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3.先輩と癖の強いお友達


「あ、君、もしかしてネモちゃん?」


「え?はい。」


前から歩いてきた上級生と思わしき人物に、学部棟前で声をかけられた。


制服のローブの袖の線から五年生だとわかるが、この人に全く見覚えはない。一度会ったら絶対に忘れられそうにない容姿をしているので確実に初対面のはず。


長めの金髪に、紫とピンクが混ざった不思議な色合いの瞳。細身ですらりとした長身の体躯で、鍛えているのだろうしっかりと筋肉はついていることがわかる。制服の野暮ったいローブすら、彼が着ると素敵に見えるくらい彼仕様に着こなしている。まあ、つまり、抜群に容姿がいい。


「良かった、あってた。僕はダリオ君の友達のチャーリー。魔法科の五年だよ。ダリオ君から話を聞いて、一度話してみたいと思ってたんだー。」

「先輩のお友達なんですね。魔法科一年のネモです、初めまして。」


先輩にこんな派手なお友達がいたとは。ただ、名前はどこかで聞いたような気もするな…異学年交流授業にはいなかったと思うんだけど、休んでたのかな?


「はじめまして。うんうん、ピカピカの一年生で可愛いね。彼氏の友達と親交を深めるってことで、ちょっとそっちに座ってお喋りし…」


ボウッ


「あっつっ!!!」


チャーリー先輩が言い終わらないうちに、何故か彼のローブの裾が燃えた。

先輩は何か呪文を唱え、慌てて消火する。そこへ、


「チャーリー!!!!てめぇ早速何してんだよっ!!!」


大きな声とともに、ダリオ先輩がこちらへと猛ダッシュで駆け寄ってくる。


「あはははは。まだ何もしてないよー。ひどいなぁ。」


ダリオ先輩がチャーリー先輩から私の身を背に隠すようにして立ち塞がる。


「ネモのこと話した途端、姿消して本人に会いにいくとか、何かするとしか思えないだろうがっ。」

「信用ないねぇ。あれれ?もしかして、彼女が僕に取られちゃうとでも思ったのー?」

「思ってねぇよ!いらんことすんな。しっしっ。」


チャーリー先輩の扱いが野良犬をあしらうみたいな…。

基本的にシャノン先輩以外の人には比較的穏やかに接するダリオ先輩が、ここまで毛を逆立てるのは珍しい気がする。


「ひどいなー!まあいいや、今から先生のとこに行かなきゃだから、またねー」


チャーリー先輩は先輩の態度に気を悪くするでもなく、手をひらひらさせて去っていった。


結局、何だったんだ。


「大丈夫?なんもされてない?」


チャーリー先輩が見えなくなったあと、ダリオ先輩が私の全身をくまなくチェックしていく。その様子はわりと真剣だ。


「いや、普通に挨拶されただけですよ。先輩のお友達だって。」

「なら良かった、あいつマジで手癖悪いから全く信用ならないんだよな…もしかしたら、またおまえんとこにちょっかいかけに行くかもだから、注意しといて。」


「手癖が悪い…たぶん何もないと思いますが、注意しておきます。」


先輩、いつになく過保護だな。どれだけ信用ない人なんだ、チャーリー先輩って。




その日の夜、カタリナからチャーリー先輩に関する話を聞くことになる。


「チャーリー先輩って、魔法科第五学年の?」

「知ってるの?」

「めちゃくちゃ有名な人じゃん。」

「そうなの?かっこいいから?」

「それもあるけど、女癖が終わってるってほうが知られてるよ〜あだ名は“歩く下半身”。あと女の子は見境なく好きだから、みんなからチャラ男先輩って呼ばれてるよ。」

「思ったより強烈だね!」


先輩が言ってた手癖が悪いって、女癖のことだったんだ。


今の第五学年の魔法科は本当に際物揃いだよなぁと思う。

火力No.1のダリオ先輩に、チートなシャノン先輩、それからチャーリー先輩。他にも他学年まで名が知られてる人がちらほら。


「チャラ男先輩は、来るもの拒まずだしモテるけど、特定の人と長いこと付き合うことはないんだって。」

「そうなんだ。てか詳しいね、カタリナ。」

「同じクラスの子がちょっとね。前にチャラ男先輩とご飯に行ったらしいんだけど、即効で手を出されて、それを良い思い出だったって面白おかしく話してたの思い出したんだよ〜。」

「おお、大人…」


良い思い出…それで良かったのか、その子は。


「最近まで短期留学してたみたいだから、学校で見かけなかったのかもね。」

「へぇ、短期留学か。」



と、そのとき、窓の外がわずかに光った。



「あ、魔法鳥のメール便だ。」



窓をすり抜け、真っ赤なギラギラした炎をまとった鳥が翼をはためかせ飛んできた。

そして、何故か私の肩に止まり、羽根を休めはじめた。


「わあ、キレイ!不死鳥みたいだね〜、エンデ先輩から?」


「たぶん。でも、なんか様子が違うような…」


前にやってきたときは、すぐにメッセージを伝えて消えていった。けど、今回のこの子は口を開く気配を見せようとしない。

魔法で出来てるくせに、肩に重量を感じさせる。

重い。


「休んじゃったねぇ。熱くはないの?」

「全然。温度は感じないかな。でも重い。」


炎が揺らめくような羽根を纏っているが、本物の火で出来ているわけではないらしい。


「ねえ、きみ、メッセージ預かってるんじゃないの?」


そう肩の魔法鳥に話しかけるも、私の声かけを無視して目を閉じてしまった。


「もしかして寝ちゃった?」

「ええー…どうしたらいいの、これ。」

「待って、またなんか来たよ。」


カタリナがまたも窓の外の光を捉え、二人してそちらの方を振り向く。すると、先程と同じように窓をすり抜けて魔法鳥がもう一羽やってきた。


さっきの炎の鳥とまた違った派手さをした極彩色の鳥が、七色の光を放ちながら私の前で静止する。


そして口をばかりと開け、


『おやすみ、ネモちゃん、』


「うわ!めちゃくちゃ甘い声!」


カタリナの言う通り、魔法鳥は酷く甘い声で囁いたあと、さらに言葉を続けようとし、



ゴッ…



「「え」」



私の肩に止まって沈黙していた炎の鳥が、急にカッと目を開き、極彩色の鳥に向かって特大の炎を吐いた。


一瞬にして燃えカスとなった極彩色の鳥。

もちろん、先程の話しかけてたメッセージの続きを聞くことは出来なかった。



予想外の出来事に目を丸くしていると、炎の鳥が私の肩から降りて、正面に向き直って口を開いた。


『おやすみ、ネモ』


「こっちはこれまた対照的な声だね〜」

「注目すべきはそこじゃない気がする…」


ダリオ先輩の魔法鳥は前回と変わらず引くダミ声で言葉を発したあと、ゴウッと自らを燃やし消えてしまった。


「なんだったんだ…」

「うーん、とりあえず、燃えちゃったほうは一旦無視しといて、エンデ先輩にあいさつでも返信したら?ネモも魔法鳥使えるんでしょ?」

「ああ、そうだね。」


あっけに取られてしまったけど、確かにカタリナの言う通り、先輩に挨拶を返したほうがいいだろう。


まだ完全に手順を覚えてないので、テキストを見ながら魔法を実行していく。


現れた緑の鳥に『おやすみなさい』と書いたメモを加えさせ、先輩の元に届けるようにした。


「ネモの鳥は喋らないの?」

「私のレベルじゃ手紙を加えさせるのが精一杯なの。」


いつになったら私の魔法鳥は言葉を届けることが出来るようになるんだろう。きっと練習あるのみだな…


「あのキラッキラした魔法鳥はきっとチャーリー先輩な気がする。」

「うん、私もそう思うよ〜そしてそれを見越して手の込んだ魔法鳥を送ってくる彼氏。愛されてますなぁ。」

「いや、愛されてるかはさておき、私は魔法鳥があんな使い方出来るって初めて知ったよ…」


人の魔法鳥を攻撃してメッセージの送信を妨害する。

使いようによっては便利だろうけど、やられたほうはたまったもんじゃないだろう。

確か届けることが出来なかった場合の制約もあっただろうから、メッセージが届いてないことに送信者が気付かないままということはないだろうけど。


「明日先輩にさっきのメールの件話してみるかな…」

「うんうん、それがいいよ。」





翌日。先輩に会えたのはお昼時間。天気もいいので中庭に行って二人ベンチに並んでモグモグお昼を食べていたときに、昨日のことを切り出してみた。


「先輩、昨日の魔法鳥・・・」

「ああ、返事、ありがとな。」

「どうもどうも。いや、そうじゃなくて、先輩の魔法鳥が後に来た魔法鳥を消しちゃったんですが。」

「うん。消えて良かった。あのメッセージは聞かなくていい。」

「えー…」


やはり意図してやったらしい。やや引いた様子の私を見て、先輩が弁明し始めた。


「…昨日の夜、談話室でチャーリーがおまえにしょうもないメッセージ送るって言うから、慌てて止めさせたんだよ。でも向こうの送信が先に完了したから、速達便で先回りして無理矢理取り消してみた。」

「魔法鳥って速達便の応用もきくんですね…」


先輩、魔法鳥メールを使いこなし過ぎではないだろうか。先輩が取り消したくなるくらいしょうもないメッセージって一体なんだったんだろ。


「あ、ダリオ君にネモちゃん!こんなとこにいたんだ。」


「げっ」


おお、噂をすればチャーリー先輩。

彼は見る人が見れば蕩けるようなキラッキラの笑顔を浮かべてこちらへと駆け寄ってくる。

あ、チャーリー先輩サンドイッチの袋持ってる。これは相席する気まんまんだな。


ダリオ先輩はというと、これまで見たことがないくらい苦い顔をして彼を見ている。


「いつものメンバーのとこにもいないし、探しちゃったよー」

「探さなくていいから。なんで邪魔しにくるんだよ。」

「だってさー、僕が復学したら、ここ最近彼女作ってなかったダリオ君にまさか一年生の彼女が出来たっていうじゃない?しかもほぼ毎日会ってるっていうし。もう興味しかないよね!ほら詰めて詰めて」

「本当勘弁して…」


あ、先輩が珍しくお手上げ状態だ。

チャーリー先輩は項垂れるダリオ先輩を横に押しのけて端に座り、サンドイッチを咀嚼しはじめる。


よし、ここは私が彼の相手をしてみることにしよう。


「あの、昨日は魔法鳥のメッセージありがとうございます。途中までしか聞けませんでしたが。」

「ああ、途中までは聞けたんなら何よりだよ。」


ダリオ先輩越しにこちらへと微笑みかけるチャーリー先輩。うーん、イケメン。異なるタイプのイケメンのダリオ先輩で耐性がついてるとは言え、彼の笑顔はずば抜けてるため、思わず赤面しそうになる。

いけない、平常心平常心。あ、ついでだから留学のこと聞いてみよ。


「チャーリー先輩は短期留学してたって聞いたんですが、どちらまで行かれてたんですか?」

「隣国のダート学院だよ。僕、卒業研究のテーマで魔法石を扱ってるんだけど、そっちに専門家がいるっていうから、しばらく学園を休学して留学してたんだ。」

「おお、凄い。」


チャラ男先輩と言われてるくらいだから、不純な動機で短期留学したのかと思ったら、意外にも真面目なようだ。


「卒業後も魔法石関連の研究をするんですか?」

「うん、そうだよ。軍の研究施設に内定貰ってるから、配属は違うと思うけど、ダリオ君と一緒だよー。」


「おまえら俺を隔てて会話すんなよ。」

「横並びだから仕方ないよ。」

「横並びなので仕方ないです。」

「…」


あ、不貞腐れた。


「ほんと、ダリオ君は可愛いよねー。」

「それは激しく同意です。」

「なに意味不明なとこで意気投合してんだよ…」


私とチャーリー先輩に挟まれた先輩は額に手を当てため息をつく。

なんだか疲れてるように見えたので先輩の背中をさすってみる。どうどう。


「はは、ダリオ君が宥められてる。知ってのとおり、僕は彼氏がいる子には手を出さない主義だし、本当にただ親睦を深めたいだけだよ。だからそんなにガルガルしなくていいよ。」

「ガルガルなんてしてねぇ。」


いや、チャーリー先輩の言う通りだと思う。昨日からダリオ先輩は毛を逆立てた猫のようだ。

が、ここで同意するとますますダリオ先輩の機嫌を損ねる気がするので黙っておこう。


「独占欲丸出しの狭量の男は嫌がられるよ〜」

「ど、独占欲?」


思わず聞き返してしまった。チャーリー先輩はサンドイッチを全部飲み込んでから、ダリオ先輩を押しのけてこちらに身を乗り出してくる。


「どうみてもそうでしょ!自分以外の男が喋りかけると邪魔しに来るって、どんだけ狭量なのさ。」

「ええー…」


というより、あなたがわりと女性関係で心配な人物だからダリオ先輩が警戒してるだけな気がするのですが。


「…」


ダリオ先輩は下を向いたまま言い返さない。どうしたんだろ、無視してるだけ?


「ダリオせんぱ、」


声をかけようとしたところで、チャーリー先輩の持ってきたサンドイッチの袋が燃えだした。


「ええっ!燃えてますよ!袋!」

「わあ、火事。」


チャーリー先輩は突然の出来事に慌てる様子もなく、瞬時に魔法を展開しボヤを消火した。


「あはっ!久しぶりに彼が自然発火させるのを見たよ。ストレスが限界超えると燃えちゃうんだよねー。今の貴重だからね、ネモちゃん!」

「自然発火」


魔法じゃなくて?ストレスで?どういうこと?


「…チャーリー、メシ食い終わったんだろ?演習室行くぞ。久しぶりに相手してやるよ。」

「わーやったー模擬戦だ!その言葉を待ってたんだよ!行こう行こう!今すぐ!」

「ごめん、ネモ。ちょっと行ってくる。また明日な。」

「まったねー!」


「私も見たい」と言うより早く、二人は颯爽と演習室の方向へ消えてしまった。


ポツンとベンチに一人取り残された私。


え〜


放置はないんじゃないか。

いや、私も食べ終わったけどさ、次授業あるから準備に戻らないとだけどさ。


それにしても、チャーリー先輩はダリオ先輩のことを構いたくて仕方がないって感じだったな。


愛されてるなぁ、先輩。


……あれ?


ということは、チャーリー先輩ってもしや私のライバル?




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