6-9
日中は暖かいですが朝と夜は寒いです。
そろそろ鍋を食べても良いのかもしれない・・・・。
闘士になる為の試験に合格した森山実留です。
もうバンバン倒してドンドン上にのし上がってやりますよ!
・・・・・あれ?俺がやりたい事って闘士だっけ?
「あっはっはっは」
個別練習場で弓の練習をしてる俺の隣で大声で笑うディズ。
「何で本当の事を言ってくれなかったんですか?
あの試験はちょっと上のランクどころじゃ無かったですよ!」
「そりゃアレだ
お前の養成所内での評価を無駄に上げたくないからな
職員も手続きに必要な一部の者を除いて同じように言ってある
それに担当する試験官によっては温い試験にもなっちまうしな」
「どんなに試験官のランクが下がっても現役が来る事には変わらんでしょうに・・・
ところでなんでまたそんな事を?」
「前にも言ったろ
初戦の賭けで美味い思いをする為だ
周囲の評判は低く参加する試合ランクは高くってな
まぁ初回しか使えないってのはあるが
最初に元手を大きくするには有効だろ」
「そんな事が出来るモノなんですか?」
「ある程度はな
養成所内の下馬評なんざ関係者からの情報しかねぇだろ
要職の奴らは誤魔化せないが情報の漏えいも無い・・・ハズだしな」
「要職ってのは手続き等をする方々ですか?」
「そうだ
養成所内でも申請や手続き又は管理に関わる者達は国から
ライセンスが発行され情報漏えいや不正に対して厳重に指示されてるんだ
そりゃまぁそこらが不正やらなんやらしたら闘士ってシステム自体が
ボロボロになっちまうからな
まぁ・・・そいつ等だって全員が潔癖って訳でもないからな
ある程度ってのはそう言うこった」
「どこの道にも暗い部分はあるって事ですか」
「まあな
それに上のランクの試験を合格した奴ってのは
初戦も厳しめに組まれちまうからオッズは上がり易いってのもあるからな
出来るだけ挑戦した方が何かと都合が良いのさ」
実際に効果があるかは試合が近くならねーとわかんねぇけどな。
そう笑いながらも弓を使う俺に様々な指導を的確に入れてくる。
「そう言えば試験官が教官と知り合いの様でしたが?」
「おう!リュードラルの奴だろ
知人に頼んで話しを流して貰ったからな
まさか本当に出てくるとは思わなかったがよ」
「まぁ何と言うか豪快な方でしたよ」
「アイツは変わり者だからな
悪い奴じゃないから知っておけば何かあんだろうし
それにまぁ現役闘士の実力を肌で知れただろ?」
「えぇ、全く勝てそうな気がしませんでしたよ」
「ハハ、やっとお前に限界を見せてやれたな
あんなのがゴロゴロいるのが闘士って奴らだ」
機嫌よく笑うディズにスキルを使えば簡単に勝てそうだったとは言えないよなぁ。
「なんにせよこれで無事に闘士に登録されて
俺もちょいとは潤う事が出来るって訳だ
万事上手く行ってるんだから良いじゃねぇか」
「そりゃまぁ・・・そうなんですが・・・」
「俺の読みが正しければ初戦で
お前の金額の半分は稼げると思うぜ」
「良く考えたら自分が賭けで大金を稼ぐのって怪しまれません?
奴隷が元手となる大金を持ってる訳もないですし・・・・」
「あぁそりゃあな
バレたら俺も不味い事になるわな
だからお前の分は裏でコッソリとやる事になる
直接の金はお前には渡す事は出来ないしな」
「では教官が管理を?」
「いや・・・それも問題があるな
お前と離されたらそれまでだし
何処からかバレる可能性だってある」
「となると他に預けるような伝手があると?」
「裏の人間だけどな
俺に知り合いに丁度良い奴がいてよ
ちょいとばかし・・・いや、結構ボラれるが
顧客の事と賭け金は絶対に守ってくれる
奴らは信用が大事だからな」
「なるほど・・・・」
「それにアイツらは色々な人間を雇ってるから
手を換え人を変えて接触する事が出来る
万が一俺が死んでもお前の金は守ってくれるさ」
「裏の人間ですか
教官がそこまで言うなら信用しますが・・・」
「ソイツにはちょいと貸しがあってな
良くしてくれるかはわからんが仇で返す事はない
キッチリと役目は果してくれるさ
それに信用第一の世界って言ったろ
表の世界なんかよりもよっぽど大事なんだぜ
同じように奴隷の闘士で使ってる奴も結構いるしな」
裏の人間か・・・まぁそりゃ居るだろうな。
国自体が闘士として賭けをしているんだから非公式な組織もあって当たり前か。
俺の初戦までは残り僅か。
少しづつ状況は進んで行く。
と思った数日後に予想外の方向に進んで行った。
「身売りですか?」
養成所内の個室に呼び出された俺はディズにそう言われた。
後ろには何時かの坊主頭が立っていたが見るのは久々だ。
「あぁ、お前を買いたいって方が現れてな」
「それは別の養成所と言う事ですか?」
「いや、個人の方だって話だ
俺もまだ会ってない」
「そうですか・・・・」
そこで坊主頭がスッと前に出てくる。
「一応、A17には選択肢がある
このまま此処に居るか買われるかだ」
「自分の立場で選べるんですか?」
「此方もここまで育てたんだ手間と金がかかっている
闘士としての初戦もほぼ決まっている状況だ
それをわざわざ手放すのも損だろう
もっとも相手の金額次第ではあるがね
お前の担当教官に本人の意見を聞いてくれと
強く言われたと言うのが一番だが・・・」
と、チラっとディズを見ると少し気まずそうに視線を逸らした。
坊主頭が説明してくれるには
このまま居ても良いが闘士としてデビューした後は
同じ養成所内でも別の場所に移る事になる。
基本的に教官は同じだが変更になる場合もある。
身売りを承諾した場合は養成所から買い手に所有権が移り
その後はどうなるかは不明。
衣食住もどうなるかもわからない。
だが・・・もしかしたら奴隷としては解放されるかもしれないし
闘士、戦奴として命を賭ける事もなくなるかもしれない。
だがまぁこんな状況の奴隷を買おうとするんだから
間違いなく闘士か他の戦力として買うんだろうけどさ。
「今後がどうなるかもわからないなら
残った方が良いように思えるんですが・・・」
俺の疑問にもっともな質問だよなって顔のディズが答える。
「その場合はお前の借金に金が加算される事がある
買い手側と養成所側との交渉内容次第だがな
養成所を損させない条件を掲示してる場合に
本人が拒否をする訳だしな
養成所が損をしない為のシステムの1つだ」
「養成所が儲かるハズだったのに断ったから
それをお前が被れ・・・・って事ですかね?」
「状況次第にはなるが・・・端的に言えばな
普通はそんな面倒な事はしないで
買い手と養成所だけで決めてしまって従うだけなのさ」
「それって大丈夫なんですか?
物凄く悪用されそうなルールなんですが・・・・」
ディズがフッと笑うと坊主頭をクイッと示す。
「前に言ったろ国公認の者達が居ると
コイツもその1人で優秀なエリート様だ
余りにも優秀過ぎて自分の頭の屋根はどっかにいっちまったがな」
「そのエリート様にそんな事を言うのもお前だけだがな・・・」
坊主頭はハァーとため息をつくも怒ってる感じではなさそうだ。
「A17が言っている事はもっともだ
過去にそう言った事例があったのも間違いない
だがな 闘士は国の重要な財政源でもあり強さを支える土台でもあるからな
不正については国を挙げて取り組んでいる
売買契約等は結ばれなくても申請があった旨は
管理局に届け出る必要があり厳重に管理と精査し
国として管理しているので安心していい」
「そう言う事でお前を呼んだんだが
今回は買い手がどうしても一旦会いたいんだそうだ
幾ら出すかはその時に決めるとな
そんな怪しい奴は普通なら養成所としても断るんだがなぁ・・・・」
どうも聞く所によると俺を買いたいと申請してきているのは
この国でも優秀な冒険者らしく無碍に出来ないのだとか。
そんな時の落とし所として奴隷に課金するような事もあるのだとか。
滅多に無いとは言え酷いシステムだ。
対象となる奴隷にはまるで救いがないからな。
まぁ何とも言えない感じだが所詮は奴隷だしな・・・。
選択肢があるだけマシに思えるがそれが罠なんだろうなぁ。
「でだ、今から会うが
A17、お前は質問された事に答えるだけで良い
交渉やその他は全て私が行う
担当教官も同席を許可するが回答以外の発言はしないように」
「わかったよ」
真面目な口調で話す坊主頭にやれやれと言わんばかりにディズは両手を上げる。
坊主頭を先頭に先程の更に奥の場所に進む。
俺が居るのが奥なのだから表に近くなっているのかな?
内部は妙に複雑な作りになっているのは逃亡防止の為なんだろうか。
失礼のないようにな。
事前にそう釘をさされて部屋に入る。
俺だけじゃ無くチラリとディズを見ていたから2人共だぞとの意味だろう。
中に入ると客を迎える為の応接間だろう。
ギリギリ嫌味になるかならないかと言う絶妙と言うよりは
微妙な感じに飾られた室内だった。
金は掛けたくないが見栄も張りたい。
そんな気持ちが漂ってくる室内に2人の人物が椅子に座っていた。
向かって右側は獣人族の女性。
人族に獣耳が生えた様な感じではなく全身が毛で覆われている種族だ。
白に近い銀毛で覆われており鍛えられた肉体と相まって鋭さを感じる。
防具は毛と合わせているのか艶消しの鈍い銀色の部分鎧だ。
左側は人族の女性で何と言うか・・・・とても綺麗だ。
本当に生物なのだろか?と言わんばかりの美しさだ。
そして微笑んでいるだけなのに妖艶な雰囲気を醸しだしている。
黒く濡れているかのような艶やかに髪に吸い込まれそうな黒い瞳。
防具のような物は身に付けてはいないが足元まであるローブを
全身にゆったりと纏っている。
見た目だけで言うなら獣人の方が戦士で人族の方が魔法使いだろうか。
坊主頭が挨拶をしているが獣人族の方は俺をずっとみていた。
見ていたのだが・・・・その両目は閉じられている。
と言うよりも横一文字に怪我、いや古傷があり
開かないと言うより開けないと言った方が正しいのかもしれない。
明らかに目が見えていないハズ・・・・なのに俺は見られていると感じる。
「おい、ララよ
やっぱり私の視た(・・・)通りだ
間違いない」
「あら?ならもう決めるのかしら?」
「そうだな・・・・ちょっと待て・・・・」
そう言って立ち上がりジッと見つめ(・・・)ながら近寄ってくる。
獣人族としては標準な身長だろうが引き締まった体は鋭い刃を想像させる。
全体的に毛が覆われる獣人系の種族は可愛いと称される事も多いが
目の前に居る銀毛の女性は何処か凛々しく美しく感じる。
もう1人の女性が妖艶な美しさならこちらは気高い美しさと言ったところだ。
俺の頭をガシっと両手で掴みジッと覗き(・・)こむ。
「ハハ、やっぱりだな!
私の眼に狂いは無さそうだ」
そして愉しそうに笑う。
「ふふ、それは良かったわ
じゃぁその子で決まりね」
「そうだな・・・便利そうだと思ったが
意外と楽しめるかもしれないな」
「ふふ、貴方がそんなに言うのも珍しいわね」
「そうか?そうでも無いと思うけどな」
坊主頭の挨拶も無視して俺に注目する2人の女性。
笑い合う2人に置いて行かれる坊主頭に俺にディズ。
「すいません
席に座って頂けないでしょうか?
とりあえず話しをしたいのですが・・・」
「そうよミガ
ちゃんと座りなさい
無作法よ」
ララと呼ばれた女性が坊主頭に同調するも
お前も止めてないだろうにと無言のディズが目で語っていたけど。
「すまない
ちょっと興奮してしまってな」
「いえ、問題ありません
早速ですが条件の交渉に入りたいと思いますが
宜しいでしょうか?」
坊主頭がそう言うとミガと言われた獣人の女性は隣のララを見る。
そしてララはコクリと小さく頷く。
まるで好きにしなさいと言わんばかりに。
「そうだな・・・・よし、言い値で買おう
好きな額を言え」
「わかりました
お売りしましょう」
ミガのストレートな物言いに
これまたストレートに返す坊主頭。
なんだか良くわからない内に
あっさりと俺の身売りは決まってしまったようだ。
あれ?俺に選択肢あるんじゃないの?
あれ?闘士の件はどこいった?




