イチゴ
人気フルーツ!
※ 本羽 香那先生主催の【一足先の春の詩歌企画】参加作品です
キーワード:「イチゴ」
ナンテンの実を瞳に そこらの葉っぱを耳にして
雪からうまれた雪ウサギ
そのふんわりした毛並みを
しだいにしゃりしゃりさせていったのを
不思議そうに見ていた白ウサギに
春が訪れる日 雪ウサギは
突然のさよならを告げた
ぼくはもうとけてしまって
きみとは逢えなくなるけど
またつぎの冬 雪が降ったら
ぼくのうまれかわりかもしれない雪ウサギが
きみのまえにあらわれるはずだから
そのときはよろしくたのむよって
そう言い遺すと
つぎの日にはもう 瞳と耳じゃなくなった
ナンテンの実とそこらの葉っぱを置いて
ちいさなからだはあとかたもなく
消えてしまっていたんだ
そりゃあ 白ウサギは泣いたさ
さみしくて かなしくてだけじゃない
雪ウサギとすごしたひと冬はみじかくても
大切な時間だから泣いたんだ
赤い目をもっと真っ赤にして
こぼれおちたその涙は
雫のかたちのまま
白ウサギの目とおなじ色をした 赤い果実を結んだ
ルビーのような宝石を結ぶこともできたんだろうけど
はなかく消えた雪ウサギを想っての涙に
それはふさわしくないから
くちびるで包むとほどけてしまう
赤いイチゴになったのさ
きみもほおばったことがあるだろう?
イチゴがあんなにあまずっぱいのは
白ウサギを泣かせたものが
さみしさや かなしさだけじゃなくて
雪ウサギのことを大好きで
また来年も逢えるよねって望みだからだよ
おぼえておいて
春に届けられるイチゴは
雪ウサギを想って白ウサギが流した涙の雫
別れのさみしさ かなしさと
つぎの冬での再会の誓いがこめられてる
雪ウサギと白ウサギの
ひと冬の友情がこめられてる
でも、そんなに食べないかも……?