年で化物かよ」
「そうかな?
こっちは全然届かなかったけど」
「その年齢と体格で俺と正面からやれるだけでオカシイんだよ
お互いに本気じゃなかったとしてもな」
「え?」
「はは、まぁ良いさ
後で迎えに行くから最初の部屋で待っとけ」
ニヤリと笑ってリュードラルはノシノシと戻って行った。
最初に通された部屋には俺だけ戻された。
アイもバッボアも処置室送りだそうだ。
少ししてリュードラルが入ってきてドカっと椅子に座る。
先程とは違い軽装だ。
「おう悪かったな
外の奴らには少し時間を作って貰ったからよ
まぁ大した物は無いがコレでも飲んでくれ」
そう言って腰のポーチから液体の入った瓶を出してきた。
ヒンヤリ冷えているのも驚きだが明らかにポーチよりも瓶が大きい。
「お、コレが気になるのか?
コレは俺が以前に迷宮で手に入れた収納鞄だな
俺はマジックポーチって呼んでるが結構高ランクで自慢の一品だ
見た目に比べて容量はかなりデカいぞ」
俺みたいになとガハハと笑う。
収納鞄は割と流通している魔道具ではあるが品質はバラバラだ。
シュードラルが自慢してくる物は確かに良さそうだ。
迷宮は難易度が高く階層が深くなればなるほど良質のアイテムや武具をGET出来る。
そのアイテムも相当な深層階で入手したんだろうな。
因みに貰った飲み物は仄かに甘く爽やかなハーブの香りがして美味しかった。
「それで話しとはなんでしょうか?」
「急にそんな口調になるなよ
さっきのままで良いぜ」
「そうですか・・・わか・・・わかった」
「ハハ、まぁどちらでも良いさ話しやすい方で良いぜ
でよ俺が聞きたいのはディズの野郎は今は何をしてるんだ?
しばらくの間、姿を見かけなかったんだが・・・・
教官をやってるんだっけか?」
「そうですね
"勝利者の栄光"と言う養成所で今は自分一人を担当してます」
「あいつそんなトコに居やがったのか
なるほどなそれで色々と繋がるか・・・・」
「教官とは知り合いで?」
「あぁ、闘士としても何回もやりあったし
偶に酒を飲んだりもしたな」
「なるほど・・・」
「今回の試験官依頼も知り合いから面白そうだから
受けてみろって言われてな」
「それが教官からだと?」
「まぁ直接じゃないし内容は全く聞いてなかったけどな」
豪快に笑うリュードラルは少しの時間だが色々と教えてくれた。
現役闘士と養成所関連の者が表だって親しくするのは好まれないらしい
そりゃ裏では色々と取引はあるのは間違いないだろうけどな。
ディズは現役の頃はソコソコと言ってはいたが
実際には相当な実力者で人気もかなり高かったそうだ。
だが上位陣の闘士と些細な件で揉めてしまい
ある多数戦の試合で嵌められて大怪我をおってしまった。
更に悪い事に回復師まで手を回して買収されていた為に
ズサンな処置しかして貰えずに後遺症が残る結果となったと。
他にも幾つかの事を教えて貰う事が出来た。
「まぁ困った事があったら俺に言って来い
面倒みれる範囲でなら相談にのってやる」
「ありがとうございます」
「また戦えるのを楽しみにしてるぞ
その時は今回よりも楽しませてくれよ」
そう言うとニヤリと笑いノシノシと部屋を出ていった。
こうして俺の闘士登録試験は終了した。
試験合格ですかねー。




