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飢えた孤児100人を育てた俺、20年後に英雄たちから「父さん」と呼ばれています  作者: レモンティー


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第三十話 父さんの家に、百二脚目の椅子が増えた

長屋崩落から一か月。

ライアンの家の前に、小さな少年が立っていた。

背には大きすぎる袋。

足元には穴の開いた靴。

「ここ、ライアンさんの家ですか」

「ああ。どうした?」

「父さんを探してきました」

ライアンは戸惑った。

「俺は、お前の父親じゃないと思うぞ」

「違います。父さんって呼んでいい人を、探してきたんです」

少年の名はユウト。

十歳。

母を病で亡くし、父は鉱山事故で行方不明になった。

救済所へ行ったが、年長の子だから働けるはずだと言われ、食事を断られたという。

ライアンは少年を食堂へ招いた。

温かいスープを出すと、ユウトは器を持ったまま動かない。

「温かいうちに飲んでいいぞ」

「……お金がないんです」

「知ってる」

「働いて返します」

「返さなくていい。まず食べろ」

少年はなおも戸口を見た。

追い出される前に出口を確かめる癖がついているのだろう。

ライアンは扉を閉めず、食堂の明かりを少し落とした。

「急がなくていい」

とだけ言って、隣の椅子に座った。

ユウトは一口飲み、泣き出した。

涙が椀に落ちた。

ライアンは何も言わず、隣で自分のスープを飲んだ。


その日の夕方、知らせを聞いたガイアたち数人が顔を見せた。

ガイアは少年の事情を聞き、顔をしかめた。

「救済所の規則を確認する」

「規則より先に、今夜寝る場所だ」とライアン。

セーラは毛布を用意し、マリナは受け入れ先を調べた。

ところがユウトは首を振った。

「ここにいたい」

「俺の家は、今は大人ばかりだぞ」とライアン。

「でも、みんな父さんって呼んでる」

ガイアが笑った。

「そうだな。ここでは全員、父さんの子だ」

それを聞いて、ユウトは少しだけ笑った。


翌朝、マリナが調べると、ユウトの父が働いていた鉱山の記録に不審な点があった。

事故の死者名簿に名前はない。

行方不明者の届けも受理されていなかった。

「どういうことだ?」

「鉱山主が事故を隠している可能性がある」

ガイアはすぐに兵を動かそうとしたが、ライアンが止めた。

「ユウトに聞こう。父親をどうしたいか」

少年は拳を握った。

「生きてるなら、会いたい」

「分かった。探そう」

調査は三日かかった。

鉱山の古い坑道には、事故後も閉じ込められた作業員がいた。

地下水の流れが変わり、外へ出る道を失っていたのだ。

数人は別の通気坑から食料を運び、生き延びていた。

ノアが坑道の構造を調べ、ガイアが救助隊を編成した。

崩れかけた岩を支えながら進む。

奥で人の声が聞こえた。

「誰かいるか!」

「……いる! 助けてくれ!」

救助された男の一人が、ユウトの父だった。

痩せていたが、生きていた。

再会の場で、ユウトは動けなかった。

父が膝をつき、両手を広げる。

「ユウト……すまなかった」

少年は走り出した。

「父さん!」

二人は抱き合い、声を上げて泣いた。

ライアンは少し離れて見守った。

ユウトが探していた父親は、自分ではなかった。

最初から、それでよかった。


数日後、ユウトが家を訪ねてきた。

父と一緒だった。

「ライアンさん、ありがとう」

「元気でな」

「でも、お願いがあるんです」

「何だ?」

「たまに、ここへ帰ってきてもいい?」

ライアンは笑った。

「もちろんだ」

ユウトは食堂の椅子を数えた。

「百一脚しかない」

「昔からそうなんだ」

「じゃあ、もう一つ作ってもいい?」

ガイアが工具を持ってきた。

エマとエルが木材を選び、ユウトと父が一緒に椅子を組み立てた。

完成した椅子は、ほかのどれより少し小さかった。

夕方、百二脚の椅子が並んだ。

ライアンは端から端まで見渡し、ふと笑った。

「増えたな」

「これからも増えるよ」とセーラ。

「俺が座る場所は残してくれよ」

皆が笑った。

食卓にパンが運ばれた。

ユウトは父の隣に座り、ライアンの方を向いた。

「いただきます!」

その場に集まった子供たちが声を重ねた。

ライアンも一緒に言った。

世界最強の軍団が守りたかったのは、特別な王座ではない。

誰かが帰ってきたとき、もう一つ椅子を置ける食卓だった。

救出の数日後、鉱山主は『事故は予測できなかった』と主張した。

しかし作業員が保管していた古い点検簿には、支柱の傷みと排水路の異常が何度も記されていた。

マリナは記録を裁判所へ渡し、救助費と未払い賃金の扱いを整理した。

ガイアは怒りを抑えた。

鉱山主を殴っても、作業員の家族にパンは届かない。

ユウトの父はしばらく歩くのも難しく、施療院で療養した。

ユウトは毎日通い、父の手を握って眠った。

ライアンは面会のたびに、父子が何を食べたかを尋ねた。

二人が安心して暮らすには、回復後の仕事と住まいが必要だ。

工房は軽作業を紹介し、住居の修理を手伝った。

再会は終わりではない。

二人が明日も一緒に朝食を食べられて、初めて救出が暮らしにつながる。

食堂の隅に置かれた小さな椅子には、まだ塗りたての木の匂いがした。

ユウトは次に来たとき、自分で椅子を拭くと言った。

ライアンは頷いた。

「それなら、俺の椅子も頼む」

少年は笑った。

新しい家族の形は、誰かの代わりになることではなく、帰れる場所が一つ増えることだった。

救助の報告を整理しながら、ライアンはユウトと交わした言葉を思い返した。

父と再会するまで、少年へ希望を断言しなかった。

「必ず生きている」

と言えば、もし違ったときに少年を深く傷つける。

だから「探す」とだけ約束した。

ユウトは何度も同じことを聞いた。

「見つかる?」

ライアンは毎回「まだ分からない。でも今日も探している」と答えた。

曖昧な言葉ではなく、確かな行動を渡したかった。

坑道の救助では、作業員たちが古い通路を知っていた。

ガイアは彼らの説明を聞き、危険な場所に兵を突入させなかった。

ノアも岩を一度に消す魔法を使わず、支柱を残しながら少しずつ進んだ。

早く助けたい気持ちほど、手順を飛ばさないことが大切だった。

ユウトの父は、ライアンに深く頭を下げた。

「息子があなたを父と呼びたがったと聞きました」

ライアンは首を振った。

「呼びたいなら呼べばいい。父親が二人いても、困らんだろ」

男は泣き笑いした。

ユウトは二人の間で笑った。

誰かを大切にする気持ちは、分けたら減るものではない。


その夜、ライアンは古い帳面に、鉱山で助かった人々のその後を書き留めた。

退院の日、住む場所、次の仕事。

救助が終わっても、暮らしが落ち着くまで見届けなければならない。

ユウトの小さな椅子は、食堂の端でまだ新しい木の香りを放っていた。

「父さん、椅子の数はこれで終わり?」

少年が尋ねると、ライアンは食堂を見渡した。

「必要になったら、また作るさ。でも椅子だけ増やしても駄目だ。座る人が安心して飯を食えるようにしないとな」

ユウトは自分の椅子の背を撫でた。

「じゃあ、明日から僕も手伝う」

「手伝いは、腹いっぱい食ってからでいい」

その順番だけは、二十年前から変わらなかった。

父が療養を続ける間、ユウトは何度も食堂を訪れた。

ある朝、入口に立つと外から聞こえる足音に肩をすくめた。

新しい椅子があっても、ここにいてよいと信じられるまでには時間がかかる。

ライアンは無理に笑わせようとせず、いつものように鍋に火を入れた。

「今日は何を食べたい?」

「……昨日と同じでいいです」

「同じでもいいし、違うものでもいい。言ってくれれば考える」

ユウトはしばらく迷ってから、小さな声で「卵を一つ」と言った。

ライアンは頷き、台所の棚から卵を取り出した。

食べたいものを口にできたことが、少年にとっては初めての小さな一歩だった。

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