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閑話 キリルの旅立ち

新章開始まで少々お待ちください。

とある村に生まれた平凡な男の子。

それがキリルと言う子を表す表現だ。


何の取り柄も無く小柄な少年だ。

それでも敢えて言うなら病気一つ無く

元気に育つと言うのは取り柄と言えばそうだろう。


主要な街道からは離れているので

大きくはない村で農民の家だ。

病気にもならずにスクスクと育つ。

それは平凡かもしれないが幸せな幼少期だった。


農家の三男として生まれ兄と姉は

隣の村との許嫁が決まっていたので

跡取りの件も特に問題も起きず

近年は天候にも恵まれ豊作なので

裕福では無いが食べる物には困らなかった。


年の離れた兄と姉には可愛がられ

比較的自由な立場だったので

母が病気がちな事もありキリルが看ていた。


そんな生活だったので

真面目で優しい子に育った。

母の事もあり"弱いものを守りたい"という

思いは他の同年の者に比べても

多少大きくなったのは仕方がない事だろう。

そもそも男の子なら誰しもが持つ気持ちだと思う。



その思いが強くなった切っ掛けがある。

キリルが8歳の冬に村が魔獣に襲われた。

大きな猪型の魔獣で食糧難に

苦しみ降りてきたのだろうと大人達は言った。


キリルはその時に父と兄と姉にお昼を届けに

母と畑に向かって歩いていた。


母は昨年の病気で脚が悪くり杖が必要となった。

その為、天気が良い時は散歩を兼ねて

母と村の外れにある畑まで行くのが日課となっていた。

村の外れといっても簡易的ではあるが

背の高い柵で囲われており村の中は

安全な場所という認識だ。


その日も天気の良い日だった。

母の片手をひき荷物を片手にのんびりと散歩だ。

この後は母と畑で取れた野菜等の仕分け作業を

手伝って倉庫に運び込む。

そして父と兄が帰る前に母と帰り夕食の支度だ。


いつもと変わらない日々だったハズなのに

キリルにとって人生が変わる一端となった。



母が座った前に収穫した物を広げ

教えてもらいながら仕分け作業をしていた時だ

突然聞こえた大きな破砕音と共に柵が崩れた。


そこから飛び出してきたのは大きな猪だ。

畑に真っ直ぐに走ってくる。

腹を空かせた魔獣が柵を壊しながら突撃してきたのだ。

運が悪かったとしか言い様がないが

その進路方向には母とキリルが居た。


巨大猪はそのまま進み

突然の出来事にキリルは硬直した。

結果としてキリルは吹き飛んだ。


猪に対して横に。


代わりに引っ掛けられて吹き飛んだのは母だった。


不自由な足を無理に動かしてキリルを突き飛ばしたのだ。

何が起こっているかわからないキリルは何とか立ち上がるものの

呆然と立ち尽くした。

それに目を着けた猪が方向転換し戻ってこようとする。


それをまるで他人事のように見ているキリル。

現状を冷静に考えるには未熟過ぎた。


母は運が良かったのか牙に少し掠った程度だったのだろう

気丈にも立ち上がると猪に足元に散らばる物を手当たり次第に

大声と共に投げつける。


「こっち!獲物はこっちよ!

 化物!キリルには手を出させないんだから!」


母が聞いた事もないような声で叫ぶのを聞いて

更にショックを受けたが

そのおかげで逆に少し冷静になる。


そして幼いキリルにも分かった事がある。


このままでは母が・・・・死ぬ。


巨大猪が母に向かっていく。

やけにゆっつくりとした動きだ。

母も猪も全ての動きが遅く感じた。


少しづつ少しづつ猪が母に近づく。


少しづつ少しづつ母が死に近づいていく。


キリルは動かない体を無理矢理動かそうとして

その場に転んでしまう。


それでも大声をあげて母を助けようとする。

実際に声は出ていたかはわからない。


体の奥底から。


魂の奥底から。


声を出した。


力の限り声を出した。


それでも。


それでも。


猪は止まらなかった。


襲い来る強大な恐怖に負けて

世界が暗くなっていく。


その世界に映る母は綺麗で頼もしく見えた。



母がキリルを見る目はとても・・・とても優しかった。



キリルの意識はそこで途絶えた。















猪は母に届くギリギリの所で飛来した槍が刺さり

進路方向がそれた事によりカスリ傷で済んだ。


村では大人たちは少なかれ戦闘は経験している。

周囲に存在する驚異に立ち向かえる程度にはだ。


村の男達が集まれば巨大猪程度であれば

何とかなるものだ。


その時も結果として怪我人は出たが死人は居なかった。

それどころか冬に出てきた獲物で

貴重なタンパク源が大量に手に入り村が湧いたぐらいだ。



この時の事は母の中では笑い話にもなったが

キリルにとっては世界観を揺るがす大きな出来事だった。


母を守れなかった。


自分すらも守れなかった。


この経験が心にあった"弱いものを守りたい"が

"大切な人を守りたい"に変わり強い思いとなった。


そして守りたいと思う気持ちの裏では

大事な人、大切な人を傷付けられる事に対して

嫌悪するようになっていき心の奥底で

少しづつ成長する事にもなった。


それからキリルは父に言って

村の警備団に入りたいと言うようになった。

事件の事で思い悩むキリルを邪険にするのは避けた父は

知り合いを通じ見習いとして入団させて貰うようにした。


小さいながらも元気なキリルは

様々な雑用をこなしながらも剣や槍を教えて貰う。

もちろん少ないながらも給金も貰えた。

やればやるほど"守りたい"と言う思いは強くなっていった。


見習いになってから約2年が経ちキリルは10歳を迎えた。

2年もあれば自分にも才能があるかどうかがキリルにもわかった。

自分には剣の才能が無かった。

正確には剣の才能も無かったと言うのが正しいだろう。


村の警備団で扱っているのは主に剣、槍、斧程度だ。

それも村の立地条件を考えればわかるかもしれない。

何せ殆どの者が我流で鍛えたからだ。

生活に必要だから身に付いた技術の延長線に過ぎなく

辛うじて団長が村出身で少し大きな町で

守衛に務めた事のある元兵士な位だ。


その者達から見てもキリルはセンスが無かった。

それでも誰かを守りたいと思いは弱まらず

選んだ選択肢が壁役、つまりは盾を持って敵から守る。

攻撃は出来なくとも守ることは出来る。

キリルのそんな思いが込められた選択だろう。


それから1年は壁役として体を鍛える事に重点を置いた訓練が始まった。

体が丈夫だと言っても10歳を越えた程度では無理な話だ。

小柄とは言えない程に成長したものの平均を超える程ではないので

案の定、攻撃を支えきれない。

それでも自分が出来る事はこれしかない。

そう思って訓練に更にのめり込んでいく。


更に1年が経ちキリルは12歳となった。

体は無茶な訓練を続け少しは強くなったが

成人しきってない体には満足な筋力は得られなかった。


そんな無理が祟ったのだろう。

ある寒く雨が降りしきる日に体調を崩した。

高熱が何日も続き生死の境を彷徨うこととになる。






キリルはふと目を覚ました。

高熱で朦朧とし寝てるのか起きているのか

夢か現実かが自分でもわからない。


そこは明るいのに何故か見通しが悪く

近くしか見えない、そんな場所だった。

そして自分はいつの間にか椅子に座っていた。


「これは夢なのかな?」


そんな事を思ってしまうのは仕方がない事だろう。

しかしそんな呟きに返答する者が居た。


「夢ではないぞ少年」


「どなたですか?

 姿が見えませんが・・・・

 ここは何処なのでしょう?」


「ここは世の理の外にある場所

 少年よ力が欲しいか?

 大切な人を守れる力が」


予想外の展開に理解がついて行かないが

無意識に反応してしまう程に

自分にとって魅力のある言葉が飛び込んでくる。


「欲しい!守れる力が欲しい!

 貴方は何方なのですか?

 神様ですか?

 いえ、別に何方でも良いのです!

 自分に!力をっ!!」


「我が力は守る力

 相手を滅ぼす力ではない

 それでも欲するか?」


「守る力!それが! 

 それこそが僕の望みです」


「そうか

 ならば力を授けよう

 我は名はブルス

 盾を司る神

 

 さぁ少年よ新たな一歩を踏み出すのだ」



キリルが目を覚ます。

朧げながら覚えている神との会話。

夢なのか?現実なのか?


それはハッキリとしないが

キリルの人生は一変した。

まず身体能力が格段に向上した。


今までの過酷な訓練の結果が花開いた

だけかもしれないが能力値は今迄に比べても

明らかに高くなった。


更に盾を使った防御には違いが明確に現れた。

体の重量に対して受け止めれる重さが違いすぎるのだ。

使用する盾も品質が良くないのに関わらず

想定される性能よりも明らかに向上している。


キリルは神の加護は本物だと信じた。

誰かに打ち明けていいかと悩んだ末に

両親と団長には正直に話す事にした。

その結果として村を出ることになる。


「折角、神の加護を頂けたのだ

 この小さな村を出て世界を見て大きくなりなさい

 守りたい物が守れるように成長してきなさい」


神の加護を受けた祝福されるべき息子を

村に留めて置くのは忍びないと思う

父の愛情から来る言葉だ。


団長も同様の事を言っていたが

父の愛に比べ加護者を育てられる自信も基盤も無い

と言う裏事情が少々混じっているのは仕方がないだろう。

それでもキリルの身を案じた言葉なのは間違いない。



13歳になりとキリルの準備は整った。

出来る限りの訓練と盾の使い方を学び。

武器は鈍器を主体に力技でどうにかできるのを選択した。

盾やその他の装備も今までの給金を使い

村で用意出来る物の中では高品質な物を手に入れる事も出来た。

裏で手を回してくれた父が居たので

物の割に安く手に入れる事が出来たのをキリルは知らない。


村に来た行商がこの地方では有名な

大きな街まで行くと聞きつけ

必死にお願いし護衛隊に加わる事を許して貰った。


こちらから無理にお願いしたのにも関わらず

少ないが給金も貰え護衛隊のリーダーに気に入られたので

色々と旅のイロハも教えて貰える事となった。

これは護衛隊のリーダーと団長が旧知の仲だったのが

大きいと言えるだろう。


様々な支援と祝福を受けてキリルは

村を旅立ち世界に向かって歩きだした。




各村や小さな町を巡りながら半年掛けて大きな街に出た。

そこで商隊と別れ冒険者として生活する事になる。

旅の途中で狩った獲物は買い取って貰えたので

当面の生活資金も万端だ。



それからしばらくして冒険者として

ある程度の収入と周囲からの評価を手に入れ

生活にも慣れてきた頃に

キリルは運命だと感じる出会いをする。


赤い・・・とても赤い色をした革鎧"レッドカウアーマー"だ。

ハイセンスな色とデザインに一目ぼれし

店主の言葉もキリルを後押しする事になる。

それがキリルの運命を変えたとは言わないが

少しばかりの変化をもたらしたのは間違いないだろう。



冒険者キリル。

盾の神に加護を授かりし少年。

実留に会う1年と少し前の運命の出会いである。

彼の人生は少しづつそして大きく変わる事となる。

キリルさん元気っすかねー

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