5-41
量が多くなってしまいました。
次話以降の調整が難しいな・・・・。
派遣労働者の森山実留です。
上司に命令されるがままに各地を転々として働くのです。
ある時は清掃員に、ある時は農夫に、そしてある時は聖騎士。
してその実態は!
「現代日本から妹さんを追ってきたシスコンですよね」
「ありすぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!それは言っちゃだめだぁぁぁぁぁ!!」
「ハァハァハァハァハァ」
『実留さん!右前方から複数が来ます』
「ピーピー」
上空からのアリスの監視と俺の直ぐ脇を飛ぶルーブから
追っ手の報告が入る。
右前方と後方から複数が接近中か・・・クソッ。
「"魔弾""魔弾""魔弾""魔弾""魔弾"・・・・」
木々の向こうに見えた影に
岩で出来た弾を連射して牽制し方向を見定め離脱する。
それから30分ほどを全力で疾走し感知エリアから
反応が無くなったのを確認した後に
木々に囲われた小さな洞窟のような窪みに身を潜め
感知範囲に敵対する対象が居ない事を確認し一息つく。
「しばらくは大丈夫かな?」
「そうですね・・・・ちょっと上空から確認してきます
ルーブちゃんも周囲の警戒よろしくね
実留さんは少し休んでいてください
出来ればちょっとで良いんで寝てください」
「ピー」
「悪いな・・・・頼むよ」
軽く目を閉じるとスグに睡魔が襲ってきた。
なんでこんな事になっちまったのかね・・・・。
本庁のあるノイードを出発し各地を周る視察の旅に出て
フィラルド国内の都市を転々とした。
聖騎士の立場を利用し現地で協力者に手伝って貰う事もあるが
行動は単独で行う事が基本だ。
なんせ内部調査がメインだしな。
勿論、移動中も単独なので魔物、魔獣、野盗に襲われたりもする。
まぁ安定してる国の内部の街道に出るレベルなんて
高々知れているので撃退するのは問題ないのだが
金も食材も余りまくってる現状で低レベルの相手は
旨味が無くて面倒なだけだ。
なので通常は俺がスキルで範囲検索をし
アリスが上空から周囲を警戒し
ルーブが周囲の気配を読んで情報を補完をする事で
面倒事からは避けて進む事が多い。
ルーブは気配を察する事が出来るようで
有形無形を問わず生命体を感知する能力が非常に高い。
それも俺達に対して害意があるかどうかも
ある程度の区別がつくので事前に厄介事を回避するのにも丁度いい。
そんな感じで旅を進めた。
ロイラは相変わらず突飛な行動をするが
それによって物事が進んだりする事もあるので
俺に直接迷惑が来なければどうでも良い。
そして食事時には何故か俺の前に現れる事が多い。
しかも自炊時のみだ。
これも俺の料理の影響なんだろうか?
話しかけても返事はしてくれないが
以前よりも雰囲気が少し柔らかくなり
こっちの言いたい事は何となくだが
理解してくれてる気がする。
ほぼ、その通りには動いてはくれないけどね。
各地を周りながら視察や内部調査を幾つか行い
現場の方々には申し訳ないが細かい事も全て報告し
ポイントを大幅に稼いだ。
その実績を元にクソ騎士Aの評価を高める事によって
本来の目的に近づこうとしたんだ。
"聖女 又は 聖女周辺の調査"
それを得るがために頑張って動いた。
クソ騎士Aの方でも魔族との状況は掴んでいただろうし
俺も報告にはそっち方面を多少強めに書いたのも功を奏したのか
似た様な命令が来た。
"現在の魔王領の状況と聖神教施設へ影響調査"
なるほど・・・内部調査や人の調査以外にも
こういった事もありうるのか。
本来の目的とは違うが近づいたのは間違いない。
魔王領・・・・特に魔王城の近くに行くのは
ものっそい嫌な感じしかしないがチャンスとも言えるだろう。
これを掴む為の数ヶ月だったな。
休む暇も無く移動・調査・移動・調査だ。
その甲斐もあってついに取っ掛かりをGETしたった訳だ。
だが懸念点もある。
指示書に不可解な点が幾つかあるのだ。
・聖騎士としての身分は隠し一般人として行動する事
・通常の街道は使用せずに入国する事
・他の聖騎士が危険な状況でも生存し情報は持ち帰る事
なんかこう・・・・危険な香りがプンプンしますな。
街道を使うなとか身分を隠せとかね・・・・。
だが指示書に書かれた命令は絶対だ。
聖騎士装備をアイテムボックスに入れて
以前の装備品を取り出し装備する。
魔王領までの道と入国方法を考えると結構難しい。
大きな街道には検問所や入国審査等もあるが
細かい街道や外れた場合はその限りではない。
もっとも整備されていないような街道や場所を通るのは
危険度が急激に高まるので冒険者や非合法な者達でも無い限りは
そんなルートを選ぶのは少数派ではある。
まずは国境に近い所までは情報を集めながら移動してみよう。
街道を使えないとなるとなるべく安全なエリアを知る必要があるしね。
それから数日後。
俺は街道を外れ国境沿いの山岳地帯を抜けて魔王領を目指した。
それがまさかこんな事になるとはね。
この体は高いスタミナを誇るが
疲れない訳でも睡眠が不要な訳でもない。
短時間と言え睡眠をとれた頭は少しはスッキリしたが疲労は抜けきらない。
それは山岳地帯から魔王領に入って既に数日が経過したが
その間にひっきり無しに襲撃されているってのが原因だ。
「国境警備隊はここまで展開してるのかよ
結構移動したよな」
「ですね・・・・
当初に比べて密度は薄くなってますけどね
サイラスからも他の町や村からも遠いですから
当たり前と言えばそうですけど・・・・」
「まずはサイラスに向かいたい所だけど
現在地が不明だしな
俺が観察しないとアリスの地図も漠然としてるし」
「高い所に登れれば良いんですけどね
あそこに見える山に少し見晴らしが良い所がありますよ」
「あそこって確実に国境警備の魔獣に見つかるよな?」
「うーん・・・そうですね
間違いないと思います」
タイミングが悪かったのか確かに国境警備隊に見つかったのは
マズかったがそれだけなら簡単に逃げ切れる。
それよりも問題なのが警備隊が従えてる魔獣達だ。
視覚と気配を探るタイプの様で
そこまで強くも探知エリアも広くないが妙に数が多い。
ラバリオの外套は認識阻害効果が付いているのに近距離だと
感知しやがるしな。
それらから逃げる為に逃げてたらサイラスからは
ドンドン遠ざかっていった。
ロイラは山岳地帯に入る前の街道沿いの宿場までは居たのだが
それからは見かけていない。
1人だけ街道で普通にサイラスに向かったとか無いよな?!
外見も中身も聖騎士には見えないので問題は無いと思うけど・・・。
まさかねぇ・・・俺はこんな目に合ってるのに・・・・まさかねぇ・・・。
ないよね?
何処をどう逃げたのかは覚えてないが
山岳地帯を抜けた頃には追っ手は振り切れたようだ。
念の為に入国時から顔と体をマントと布で覆っておいたので
俺の正体は知られて無いハズだ。
妖精と子竜を連れて居るからバレる可能性は高いかもしれんけど。
最悪の場合は別行動か召喚を解除すれば大丈夫だろう。
ロイラが心配ではあるが死んではいないと思うけどね。
多分、その内に現れそうではあるけども。
周囲を警戒しながら未開の土地を進んでいると
小さいながらも整備された道を見つけた。
「実留さんどうしますか?
道の状況から見て全く使われて無いようではありますけど」
「う~ん、サイラスに向かいたいけど
正直に言ってどっちかもわからんのだよなぁ
近場に高台も無いし」
「魔族領のどこらへんかはわからないですよね?」
「あーーーーうーーーーん
どうだったかなぁ
あの時はマップスキルも無かったしなぁ
簡易的な地図で見ただけだしな」
「上空からはどうだい?」
「私達が来た以外だとどちらも遠くに森がありますけど
しばらくは平地ですね」
「そっかー」
アリスと2人でどちらに進むか?
今後はどうするか?を話していると
ルーブが一鳴きして警告してくる。
街道の先から荷馬車がゴトゴトと進んでくるのが見える。
随分と距離があるので詳細は不明だが荷馬車が数台と
周囲を歩く幾人かが確認出来る。
強化した視力でも豆粒に見える距離ではそこらが限界だ。
「人型に見えますけど魔族さん達ですかね」
「うーん
規模と組合せからして国境警備って事はないと思うけど
自警の方々だと面倒だよなぁ」
「商隊の方々かもしれませんよ」
「それならそれで有り難いんだが
魔族領で人族が単独で迷子になってるってのも
相当に怪しくないか?」
「まぁ・・・・実留さんは人族でも無いですけど・・・・
何か考えがあるんですか?」
「ふふふ、まかせなさーい!
へ・ん・し・ん!」
俺は≪竜血脈≫の稼働率をあげる。
角が大きく目立つようになり手首までの色が変わり
手甲のように鱗が生え背中にも翼が生成される。
言ってしまえばそれだけなんだけど明らかに人族では無くなった。
それほど稼働率は上げてないが猛烈に腹は減る。
戦闘・・・になるかもしれないから戦力を
上げておくのは保険と言う意味では良いかもしれないしな。
「距離があるし移動速度的にまだ時間掛りそうだな
この状態だと腹も減るしこっちからも近づいてみるか」
「ですね
お腹が空くとか言うから何か食べたくなってきちゃいました」
「ピー」
「わかったわかった
まだ時間も掛りそうだから
少し食べてから行こう」
一度、≪竜血脈≫を解除して道具と材料を取り出す。
パンとハムと野菜を取り出して
チャチャっとサンドイッチをホイホイ作る。
味付けは黒鍋で作っておいたソース類だ。
移動する時間が長いと簡単に味付けできる物があると凄く助かる。
美味しいは活力も出てくるしね。
パンはノイードを出る時に大量に仕入れたし
旅の途中でも美味しそうなのがあれば見つけ次第買っておいた。
ハムも自家製から購入品までよりどりみどり。
劣化しないし大量に物が入るアイテムボックスは素晴らしい。
つうかスキルで一番使えるのがコレなんじゃなかろうか?
パンや具材を大きく切ったので結構なボリュームになったが
1個じゃ満足しないだろうと勢いよく作っておく。
あればあるだけ手軽に食べれるのは便利だし
いつまた逃避行が始まるかもわからんからな。
楽しくなってきたので色々な組み合わせで作る。
僅かな時間で店でも開くのかよって数を作れたのは
ターウェイの加護があったからだろうか?
明らかに以前に比べて作業速度も上がってる気がする。
3桁に届こうって数が準備出来たので警戒をしつつも
食べながらのんびりと一団に向かった。
道はある程度整備されているがそこまで大きくもないので
一団の進みは遅かった。
合流できるポイントまでは1時間近く掛ってしまったのは
計算外だったな。
やはり一団は商隊のようで荷物を乗せた馬車が数台に
護衛お思わしき者達が周囲を10数人歩くのが見える。
結構な規模だな。
護衛たちを見ると亜人種や獣人達が多いようだが人族も居る。
まぁ外見だけじゃ判断できないけどさ。
魔王領には混血やミックスも多いと聞くし。
ここはやはり第一印象が大事だろ。
元気に笑顔で挨拶がコミュニケーションの第一歩だ。
「すみませ~ん
ちょいと迷子になってしまいまして
良かったら道を教えてくれませんか?」
向こうもこちらに気が付いていたらしく
安全な距離を取って全体を停止し声を掛ける。
「そこで止まれ!
少しでも近づいたら敵対行動とみなすっ!」
戦闘の護衛が槍を此方に構える。
あれ?
「モース、ダリは右手に回れ!
フェル、プラは左だ!
ウー、ザリィは俺に続け!
コールは状況を確認後に本体の指示に回れ!
ルルは馬車を止めて他の者は周囲の警戒に当たれ!」
指示を受けた者達が機敏に動き俺を包囲すると同時に
馬車から更に人が出てきて安全を確保する動きをする。
あれ?
「隊長!展開完了しました!
現時点で他の敵影の確認出来ず」
コールと呼ばれた男が先程指示を出した隊長格に報告する。
あれが副隊長か何かなのだろうか。
「よし!コールはそのままボスに報告!
魔族からの襲撃に備えろ」
ハッと短い返事と共に馬車に走って行くコール。
あれ?
「ちょ魔族・・・って・・・・」
俺が話しかけようとすると周囲に居る者達が槍でこちらを威嚇する。
「黙れ!一言でも発したら戦闘開始の合図と取るぞっ!」
えーなにこれ?!
敵意は無い事をアピールする為に武器を
アイテムボックスに収納し両手を上げる。
「隊長っ!収納系アイテムを保持しているようです注意してください!
かなり熟練の魔族と思われます」
「あぁ・・・・こんな所で単独でいるような奴だ
腕に相当自信が無ければ無理だろう」
「ちょ、ちょっと・・・・」
説明しようとして一歩踏み出してしまったのが
間違いだったようだ。
「行動したなっ!
敵対行動と断定する
全員、戦闘開始
周囲の警戒を怠るな!」
「ちょ、待てって言ってんだろーがっ!」
俺の想いとは裏腹に攻撃を仕掛けられる。
折角会えたんだし商隊なら情報もあるだろう。
下手に攻撃を仕掛けれないので回避と防御だけで
何とか場を凌ごうとするが相手は多い。
「クソッ!
一端、引くか・・・・・・」
撤退すべきかと考えている時に視界に更なる人員追加が写る。
「一体、どうしたっていうんですか?
魔族の襲撃だとか?」
「ボスっ!ここは危険です
下がっててください」
そう呼ばれた人物は何処かで見覚えがあった。
豚の頭にダルッダルなボディ。
危険がある旅だと言うのに露出度の高い服装。
その者の名は。
ブタ子。
再び参上。
ブタ子参上っ!!




