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第七話 どうしてこうなるの?

 次の日の朝を迎え、段ボールのねこさんを見たぼくは衝撃を受けることになった。


 なんで? どうしてこうなるの!?


 昨日はかろうじて開いていた目ヤニべったりの左目が閉じてしまっている。そう、目ヤニによってくっついてしまっていて、まったく開かなくなっているのである。見た目はもう、独眼竜政宗そのものなのだ。


 ちなみにこの時点で、鼻のまわりまで黒い塊みたいなものが付着していて、とにかく汚い顔になってしまっているのだ。


 目は開かない。鼻まわりは汚れている。段ボールの端っこでちょこんとお座りしたまま動かない。


 目薬は一日三回点眼しないといけないが、目が開いていないのに点眼薬を入れることなど可能なのか? ひとまず、点眼薬を注してみる。当然ながら、入るわけがない。


 意味ないやーん。


 薬が表面を流れていくだけで入らない。目をこじ開けようと思ったところで、目ヤニは固くなってしまって、にっちもさっちもいかない。


 そこで、ぼくよりもねこに詳しいハットリくんに連絡する。


「目ヤニ、ちゃんと取ってやらないと、目が見えなくなるからな。温かいお湯で目ヤニを溶かせ。大丈夫だって。思ったよりも頑丈なんだからさぁ。怖がらずに拭いてやれよ」


 そうは言っても、ぼくの中で、ねこさんは宇宙人そのものである。小さすぎるし、小さすぎて力加減が本当にわからない。強い力で拭いてしまっては、摩擦で余計に悪くすることになりかねないのではないか? というか、この目ヤニ、そんなことで簡単に取れるのか?


 しかし、とらねばならないだろう。ハットリくんの言うとおり、このまま目が開けられない状態が続いてしまったら視力に問題も出てくるに違いない。なにより、片目は不便だ。


 ぼくは意を決してお湯を沸かす。手で触るにはちょっと熱い程度でなければ、タオルはすぐに冷めてしまうし、洗面器のお湯はとにかく冷めやすい。ハンドタオルもなるべく柔らかいものを選び、レッツチャレンジ。


 ありがたいことにねこさんは動きがすこぶる鈍い。掴んでも抵抗しないし、逃げやしない。今ならわかるが、この時点ですでにあまりよくない状態であるのだが、それより、なにより、まずは目ヤニである。


 ホカホカのタオルで目ヤニを拭くが、頑固であった。そう簡単に取れないのである。おっかなびっくりタオルを当てているから余計に取れない。ねこさんは無抵抗。


 ふーむ。もうちょっと強めに拭くか……


 再び、タオルをホカホカにして再度チャレンジ。拭くのではなく、溶かすようにと、ホカホカタオルを目の上にしばらく宛がい、そこからキュッと拭いていく。固まっていた目ヤニが動き、塊がタオルにつく。この時点で目が半分開く。


 よし! やった!


 バカである。本当にぼくはバカである。目が開いたので、そこで終了し、ねこさんを段ボールに戻す。目の周りにはまだ赤黒い目ヤニが貼りつき、鼻のまわりにも同じような塊がついている。


 この塊取れるの?


 そう思って、鼻のまわりをちょっとだけ拭いてみるが、ひげの根元にこびりついた塊を取るのがひげそのものまで抜いてしまいそうで怖くて断念する。鼻まわり、汚れ付着でカピカピしているが、目が開いたことで、今回のミッションは成功ということにした。


挿絵(By みてみん)



 目が開いたので、もう一度目薬を注し、ごはんをあげることにした。ミルクを残したことを考え、ミルクの量も昨日の半分の量にする。なんとか、それは完食したものの、もう少しお腹の中に入れなければならないだろうと、缶詰を少し温め、与えてみる。が、食べない。


「まだ、食べるのがへたくそだから、口を開けさせて、上あごにくっつけるように最初は食べさせてみるといいよ」


 と、獣医さんの指示を思い出し、二口ほど、口の中に入れる。入れたものについては食べるが、やはり嫌がる。ごはんは断念する。そして排泄チャレンジ。今回は少量のおしっこはしてくれるが、ティッシュにちょっとだけしたくらい。それでも出るだけよかった。排泄がなかったら、獣医さんに駆け込む気でいたから、少しでも出してくれたことにホッとする。しかし……


 思っていたかんじと随分違うなぁ。


 もう少し食べられるようになれば、かなり変わりそうなんだがと首を捻りつつ、今度はひなさんに慣れさせるために、彼女が見える場所にねこさんを連れて行く。


「ワンワンワンワンワンッ!」


 相変わらずほえられる。段ボールの中でねこさん、微動だにしない。仕方なし、カラーボックスの一番上にスペースを作り、そこに段ボールを入れてみると、ぴったりだった。


 見えないけれど、声と気配には慣れてもらおうと思ったのだが、ひなさんはカラーボックスに手をかけ、段ボールを落とそうとする。


 ひぃっっっ!


 とりあえず、ひなさんとねこさんの距離はまだまだ縮まりそうになく、ぼく自身も目が離せない状態になる。


 はぁぁぁぁ……こんな大変なのか……


 まだまだ、大変さの入り口にしかいないのに、ぼくはぐったりしてしまった。この日も何度かひなさんとの接触を試みたが、とにかくほえる、鼻で転がすを繰り返し、距離は少しも縮まらなかった。 


 ねこさんは鳴かない、動かない(お腹を触るとちょっとかじったり、手を出したりする程度)、食べない(指で与えると、それはどうにか食べる)の三拍子。そのうえ、ノミが死なない。うじゃうじゃしている。


 開始早々、ぼくとねこさんとの共同生活は暗礁に乗り上げまくっていたのだが、さらに追い打ちをかける事態が待ち受けていようとは思いもしなかったのであった。


(余談)


挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)


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