第九話 お気に入り、見つかりました!
ホームセンターでの買い物を終えると、なんとなく、隣接している百円ショップに立ち寄った。メッシュマットを買ったとはいえ、その上で寝かせるのは、ちょっと寒そうな気がしたからなのだが、今にして思えば、なぜ百均で購入しようと思ったのか謎である。むしろ、ホームセンターのタオル売り場の方が充実していたのではないのかと思うのだが、おそらく、カプセルホテルのようなキャリーケースを購入したことによって、満足してしまったことが原因ではなかろうか。それでも結果、彼のお気に入りを見つけるに至ったのだから、間違った選択でもなかったのだけれど……
さて、本題に戻ろう。ねこさんは手のひらサイズ並みの小ささである。加えて、なんだか元気がない。母親と離れてしまったことで、心身ともに傷ついたのか。いや、そもそも離れてしまったのか、離されてしまったのかも謎だ。兄弟はいなかった。ねこの出産で一匹だけ……ということが起こるのか、どうかというのもわからない。いぬは小型犬でも二匹くらいは産む。五匹ということもある。大きさはお腹の中での発育具合で個体ごとに異なるとはいえ、一匹だけで、このちんまりサイズなら、母猫はかなり大事に育てていたはずではないだろうか? 多頭であったとしたら、一番弱い子供を見捨てるというのは生き抜くためには必要なことなのだろうが、それでも、彼からしたら母猫は母猫であり、恋しいに決まっている。
そんな彼のために、なんとか、それに代わるものがないだろうか? タオルは敷いているが、なんの変鉄もないノーマルタイプ。汚れても惜しくないが、白とか緑とか、それこそ味気ない。折角、小さいねこさんなのだから、もっと可愛いのがいいと、ぼくはタオルコーナーへ向かった。
数あるタオルのなかで、ぼくが手にしたのは肌触りの柔らかな、ふわふわタオルだった。
これなら、いい……かも!
手触りが優しいのでいいのではないのかと思い、購入を決める。ひとまず、洗い替え用も欲しいだろうし、男の子なのでピンクよりはブルーだろうと、水色のストライプ柄と黄色と青の水玉柄の二枚を購入してみた。
早速、家に帰って購入したもので、ねこさんの居室を作ってみる。カプセルホテル(キャリーケース)の中に、折りたたんだメッシュマットを敷き、その上にふわふわタオル。ノーマルタオルは排泄してしまっても、タオルだけ取り換えればいいように入れてみる。プラスチックの冷たさがダイレクトで身体を冷やすことはないくらいには厚手になったはず。よしよしと、段ボールから、ねこさんを移動させてみる。すると、どうだろう。
ゴロゴロゴロゴロ……
それまで、泣きもせず、ちんまりと段ボールの端っこで座ったり、丸まっていたりしたねこさんが、ふわふわタオルに頬をすり寄せ、喉を鳴らし始めたのである。さらにそのタオルの感触を確かめるかのように、手を踏み踏みさせている。
ゴロゴロゴロゴロ……
ねこさんは本当に嬉しそうだった。百円で申し訳ない気持ちになるくらいには、ねこさんのふわふわタオルの気に入りっぷりはすさまじかった。とにかく、そのタオルならば、喉を鳴らすのだ。
正直に言おう。かなり感動した。とにかく、かわいいなと思ったのだ。
ああ、よかった。本当によかった。百円でごめん。こんなタオルでこんなに喜ぶなら、十枚でも、二十枚でも買ってやるよ、ボーイ。
ゴロゴロと頬すりすりを見ただけだというのに、かなり心はぐいぐいである。このことをSNSで報告すると、フォロワーさんから『お気に入りが見つかりましたね』という言葉をいただいた。うん、お気に入りが見つかりましたよ!
お気に入りのふわふわタオルが見つかったのは幸いだった。これが、今後の彼の運命の鍵を少なからず握るアイテムになろうとは思いもせず、ぼくはゴロゴロ喉を鳴らすねこさんをのほほんとしあわせ顔で眺めていたのだった。
※お気に入りのもふもふタオルとホームセンターで購入したメッシュマット、陶器の器です。
(余談)