閑話 リンドの生活
雪が続きますねー
俺の名はリンド。
リンド・サトゥリアだ。
歳は20の半ばの良い年頃だ。
客観的に見てカッコいい部類だと思っている。
背も高く体も締っているし会話だって得意だ。
俺の職業は首都ノイードの守衛をしている。
まぁ国直轄組織の1員だな。
そう言えば聞こえは良いが実際の所は下部組織の1つだ。
だから待遇はそこまで良くないし給料も安い。
・・・・安いって言ってもソコソコは貰っているけどな。
とは言うモノの自慢出来る程は高く無い。
仕事上がりの晩飯にお気に入りの酒を1杯追加しても
そんなには財布には痛まないって感じだけどな。
でもそれは大事な事だろ?
待遇が良くないってのは裏を返せば
規律が余り厳しくないって事でもある。
特に俺が担当しているのはノイードの出入りのチェックだ。
これは2人か3人で組んでやるのだが
俺は主に令状や許可書等の確認を担当するので人と接する事が多い。
厳しく事務的にしても雰囲気が良くないしな。
本当はそうしなきゃいけないんだろうけど
どうにも苦手だ。
ただ手抜きをする訳じゃないぞ。
仕事は仕事でキチンとやる。
これでも誇りを持って仕事してるんだぜ。
首都を守る1人としてな。
上役の人もそんな俺を認めてくれているようだし
悪い評判が聞こえて来ないってのは良いもんだ。
首都の入り口で嫌な思いをしたら街や国を
嫌いになったら俺も悲しいしな。
そういや前に亜人が牽く台車に
犬と妖精が乗ってた奴が居たなぁ。
あんな組み合わせは初めてでビビったけど
面白い奴らだったな。
宿を紹介したりしたが元気にやってるんだろうか。
俺の朝は早い。
夜が薄っすらと明け始める前に目を覚まし支度をし
前日に用意しておいた朝飯を適当に済ませて出る。
薄目の上着を着ているが
今の時期でも朝はちょいと寒い。
宿舎に入れば楽なんだろうが自由が無くなるのは
どうにもな・・・・。
住処は近場だが朝の通勤は面倒だな。
帰りは色々と寄れて便利なんだけど。
詰所ではまず運動からだ。
ストレッチを入念にし体を解してから軽めの運動をする。
いざって時に動けるようにしとかないといけないしな。
ちなみに訓練は業務後だ。
毎日、鍛える事も重要な仕事だと思っているので
手を抜く事はしない。
何と言ってもその後の1杯は最高に美味いしな。
運動後は装備品を身に着けて業務開始だ。
夜勤組と交替しチェックに当たる。
早朝から昼過ぎまでが俺の時間だ。
門番が忙しくなるのは早朝か夕方前がピークだ。
次が昼前後になるな。
何が言いたいかと言うと俺は忙しいって事だ。
だがこの忙しさも首都が国が栄えてるからこそだ。
多少は面倒臭いと思う事はあっても
嫌だとは思わない。
この後の酒も美味くなるってもんだ。
何十組かに1組位の割合で不正を行う奴が出てくる。
通行証や証明書でこれだから積み荷や持ち物での
不正はもっと多い。
商人だから儲けを多くしたいのも理解出来るが
多少の量の違いや流通の問題なら許可を出すが
禁制の持込や許可されていない持込なんかは通さない。
それでも商人なんかは対応が楽だ。
駄目なモノは駄目って言えるしな。
面倒なのが冒険者や旅人、他にも騎士何かか。
いやまぁ騎士や貴族の奴らがアレなのは
仕方が無いので気にしないのが一番なのだが
力仕事や危険事に馴れてる冒険者や旅人が厄介だ。
商人達とはまだ違った問題だ。
通行証等が無いのは当たり前で金も無いから税も払えない。
もちろん保障も何も無いから下手に通すと問題でもある。
魔道具での検査も兼ねているが時間が取られてしまうし
荒っぽい輩も多いのも特徴だ。
それでも慎重に且つ効率的にチェックを続ける。
もちろん笑顔は絶やさずに目は真剣にだ。
遅めの昼も簡単に済ませ
さてもうひと踏ん張りだ!って時に事件は起きた。
事件って程でも無いんだけどな。
外から男の子が1人で歩いて来たんだ。
多少は汚れているが服装はそれなりに整っている。
手荷物は何も無く怪我も無い。
何かの迷子か?
それにしちゃぁ街の外から来るってのはどうだろう?
良くあるのは外に素材を取りに行く子や
お使いで近所まで出る場合だ。
その場合は当然の様に日帰りだし
当日の朝に出のチェックをしているはずだ。
そして俺は朝から居るがあの子を見ていない。
となると他の門から出た子か
他所から来た子となる。
または朝よりも前に出ている事になる。
何にせよあの年齢の子には少しばかし無理があるだろう。
俺が見るにまだ10歳には行って無いし・・・。
俺は受付所で難儀している同僚に駆け寄り
事情を聴く事にする。
「よぉ、どうした?」
「この子なんだがな
どうにも迷子のようなんだが・・・」
「何か問題が?」
「あぁ、ショックか何かわからんのだが
どうも話せないみたいでな・・・・
何処から来たのか聞こうにもよくわからんのだ」
見ると俯いている少年は同僚の質問に
首を振って答えるも口は開かない。
「でどうするんだ?
本部には連絡したんだろ?」
「該当者が居るかを調査するから
少しの間、こっちで面倒見て欲しいとの事だ」
「ふ~ん、そりゃまた時間が掛りそうだな」
少年は俯いて不安そうにしている。
こんな場所で大人達に囲まれてればそうなるよな。
「この子は身分証は持っていたのか?」
「身分を証明する物は何も無かったな」
「チェックは?」
「特段問題無しって判断だな」
「そうか・・・」
俺は少しの間、考える。
そしてその同僚に伝えて承諾を得る。
ついでに上役にもOKを貰った。
「君の名前は何て言うんだ?」
「・・・・・」
「あんまり話したくないか?」
・・・・・・コク
俺は少年と手を繋ぎながら話して道を歩いていた。
少年は俺の責任で拘束の魔道具を付けて
入場させる事が出来た。
拘束と言っても俺から10mも離れられないっていう奴だけどな。
監視下の一時入場とかには良く使われる物だ。
有効範囲から外れると身動きが取れなくなる。
上役に相談した際に少年を連れ出すのは構わないが
詰所から少し離れた騎士様が務める場所に
一応の報告をしとけと指示された。
ここらも下部組織の辛い所だな。
書類や伝言だと機嫌を損ねやがるからな。
下っ端を動かして日々のストレスを発散してるんじゃないかね。
まぁこれはそんな用事を作れば
多少早いけど仕事を切り上げる言い訳にもなる
って上役の優しさだけどな。
今度、良い酒を手に入れたら一緒に飲むかね。
騎士達は相変わらずの厭味ったらしく
高圧的な態度だった。
そんなもんだと思っとけば気にはならないが
少年は怖かったらしくオドオドしてた。
もちろん騎士が面倒見てくれる訳も無く
当然とばかりに俺に押し付ける。
下っ端の俺が言うのも何だが何でこんなかね。
もっと上の方の騎士は良い人も居るんだがなぁ。
報告が終わり外に出ると陽が低くなってきた。
そろそろ夕方も近いな。
風も冷たくなってきた。
俺はしゃがみこみ少年に話しかける。
「よし、これで後は連絡待ちだ
長引入ちゃって御免な」
・・・・フルフル
「はは、子供が気を遣わなくて良いんだぞ
お兄ちゃんの仕事は面倒な手続きが多くてな
よし!飯でも食いに行くか?」
・・・・フルフル
少年は大丈夫だと首を振るが
タイミング悪く虫がグキュルルルルと壮大な声をあげる。
「だから子供が気を遣わなくて良いんだ
お腹が減ったら正直に言うのが子供の役目だ
よ~し、美味い物を食いに行いこう
ちと騒がしいが食い物は美味いぞ!」
また子供の手を取って馴染みの店に向かう。
そこは・・・まぁ、食事処ではあるが
飲み屋に近いかもしれないタイプだが大丈夫だろう。
「あら、リンドじゃない
今日は何時もより早いじゃない」
この子は良い子だ。
愛想もあるし器量も良い。
元気におやっさんの手伝いをしてる
店の看板娘が話しかけてくる。
「おう、シャナ
ちょっとあってな
俺には何時もの・・・・っと酒は駄目か・・・はは」
「あら?その子はどうしたの?
まさかとは思うけど・・・」
シャナが怪訝な目を向けてくるので
慌てて訂正する。
「違う!違うぞ!別に犯罪を犯してるわけじゃないぞ!
仕事上の都合でこの子にを預かってるだけだ
だから装備もそのままだし
酒も頼んでねーだろ」
「あはは冗談だよ
リンドがそんな事する度胸が無いのは知ってるよ
じゃぁお勧め2個で良いね」
そう言ってさっさと厨房に入ってしまう。
「言うだけ言って逃げやがったな
口悪いけど良い子なんだぜ
まぁ俺の趣味じゃないけどな」
少年にそう言って場を誤魔化す。
暖かい店内に落ち着いたのか少しだけ表情が崩れたような気がする。
シャナが持って来た食事は量もあり
美味しそうな匂いで腹に響く。
少年はオドオドして手を付けて無かったが
俺が無理矢理食べさせると・・・・止まらなくなった。
食べっぷりから相当に腹が減ってたんだろうな。
ついでに果実の汁を割ったジュースも頼んで飲ませる。
おうおう、子供がガツガツ食べるのは気持ちが良いもんだ。
食事が終わった頃には辺りは完全に暗くなっていた。
外に出るとちょいと寒い。
少年も寒いのか腕を抱えている。
俺は着ていた薄手上着を少年に掛ける。
キョトンとしてる少年を担ぎ一気に肩車まで持って行く。
「俺の上着は裾がちょいと長いからな
こうしないと汚れちまう」
そう言って問答無用で歩く。
少年は何も言わないがキョロキョロしてるのだろう。
重心がコロコロ変わるので何となくわかる。
そのまま詰所まで戻り報告を済ませる。
まだ進展はないようだ。
少年を置いて帰るのも微妙なので
事務作業を手伝いながら時間を潰す。
少しは心を許してくれたのか少年が俺の後をついて来る。
返事は無いが色々と説明すると真剣に聞いていた。
それから暫くすると少年にお出迎えが来た。
何処かの執事の様な風貌の方だ。
上役と何かを話してから少年を引き取って行った。
俺は何も聞かない事にした。
多分、あの少年は何処かの商人だか貴族だか
まぁ俺には縁の無い家の事情なんだろう。
だが連れて行かれる時に寂しそうな顔はしていたな。
最後の方はちょっとは笑ってくれたのにな。
よし、今日はちょっと飲んで帰ろう。
何となく夕方とは違う店に足を向ける。
それから数日後、俺はまた少年に会った。
以前よりも身なりはキチっとしているが
オドオドさはないようだ。
無言で邪魔にならない所に座り込んで
俺の仕事をずっと見ている。
上役が何も言ってこない所をみると何かの
やり取りが交わされた上で了承しているんだろう。
仕舞には訓練まで見学してる。
丸1日も見ていて飽きないんだろうか?
着替えを済ませて詰所から出ると
少年が外で待っていた。
何かを言いたそうだがモジモジしてるだけだ。
「飯でも食いに行くか?」
・・・・・コクコク。
「よーし、じゃぁシャナに美味いもんでも
出して貰おう
今日は仕事終わりだから飲んでも良いよな」
そう言って少年を肩車する。
今日は美味い肴で酒だな。
名も知らない少年と友達になった記念だな。
・・・・・友達で良いのか?
まぁ細かい事は気にしても仕方が無い。
今日もノイードは平和で酒が美味しければ幸せだ。
飯屋への足は軽い。
リンドの謎の交友関係がまた一つ広がって行く。
そんな彼の肩の上では小さな笑顔が輝いていた。
少年は何処かの貴族の訳あり子息です。
今後、彼の人生に何か影響があるかはわかりません。
リンドは肩書を気にしないので普通に可愛がっているだけですね。




