5-56
暖かい日が増えてきましたね。
花粉の時期です。
何故か魔王に巻き込まれた森山実留です。
しかも妹は相手側ですよ・・・・。
どうしてこうなったのでしょうか?
それに俺だけ個人での参加ですよ。
他の3人と立場が違い過ぎやしませんか・・・・。
「ほう・・・・ここがそうか・・・・
上位の神専門の通用路ね・・・
ハハハ
相変わらず君は面白いな」
今、俺は魔王を伴って老人神の場所に繋がる通用路の前に居る。
隣には魔王が居て実に楽しそうだ。
なんでこんな事になったんだか・・・・。
声を掛けるタイミングを失ったまま勇者は振り返らずに出て行き
実里も何かを言いたそうな顔をしながら後をついて行った。
「ちょっと!何で俺が魔王側に加担する事になってんのさ」
「ハハハ
向こうもこっちも2人づつで丁度いいじゃないか
それにまぁ・・・気にするな
戦争なんぞおこらんよ・・・・多分な」
「そうなの?」
「国が動くと言う事はそんなに簡単じゃないのさ
今回の件は叩かれる事はあっても
他国に迷惑を掛ける訳じゃないしな
まぁ・・・魔族と聖神教のイザコザも合わせて
切っ掛けにはなるかもしれないが
今すぐに全面的な戦いになる事はないだろうさ」
「じゃぁなんであんな挑発するような事を?」
「一種の警告を含めた牽制だな
簡単に言えば"自国内の事に口を出したらどうなるかわかってるな?"だ
聖女君の協力は得られなくなったが仕方あるまい」
「そんなもんなのか?」
「それに勇者君と聖女君の言い分もわかるしな
現状では"あの2人はああ言うしかないんだよ"」
「どういう事だ?」
「お互いの立場と言うモノがあるからな
勇者君はここで私に同意してしまえば
元連合軍関連の国や団体に非難されるだろうし
聖女君がそうなれば聖神教は割れるかもしれない
どちらも世界に多大な影響が出るだろう
何とも難しいモノだな」
「なるほど・・・立場を演じる事も必要って事か」
「フフ・・・そうだな
もっとも勇者君の場合は私が憎くて仕方がないのは間違いない
それが憑代ならば仕方がないだろう
アレはそう言ったモノだからな」
「ん?それはどういう事だ?」
「ハハ・・・そこまでは教えれないね
勇者君にでも聞いてみたまえ
その際には本国に直接会いに行く事を進めるがね」
楽しそうに笑ってはいるがそれ以上の事は教えてくれなかった。
勇者に直接会いに行く・・・・ゾッとするな。
「さて・・・・では現状を説明して貰おうか
彼の地では一体何が起きている?」
嘘と黙秘は許さんと言外に猛烈な圧が襲いかかってくる。
一瞬、強制転生も考えたが逃げればどちらにせよキリル達が死んでしまう。
仕方なしに余計な事は言わずに現状だけを説明した。
「そんな事になっていたとはな
気配を読むのは苦手とは言え神の存在を掴めてなかったのは悔しいな
その辺りは現地に行って無いとは言え未だに聖女君の方が上か・・・
それに君が神を召喚ね・・・・フフ・・・」
「あぁ、だから後1日しかないんだ
聖女を連れて行かないと!」
「少し落ち着け
聖女君は先程の話から連れて行っても解決出来んぞ
君の友人達を守りたいのだろう?
私が行こうじゃないか」
「え?本当に行くのか?」
「ずっと私が何とかすると言っているだろう?
こう見えて多少なりとも腕には自信があるのでね
それに自国内の問題なんだ
放っておく事も出来んだろう」
「大丈夫なのか?
あれは神・・・みたいなもんだぞ」
「さてね
私の力が通じればいいんだがね」
現状では実里は神擁護派だ。
老人神を直に見たら考えが変わるかもしれないし
ファーバンの事を説明すれば状況は動くはずだが
間違いなく本庁に連絡が行く事になるしどう判断されるかわからん。
俺も一応は聖騎士な立場なんだからバレると身動きが取り辛い事になるだろう。
・・・・・うん、何とかするなら魔王でも良いのか。
なんにせよ老人神を抑えつけれる程の者が居れば良いんだし。
「わかった・・・連れて行こう」
「フフフ、我が国の事なのに連れて行かれるのは私か」
「他意はないぞ」
「まぁ良いさ
現状を打破できるように対処してくれたのは君だ
それには感謝し私は協力者という形で良いさ
・・・・・でだ
君の事は教えてくれるんだろうね?」
更に怒涛のように押し寄せる圧力にビビる。
だがここで俺の事を離せば絶対に実里にまで辿り着いてしまうだろう。
「自分の事は話したくないし話すつもりもない
今は協力しているが以前に俺を邪魔で殺しただろ?
そんな奴と仲良くするつもりもない」
スキルで隠蔽しているのを再確認し目を見つめ強気で拒否を告げた。
協力はするが馴れ合うつもりはつもりは無いと。
「・・・・・フフフ・・・・・・フフ・・ハハハハハ
良いね!良いよ!ミノル君
正直に言えば君の能力や再度現れた仕組みについて興味はあるが
他人の秘密を無理矢理知りたいと思う程には下種ではないつもりだ」
「なら一時の協力関係って事だな」
「フフ、そうだな今はそれで良いとしよう
私は君が気に入ったよ
以前の事は水に流して貰えると嬉しいね」
「人を殺しといて許して貰えるとでも?」
「許して欲しい・・・・とは思うよ
それはこちらが決める事ではないしな」
「魔王が許しを請うとはね
全く変な状況だ」
「殺した人物と話してる状況と言うのも相当に変だけどね
是非とも仲良くしたいと思っているのは本心だよ
それに何となくだが君の秘密も予想は付く・・・・かな
以前、君を殺害した後から妙に私も冴えているものでね」
楽しそうに笑う魔王。
俺に危害を加えそうな気配は無いが・・・面倒な事になりそうだ。
準備の為にさっき通ってきた部屋に戻る事に。
途中で武具や色々な道具を空間にポイポイ仕舞った事から
俺と同じようなアイテムボックスか収納系魔道具を持っているんだろう。
「そう言えばミノル君は此処を通って来たのだろう?
良く私の武具に手を掛けなかったな
自分で言うのも何だが自慢の一品なんだがね」
「そりゃ・・・・人の物を盗むなんてのはねーアハハ」
「フフ、手は付けてないが少しは悩んだようだね」
「ちなみに盗ってたらどうするつもりで?」
「それは勿論・・・・・殺すだろうね
再度、魂までも消滅させてあげよう
それでもミノル君はまた現れそうではあるがね」
笑ってるけど目がマジだ・・・パクんなくて良かった。
そういや前回は魂を消滅されそうになったんだよな。
魔王はそこまで消滅させたのに復活したと考えているようだが
実際にはギリギリで離脱したんだよな。
「もっとも実力が伴って無ければ食われるだろうがね」
魔王がポソっと呟いていたがスルーしておいた。
寝室から階段に向かう際に魔王が思い出したように言う。
「おっと・・・流石に私が不在は不味いな
"分身"」
そう呟くと目の前に魔王が2人居た。
少女姿のいつもの魔王と少し成長した女性と言うには少し若い位の女が。
「久しぶりにこの姿になったな
最近は戦いとは無縁だったからな」
「え?なにそれ?
え?そっち?どっち?」
「フフ、混乱してしまったかな」
そう言って小さい魔王に何かを囁いた。
小さい方はコクンと頷き部屋を出て行った。
「私には勇者君のような憑代は動かしたりは出来ないが
分身体を作る位は出来るのさ」
「え?でも今の姿は・・・?」
「分身体を作ると言っても要は分裂でね
能力と外見を与えると同じモノは使えないという制限があってな
今は内政に関わる能力と最低限の戦闘力を別けたのさ」
「となると幾つもの外見がある?」
「理解が早いな
外見と言ってもある程度の年齢別と言った方が正しいかもしれないがね
ちなみにこの位の年齢の体だと普段の姿に比べて扱える魔力が格段に増えるぞ
身体能力も比較にならない程にあがる
まぁ・・・色々と問題もあるがな」
「・・・・外見が変わると能力値が変わるって事か
それに分身は作れるけど作る程に能力が減る・・・・か」
「ハハハ
理解が早いな
それに分身は独立して動けるが意識はリンクしているので便利だぞ
まぁここまで話したのは君が久しぶりだ
私が仲良くなりたいと言ったのは少しは信じて貰えたかな?」
「・・・少しはな
ん?その姿でって事は更に成長した姿ならもっと強くなるのか?」
「それは難しい所だな
余りにも上の年齢にしてしまうと魔力が増えもするが
肉体的な能力は劣る事もあるしな
使えるようになる能力もあれば逆もある
全盛時代は今の体よりも更に上になるがな
一概に戦闘力と言うだけでは比べられないさ」
「割と制限が多そうだな」
「全くだ
勇者君の憑代の方がよっぽど融通が利くさ
その代わりに分身体で出せる出力は私の方が圧倒的に上だがね」
「俺からすりゃどっちもどっちだけどな」
「ハハハ、ミノル君も同じ神の加護があるんだ
いずれ似た様な事が出来るようになるさ
それとも私達とは違う系統の能力なのかもしれないしな」
魔王は可愛らしい笑顔で微笑む。
全てを見透かしていそうで怖いぞ、おい。
勇者の憑代は適応する個体が必要で遠隔操作だ。
能力値は相当に強化されるが本体に比べると何枚も落ちる程度になってしまう。
魔王は分身を作れ同一個体として行動出来るが
外見と能力のリソースを割かなければいけない。
作れば作るほどに外見と能力の選択肢が少なくなり
本体の絶対値が低くなるのがデメリットか。
それぞれに俺が知らない事も色々とあるんだろうけど
どっちもどっちだよな。
勇者と魔王・・・となると実里も似た様な事が出来るのかね?
その後は時間が惜しいと言う魔王に率いられて
説明しながら階段を下って行った。
その際に地下迷宮についても簡単にだが教えて貰えた。
元々は魔王が見つけた迷宮で自己鍛錬に使っていて
後から上に街を作った形なんだそうだ。
どうも迷宮の影響は外にも及ぶが外の影響も迷宮に少なからずあるようで
住民が少しづつ増えてくると迷宮の影響も強くなってきた。
だが流石に魔王といえども1人で迷宮を抑え続ける事は出来ないが
街の地下に不特定多数がうろつくのも気に入らない。
なにより自分が見つけた迷宮を他人に使われたくない。
ならば迷宮から溢れる魔力を利用してしまえとしたらしい。
だからあの魔法陣か・・・・。
迷宮の魔力を還元すると共に隠蔽に使っているんだな。
魔物が強く劣悪な環境から街を守る手段にも役立っている。
上手い事出来たもんだよな。
「ミノル君が望むなら使わせてあげても良いんだよ
気を抜くと私でもうっかり死にそうになるけどな」
そんなに高レベルな迷宮なら色々とスキルなんかもGET出来そうだけど
魔王で死にそうって俺には無理だろ。
曖昧に笑ってごまかしておいた。
因みにサイラスの中心にある魔王城の基礎が
大規模な魔法陣の中枢として機能しているそうだ。
それ以外は迷宮からの魔力を還元するような作りらしい。
そして冒頭に戻り通用路の前に居ると。
「この向こうに老人神が居る
まだ抑えつけられていると思うんだけど」
「ふむ
気配等は感じられないけどな」
「ファーバンが言うには空間を渡れるだけで
連続して繋がってる訳じゃないとは言ってたけどな
だから気配とかは分らないんだと思う」
「なるほどな・・・流石は神の技と言う事か
その神は相当に優秀のようだな」
優秀?優秀なのかねぇ。
そりゃ神だから俺達には出来ない超常の事も簡単に出来るし
戦闘になったら勝ち目なんてないだろうけどさ
優秀か?って聞かれると・・・・うーん・・・。
実際に神に繋いで貰ったとしか説明出来ないし
実際に見て判断して貰うしかないな。
楽しそうに鼻歌を歌っている魔王を引き連れて
老人神の元へと通用路をくぐった。
あっ、試作ナイフについては話す機会が無かった。
魔王が持ってるのは感じれるんだけどなぁ。
楽しそうに笑顔ではあるんだけど妙にピリピリした何かは感じるんだよなぁ。
そんな事を考えながら戻った先は何やら酷い事になっていた。
ガラクタ山に黒い網で絡め取られた老人神とキリルとリース。
ピクリとも動かずに空間毎固定されているかのように
それは変わりなくそのままだ。
だがそこに聞きなれた情けない大声が響き渡る。
「だから!駄目だって言ってるじゃないですかっ!!」
強気のイケイケ状態だったファーバンは何故か
いつもの情けないリーマン状態に戻っていた。
「もう!聞いてくださいよ!
駄目だって!そこを動かさないで!」
半泣きになりながら大声で叫ぶファーバン。
汗だくで唾を飛ばしながらの姿は物凄く・・・情けない。
「おい・・・・まさかとは思うがアレが例の神か?」
「そうです」
「確かに神の力は感じるが・・・・そうか・・・アレが神か・・・」
魔王は明らかに落胆した顔をしていた。
想像していたよりもファーバンが酷かったんだろう。
そりゃまぁ・・・・そうだよな・・・・。
ファーバンが叫ぶ先には人影があった。
老人神とキリルの間辺りでガラクタ山に
埋もれるような姿勢で色々と穿り返しているようだ。
「だから!荒らさないで!
空間指定だから余り動かすとエラー出ちゃうから!」
そんな言葉にはお構いなしにガラクタを掘っては確認し
放り投げるを繰り返す。
怒鳴り声と物が床に落ちる音だけが響いていた。
その人物は服装はボロボロで全身が汚れて見間違えるハズもない。
魔王領に入る前にはぐれて行方不明だった同行者が居た。
「やっぱり生きてたかー」
俺の声を聞いてロイラが反応しこっちを見た。
目が死んでいるかのように白目は濁り焦点が定まっていなく
その表情には人間らしさというモノが一切無くなっていた。
勇者君も悪い奴じゃないんですよ・・・・多分。




