表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/35

挨拶回り

少し短いですが、キリなのでアップします。

「惟光には、ボクの指示に従ってもらうことになる。後で、ボクが作った資料やなんかを送るから、ここに空メールして欲しい」


何でもないような顔で、アドレスを書いた紙片を渡す。


とんでもない話をとんでもないと認識していないのだ。

単に、1+1=2というように、理論の説明をしただけのようだった。

 


やけくそになって、椅子に座った。


まだ、動悸がする。


椅子は上等だった。座り心地が違う。

だが、そんなことより、今の話が頭の中をグルグルと駆けめぐった。ショックが大きすぎて、完全にキャパオーバーだ。




「でね、お昼食べたら、駅前の事務所に来てくださいって、ヒカルが言ってた」


 急に子供っぽい口調で言う。

 こいつ、わざと使い分けてるんじゃないか?

 

 ええい。それでも、これが俺の上司で、上司の命に従うのが俺の仕事だ。


 


「駅前の事務所って?」

「お父さまの久光氏の事務所。場所、知ってる?」

 


 この街に住んでいる人間で、知らない者はいないだろう。



「ああ、知ってる」

「これから外回りのお手伝いもしてもらうことになるから、あちこち紹介するって」






「あっちこっち紹介してもらうんだったら、もっとマシな格好しないと」


 美保は、ニヤリと笑ってスタイリストと化した。何のことはない。俺で遊びたかったのだ。


 紫は大喜びだ。

 

 結局、オーディション用に購入した一番マシな背広に落ち着いた。

 後、2着は買った方が良いとのアドバイス付きだ。



 ドライヤーとブラシを手にした美保と、頬杖をついた紫に、いってらっしゃい、と送り出される。

 

 何の因果で、小娘どものおもちゃにされなきゃならないんだ?


 先が思いやられた。


 でも、チームヒカルでは、俺が一番下っ端なのだ。


 歩きながら、紫の話を反芻する。


 

 とんでもない世界に足を踏み入れたのだろうか? 

 




 駅前の事務所は、一等地に建ったビルの三階にあった。

 

 窓に大きく二条久光事務所と書いてある。

 ドアを開けると、背広姿の光が待っていた。


「なかなか良いじゃないか。

 美保ちゃんの仕事?」

「お見込みのとおりです」

「紫は、何か、言ってた?」

「良い良いって、喜んでました。完全におもちゃですよ」

「君を気に入ったんだろう。良かったよ」

「良くないです!俺のメンツは、どうしてくれるんです?」


 憮然とすると、光が笑いながら話題を変えた。


「君、紫に頼まれてデータを売っただろ?」

「ええ、おかげさまで、良い小遣いになりました」



 何で知ってるんだ?

 返せって言うなよ。

 もう使ってしまったんだ。


「紫が言ってた。

 でたらめな数字を並べても分からないのに、君は、自分の調べたノートをそのままコピーしてくれたって」

「だって、コピーが欲しいって話だったじゃないですか。だから、あの近くのコンビニでコピーしたんです」

「君は、あの時、紫のことを、私の所へ提出するレポートを書いているライバルだと思っていただろ?」

「ええ、あんな小さな子が、ジュニア、いえ、あなたの課題をしてるので、驚きました」

「だったら、でたらめな数字を渡した方が、君にとっちゃ有利なはずなんだ。

 少なくともライバルが一人減る。

 実際、デタラメなデータを渡した者もいる」

 



 絶句した。


 そういうやり方もあったのだ。


「でも、君はそうしなかった。

 馬鹿正直に自分のノートをそのままコピーして渡したんだ。


 それに、同席している間、他の連中と違って、嫌がらせをしたり、怪しげな振る舞いをしたりしなかったって」


 嬉しそうに微笑む。



「怪しげな振る舞いって?」

「そのうち分かる。

 紫は、あの器量だ。いろんな男が卑猥な言葉を投げ掛けたり、怪しげな振る舞いに及ぶことがあるんだ。

 だから、外へ出せない。

 あんまり丈夫じゃないのに、周りはオオカミだらけなんだ」

 

 




惟光氏の初仕事は、関係各所の挨拶回りでした。

しかし、ボスも上司も癖のある連中です。これから、どうなるでしょう?

がんばれ、惟光!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ