17 動物王国
大樹海で活動拠点を得た俺。
そのためか、森の中での出来事にも弾みがついてきた。
あれから起こった進歩として、まず挙げられるのは新しい絆召喚獣を得たこと。
その前に契約したオオカミのウルシーヴァとまったく同じパターンだった。
俺が拠点を置いた丘は、非常にいい立地条件をしている。
そのためナワバリとして欲しがるモノたちがあとを絶たず、次に現れたのは王虎族を名乗るトラの集団だった。
ヤツらも魔獣族の一種らしく、丘を奪い取り自分たちのナワバリにしようというところまで先に来たオオカミたちと同じだった。
オチもまた同じで、最後にはゴーレム外装をまとったコレーヌに薙ぎ倒されて終わり。
またリーダーの子と契約を結び群れごと配下に引き入れた。
王虎族の長ニャンフーも、絆召喚の契約を結んだら可愛い女の子に変化した。
魔獣って皆そうなの?
「偉大なる主様のために働きますにゃー!!」
と言う明るい子だった。
やはり獣から変化したせいか、ネコミミや尻尾など獣だった頃の名残があり、挙動もどこかネコっぽい。
「ニャンフーが顔を洗っていますよ。明日は雨ですね」
「人の姿になっても毛づくろいいるの?」
「ニャンフーが虚空を見詰めていますよ」
「ネコって何故か何もないところを凝視するよね」
ヒト化した彼女は十代後半程度の溌剌とした姿で、小柄ではあるが俊敏そうなところもネコそのものだった。
しかしながら彼女ら王虎族は、人からはメディタイガーと呼ばれる凶悪なモンスターである。
ウルシーヴァの時と同様、彼女が率いたトラたちも、獣の姿のまま付き従っているので、俺の周囲はオオカミとトラが囲む猛獣軍団と化すのだった。
「おいネコども。主様に仕えたのは我ら獄狼族が先なのだからな! つまりこの群れの中では我らが格上! そのことを覚えておくがいい!」
「あとか先かの順番なんて大した意味ないにゃー。大事なのはどれだけ役に立つかにゃ! その点アタシたち王虎族は、お前らみたいなイヌっころより遥かに優秀にゃん!」
思った通りの対抗意識になった。
いがみ合って空気を悪くするのはよくないので、俺が介入し場を和ませんとする。
【絆召喚術Lv37>絆:ニャンフー(モットメディタイガー)>召喚可能物:ねこじゃらし】
ちなみにニャンフーは個体としては、メディタイガーの上位に当たるモットメディタイガーという種族らしい。
やはり群れの長は特別なのだった。
で話を戻すが……。
……召喚された、先っぽになんぞモフモフしたものがついているオモチャを振り回すと、途端に反応して駆け寄ってくる猫娘。
「んにゃーッ!? 狩猟本能が刺激されるにゃー!! そのモコモコから目が離せないにゃーッ!?」
「ほーれほれほれ」
俺がねこじゃらしを振り回すと、その動きにつられてニャンフーは駆け巡る。
ヒト化してもネコ科の本能はまったく色褪せていないようだった。
まだまだ行くぞ?
複合絆召喚で、さらなる切り札を出す。
【複合絆召喚術Lv37>絆1:スラッピィ(スライム)>絆2:ニャンフー(モットメディタイガー)>召喚可能物:液状おやつ(猫用)】
色々試しているうちに呼び出せた中で、もっともヒットした物品であった。
よくわからんが、筒状の包装されたものの端を切ると、中からドロリとしたものが出てきた。
それをニャンフー始め、トラたちは一心不乱に舐めてくる。
「にゃーッ!! ご褒美にゃ!? 美味しすぎてやめられない止まらないにゃーッ!?」
あまりにもまっしぐらなため、なんかヤベェものでも含有されているのかと、この液状キャットフードとやらが恐ろしくなる。
そんなニャンフーのあさましい姿を、ライバル気取りのウルシーヴァは眺めて……。
「ふん! 食い物ごときで度を失って情けない。所詮ネコどもには、我ら獄狼族のような誇りは欠片もないと見える!」
「ウルシーヴァたちの分もあるよ?」
【複合絆召喚術Lv37>絆1:スラッピィ(スライム)>絆2:ウルシーヴァ(ヘルヘイムウルフ)>召喚可能物:液状おやつ(犬用)】
オオカミたちにも同じようなものを舐めさせてやれないものかと、色々試しているうちにできた。
また端をちぎり、中身をにゅるっと押し出す。
「ほらウルシーヴァもお食べ-」
「ななななな、何をされます主様!? 我ら誇り高き獄狼族は、ネコどものようなあさましい醜態はけっして見せ……、わきゅぅ~~ん」
堕ちるの早い。
耐えた時間は僅か数秒。ウルシーヴァはすぐさまチューブから出てくる液状おやつをベロベロ舐めとるのであった。
「ハイハイお代わりたくさんあるからねー。ケンカせずにお食べー」
リーダーのウルシーヴァやニャンフーだけでなく、他のオオカミやトラたちも美味しいものの気配を嗅ぎ付けて寄ってくる。
『我にも寄こせ』『我にも寄こせ』と言わんばかりに。
……。
やっぱこれ、何かヤバい成分でも交じってるんでは……?
獣たちが群がってくる中で、ウルシーヴァとニャンフーだけが女の子の姿をとってペロペロ舐めてくるのがやはり一際異様だった。
「マスター、畜生どもと戯れるのはそれくらいになさってください」
そんな俺のモフモフ時間を切り上げさせんと介入してくるコレーヌ。
何故か言葉尻が辛辣だった。
「そろそろ次の行動に移りたく存じます。方針をお示しくださいマスター」
そうよな。
いつまでもこうしてモフモフ楽園に戯れているわけにもいかない。
俺は、崇高な使命のために大樹海へと踏み込んだのだから!
……なんだっけ?
「しかしまあ、絆召喚術の検証としては一区切りはついてるんだよな……」
スライムのスラッピィから始まって……。
ゴブリンのゴブリーナ。
ゴーレム(オートマタ)のコレーヌ。
ウルシーヴァとニャンフー。
契約を交わした絆召喚獣は五体、なかなか潤沢になってきた。
複合絆召喚も相まって、呼び出せるものの幅も広がった。
しかしそれでも俺の探求心に終わりはない。
これからさらに絆召喚術を研究し、何ができるのかを見極めていきたい。
「そのためにもますますここに腰を据えたいところだが、足りないものが多い」
かつてコレーヌが守っていた丘を拠点として、家まで建てた。
簡単なログハウスであったが、夜露を凌ぐには充分で、かつ暖も取れる。
ただ屋内は今も何もなくて閑散としていた。
普通なら家具でも置いて、より生活感を出すべきところだが、その家具をどう用意していいのかわからん。
ベッドとか、テーブルとか、タンスとか。
そのうち絆召喚で呼び出せるかと思ったが、そんなことなかった。
今のところかすりもしない。
ウルシーヴァやニャンフーと契約して呼び出せるようになったのはドッグフードやキャットフードの他に……。
ねこじゃらし、キャットタワー。
ボール、フリスビー。
……など遊具がほとんど。
オオカミやトラたちと契約を結んでプラスになったことは、召喚物よりむしろ彼らの戦力そのものだな。
何しろ集団であるので、彼らが丘の周りを警護してくれるようになって、さすがにさらなる侵入者は寄り付かなくなった。
獄狼族も王虎族も、獣族の中ではかなり強い種に属しているようで、さらに下にいる他の種族は、この丘が欲しくても迂闊に手を出せないようだ。
煩わされる手間がなくなったのには彼らに感謝だ。
薄々感づいてはいたものの、絆召喚術によって得られるメリットは召喚物だけじゃなくて契約を結んだ相手が味方になってくれることも負けず劣らず重要だと思った。
モンスターを味方にすることは魔物使いでもできることだが、絆召喚術による契約はまた違うプロセスを用いているため長所と短所が分かれている。
なんで契約すると獣が女の子になるのかも謎だし……。
……話が逸れたが、そういう謎を明らかにするためにもまだまだ大樹海で経験を積まねばならない。
そのためにもこの丘に建てた家を快適にする。
そのために家具を揃えたい。
そのためには……。
「しょうがない」
前にも考えていたことだが、いよいよ実行に移す時が来たようだ。
一旦街に戻る。
このまま永遠に大樹海に居座る続けることもできないだろうし、人の住む領域へ帰ろう。
そして家具をたくさん買う!




