表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

竜と宝石

アメノの過去について。後々追記します。

『夢』


あの日から同じ夢を見続けている。あの日は全てがおかしかった。


「おかえり、アメ」

ドクターはそう言って、涙の浮かんだ笑顔でこちらを見ていた。


『目覚めた時に側にいたい』


彼の優しさで溢れた願いは、ほんの一瞬だけ叶えられて、僕の帰りを喜ぶと共に、意地悪で理解のない大人たちに奪われてしまった。自ら動こうとしないことに悪態をつかれて、無理やり引きずられながらも、ドクターは僕から目を逸さなかった。遠く見えなくなるまでずっと僕を見ていた。

いつも飄々としているドクターは、僕が治るかどうかが心配でたまらなかったらしい。


名医と謳われる彼が治したはずの体は、思う様にはうごかなかった。連れ去られるドクターを前に、体は固まって動かず、口を出たのは簡単な単語を出鱈目に並べただけのものだった。それでも必死に訴えていた。

ドクターを連れて行かないでと、僕からその人を奪わないでくれと。


乱暴に腕を掴み彼を連れ去った人たちは、幼い僕の言葉を聞いてはくれなかった。



____________________________________


『出会い』


数年前。

今よりずっと背が低かった僕は、薬草をとってくるように、ドクターから頼まれることが時々あった。頼まれる薬草のほとんどは、大人が入れないほど狭い場所にある。その日もドクターに頼まれて薬草を摘んでいた。いつも行く、家から少し離れた明るい森。

いつもはドクターと一緒だけれど、その日、ドクターは手が離せない仕事があり、家からそう遠くない場所である事と、日が登ってからそれほど時間が経っていない事から、寄り道をしないことを条件に、僕は一人で出かけることになっていた。

ドクターの心配そうな小言を右から左へ聞き流して、僕は一人きりでの採取にるんるんと、植物図鑑二冊とお水の入ったカバンを振り回すようにして森への道を進んだ。


森をしばらく進んだ先、持ってきた図鑑とドクターのメモを見比べて大きなキノコを探す。日陰にしか咲かない花が大きなキノコの下で時々咲いているようで、そのキノコは少しでも傷をつけると枯れてしまい、しばらくの間生えてこない。そうなると花が生える場所が減ってしまい、手に入りにくくなるらしい。

いくつかのキノコの下をのぞいて、花がないからと次へ次へと進むうちに、少し遠いところまで来てしまった。目の前に広がる暗い森。


暗い森には入ってはいけない。ずっと幼い頃からドクターが言う約束。絶対に守らなくてはならない約束。


その森と、僕がいる明るい森の間には境界線なんてないのに、鉛筆で線を引いたようにはっきりとした境界の向こう側に闇はあった。


僕は少し怖くなりながらも、境界ギリギリに生えたキノコの下を探すことにした。

大きなキノコの笠の下、潜り込むようにして覗くとお目当ての花がそこにあった。暗闇の怖さなんてすっかり忘れてしまって、夢中で花の根にあたりを掘る。ドクターはこの花は根っこまで使うと小さく言っていたから、途中でちぎれてしまわないように、優しく丁寧に。


小さく細い花弁がいくつも付いた綺麗な花。茎との境目、丸く膨らんだ根っこに傷がないことを確認して、これを見たらきっと褒めてもらえる、ドクターが喜んでくれると頬が緩む。


ふと視界の端、暗い闇の中で小さな何かが動いた。恐怖が背中を這うように帰ってきた。

僕は急いで図鑑と花をカバンにしまうと、何かがいるであろう場所をじっと見つめた。何かがいる茂みは小さく揺れていて、不思議と僕の恐怖は落ち着いていった。


怯えている。少し前の僕と同じように、恐怖に足がすくんで震えている。


そう思ってしまえば、動かずにはいられなかった。

暗い森には入ってはいけない。ドクターの言葉は頭の隅に行ってしまって、助けたいと思ってしまった。


そっと茂みに近づく。もし怪我をしているのなら、僕が助けてあげなければならないと思った。小型の魔物にはよく好かれているし、明るい森には怪我に効く薬草がたくさん生えている。僕だってドクターに小さの怪我の治療は教わっているのだから大丈夫だと思っていた。


小さく震える体が目に映った時、喉が詰まる様な感覚があった。薄灰色の体毛はところどころ血に濡れていて、僕ではどうしようもないと思った。消えたはずの恐怖が身体中まとわりついてくる。暗い森への恐怖はより強く重たい死への恐怖に書き換えられていた。

苦しそうに閉ざされた目尻には、うっすらと涙が浮かんでいて、いてもたってもいられなかった。震えるその子を上着で包み、ドクターと共に暮らす家へと転びかけながらの必死に戻った。



あの人はきっと助けてくれるから。




だだっ広い世界でソレを見つけたことが、ただ長いだけの人生において最大の幸福と言えるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ