6-1
お待たせしました。
新章開始となります。
少しの間は不定期になると思いますが宜しくお願いします。
どうも劣悪な環境に転生したっぽい森山実留です。
臭いし暗いし寝てる背中は痛いです。
とっとと脱出するに限るですよ。
現在、俺が居るのは石造りの部屋だ。
周囲に感じる生命反応は12で俺を入れて13だ。
その割に部屋の中は広く寒々とした感じを受ける。
「ふぅ、まずは状況を把握しなきゃな」
深呼吸してから落ち着いてから再度体をチェックする。
少し幼いような感じも受けるが生後間もない感じでもなく普通に少年の体だ。
右肩から左脇に抜けて大きな傷がありスキルによる回復が続いている。
表面的な傷は消えているが奥に鈍い痛みが広がっている事から
相当な重傷だったんだろうと予想される。
他にも幾つかの大きな傷痕も確認出来たが命に別状は無さそうだ。
回復系のスキルがあって本当に良かったと思う。
落ち着いて考えると随分と酷い怪我だったようだな。
こびり付いた血もそれを物語っている。
他にも古い傷跡が幾つもあるが
転生以前の古傷のようでスキルでの回復はしないようだ。
それにしても今回はどうなってるんだ?
どうみても生まれ変わったばかりには見えないぞ。
=========================
名前:森山実留
性別:男
種族:人族
≪人族≫
神が自らの姿を模倣し作ったと言われる種族。
秀でた能力が無い代わりに劣った能力も無いのが特徴。
支配力と欲望が強い傾向があり適応力と繁殖力が高い。
広く世界に分布しており最も数が多い。
個体としての強さはそれ程でもないが
時折、頭抜けた個体が現れる事もある。
=========================
ステータスを見るとやっぱり人族に転生したようだ・・・・
だけどこの状況はなんだ?
明らかに変だ。
骨の時に似てるけど≪アンデット属性拒否≫は入れてるから
死んでいる訳でも無いし。
色々と見ても触っても生身だ。
心臓も動いてるし痛みも感じる。
よくわからんが状況を考えると
大怪我で死んだ体に入ったって事か?
確かにあの怪我なら死んでいてもおかしくない。
つうか俺じゃなかったら死んでるぞ。
でもなんで人族なんだ?
種族的にも能力値はそんなに高くないだろ?
突っ込んだポイント分は何処に行った?
ふむ・・・・サッパリわからん。
だがまぁ神は"俺の魂も影響する"みたいな事を言ってたからな。
死んで魂が抜けた体に俺が無理矢理入り込んだとすれば・・・納得できる・・・か?
でもあれか・・・要点だけ考えてみれば骨の時と同じか。
死んだ体に入るだけで新しく誕生した訳じゃないしな。
アンデットじゃなくて生身のまま人族に入れたのは
ポイントのお陰って事か。
まぁよくわからんが大体そんな感じだろ。
ここら辺は次の転生時に聞いてみるしかないけど
聞いてみた所でなぁ・・・・意味はなさそうだな。
なんにせよ人族に転生出来た上に年齢も若いが
ギリギリで子供すぎるって程じゃないし
直ぐに行動出来るのはありがたい。
後はここの状況次第だ。
体を軽く動かしてみても怪我が多少痛む程度で動きに違和感はない。
他人の体に入ったが動きに齟齬は無い。
それに明らかに体のキレが良い。
俺がこの位の歳の時ってこんなに体って動かなかっただろ。
頭の中のイメージ通りに体が動く感じだ。
これは転生時の引き継ぎボーナスのお陰かな。
体内に眠る魔力も以前よりも力強く・・・濃く・・・深く感じる。
魔力系にポイントを注ぎ込んだ甲斐があるってもんだ。
体は動くし此処を出るだけなら簡単だろう。
普通の鉄格子なんか今の俺には意味を成さないし
岩壁を掘って出て行ったって良い。
見た感じでは普通の石のようだし≪構造解析≫しても石だ。
周囲を見渡すと粗末な小さなパンと水が置いてあった。
多分、俺の分だろうと思い頂く・・・・が酷くマズイ。
パンは硬いし味も無い上に水は温い。
それに子供とは言えこの程度の量じゃ足りないだろう。
絵に描いた様な劣悪な環境って感じだ。
寝床があるだけマシかもしれないけどね。
気になるのが手足と首のリングだ。
明らかに何か目的があって付けられてるのがわかる。
邪魔くさいがそこまで重くないのが幸いだけどやっぱり邪魔だ。
=========================
≪隷属の輪≫
行動範囲と魔法行使を抑制する魔道具。
集団登録が可能で多数の管理が容易となる。
装着者の魔力を動力源とするので効果は半永久的。
取外しは契約者のみが行える。
種類:道具
等級:上等級
品質:良品質
作成者:王国闘士管理局
管理者:勝利者の栄光
=========================
案の定リングはそういった類の物か。
試しに簡単な魔法を発動しようとしたが
魔力が霧散してしまい構築式が崩れてしまう。
魔法発動の為の魔力を糧として魔法発動を阻止する。
なんとも嫌らしい仕組みだ。
だが所詮は等級も高くない魔道具だ
対応できる魔力量には限界があるハズ。
攻撃魔法はマズイから感知系で周囲を探るか回復系で傷を一気に治すかだな。
時間はもう少し掛りそうだけど回復はスキル任せでも大丈夫だろう。
今は現状を知る方が先かな。
≪魔力感知≫≪周囲探索≫≪生物感知≫等を基礎として
自分が居る位置を中心とし広範囲に建物の構造と生命反応を拾う。
結果を≪オートマッピング≫に紐づけるように魔法を構築していく。
スキルを連携した魔法を構築すると必要魔力が多くなる傾向がある。
効果範囲を相当に広げているので2つの≪効率化≫が機能していても
必要魔力がズンドコ膨れ上がるが増えた魔力量で問題無し。
ふふふ・・・今なら老人神にでもダメージを与えられる気がするぜ。
周囲が寝てるのを再確認し魔法を発動する。
魔力がリングに吸収され構築式を崩すような力場が発生する。
「たかがこの程度の魔道具
扱える限界はあるよね」
念の為に構築式を維持しながら少しづつ魔力を注ぎ込んで行く。
吸収されていた魔力の勢いが少しづつ減少していく。
こんな感じで段階を踏んで魔法行使が出来るのも≪創造魔法≫のお陰だ。
やっぱり限界値はあるか・・・・でも攻撃魔法1発分位だぞ。
そんなんで限界来ちゃったら少しでも魔法が使える奴なら簡単だろ?
今回の魔法の発動状態までは全然遠いんだけど・・・・。
まぁ良いか。
俺にとっちゃ悪い事でもないしな。
それに周りを見るに若い子しか居ないからそこまで魔法を使えないのかもしれないし。
少しづつ収まっていた魔力の吸収が完全に止まる。
パチン。
何かが弾ける音がした。
「ギッ!」
「アガッ!」
と同時に周囲から苦悶の悲鳴があがる。
答えはわかってる。
それは今も俺の体を流れてる高電流を流されたような痛みだ。
どうやらこの魔道具は魔法を発動させようとすると苦痛を与えられる仕組みのようだ。
個人だけじゃなく周囲までにな。
"集団登録が可能で多数の管理が容易となる"
ってそう言う事かよ!
誰かが逃げたり反抗的な事をすれば
周囲にも苦しみが広がるから逃げれないのか。
個人の苦しみも然ることながら集団で管理するね。
なんとも酷いシステムだ。
部屋に居る12人全員が悲鳴を上げて苦しんでいる。
俺は強化された能力値と各スキルのお陰で多少は痛みは感じるが
俺以外はそれどころじゃなさそうだ。
ビクンビクンと体を痙攣させながら苦しんでいる。
時間にして1分は続いただろうか。
死ぬほどのレベルじゃないが相当な苦痛だろう。
口から泡を吹いて気絶してる者も出てる。
「だ・・・・誰だ・・・・?
魔法を・・・つか・・・使ったのは・・・?」
そんな中で苦しんでいる中の1人が声を出す。
他の者よりも少し体が大きいので耐えられたんだろう。
状況が良くわからずに少し挙動不審になった俺と目が合う。
「17番・・・・お前か・・・・
助かったん・・・だな・・・・」
体のアチコチが痛いのだろうが
立ち上がり俺に近寄ってきた。
「あ・・・・あぁ・・・」
まだ辛そうではあるが電撃から数分で息も整ってきている。
回復力スゲーな。
俺の脇まで来るとドカっと腰をおろし話しかけてきた。
「あんな怪我から立ち直るはな・・・・
体が危険を感じて無意識に魔法を使ったって所か・・・」
やばい。
やっぱり魔法は禁止されていたんだな。
と言うよりも今の状況を全然理解してない。
此処は何処なのか?
俺の元は誰なのか?
何もわからないんだ。
くそ、こんな集団の中に放り込まれるなんて
全然予想して無かった。
新たに生まれて牛乳や犬乳でハッピーがスタートなんじゃないのか?
「・・・・・ん?
お前どうした?
何か変だぞ?」
「あ・・・・いや・・・・その・・・・」
「おい・・・・17番・・・・大丈夫か?
そういえば頭も強く打ったと聞いたけど・・・」
大丈夫かと言われてもわかんねーぞ。
そもそも頭も怪我してたのは気付いてないし。
触って見ても血もコブも無いし・・・・。
「おい、本当に大丈夫か?
まさか覚えてないのか?」
「あ・・・いや・・・・うん・・・
そう・・・かな・・・」
「コロシアムでの試験だったのは覚えてるか?」
「いや・・・」
「え?じゃぁ此処がどんな場所かは?」
「・・・・いや」
「え?じゃぁお前の出身は?
小さい頃に何処に住んでたってのは?」
「それも・・・・」
「は?何も覚えてないのかよ!」
「そ・・・うかな・・・」
「はぁ・・・・・・
そう言えば頭を強く打ったりすると
記憶が無くなる事があると言うが・・・」
「ごめん」
「いや・・・謝る事じゃないさ」
「そ・・・そう?」
「此処じゃ調子が悪かろうが怪我をしてるだろうが
動けさえすれば扱いは変わらないからな
もっとも動けなくなった場合は今よりも扱いが酷くなるけどな」
「そうなのか?」
「覚えて無いかもしれないが此処はまぁ最低の所だ
お前の体中の怪我だって此処での所為だろ?」
「い、いや
覚えてないし」
「そういやそうだな
記憶が無くなる奴と話すなんて初めてでよくわかんねーな
なんにせよ珍しいし大変だと思うが扱いは変わんないだろうな」
「そ、そうなんだ
でもその扱いってのもよくわからないし」
「まぁ・・・・そうだよな・・・
俺がどうにかしてあげれる訳じゃ無いからな
説明位はしてやるさ」
周囲で未だに出る苦悶の声に囲まれながら
目の前の名前もわからない同僚は俺に説明をしてくれた。
薄ら寒い石作りの部屋で俺の新たな生活が始まる。
さて、アリスは何時出てくるのか!




