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第五十四話 悲願の予防接種

 ねこさんが肺炎になる前から、ずっと考えていたこと。どのタイミングで予防接種が受けられるか……ということである。


 ねこさんが肺炎になったのは、ねこ風邪が原因である。そして肺炎の予防には予防接種は欠かせない。予防接種を受けているか、受けていないかによって、生死のボーダーラインがかなり変わってくるというのだから、早めに受けたいと思うのは飼い主ならば、おそらく誰もが考えることであろう。


 だが、受けるためには条件を越えなければならない。そう、体重条件である。


 この体重に、ぼくはひたすら苦労した。絶賛風邪引き中だった頃は体重は増えるどころか減少するし、風邪から復活しても、一キロ超えるには三週間という時間を要した。


『次はない』


 こう言われているからこそ、なんとしても予防接種を受けたかった。できることならば、元気で体力があるときに一回目をクリアしたい。いつ、どうなるのか。彼が元気で走り回っている姿を見ても、どうにも不安感は拭えなかったからだ。


 そうして、ようやく一キロの壁を越え、予防接種のときを迎えることができたときは、心から嬉しかった。体重の問題をクリアして、予防接種の山をひとつ越えることができれば、また一つ、明るい未来に近づけると思えたからだ。もちろん、元気でいてくれるのだから、それはそれで明るい現実ではあるのだが……


 さて、通いなれた獣医さんに向かう道中で、ねこさんは相変わらず元気にだせ、だせコールをしては、隙間から小さな手を繰り出していた。いつもは朝の六時に向かい、順番取りをするのだが、このときは実家の両親が順番を取ってくれたので、ゆっくり向かうことができた。なにせ、六時に家を出ても、到着した六時半過ぎにはすでに十二番目になってしまうくらい、順番取りは厳しい。帰ったのは十一時すぎであるから、この日は両親の好意に甘えることにしたのだが、順番も今や午前四時前でなければ一番目を獲得できない状況になってしまっている。先生は休む暇なく、順番取りの人のために順番用のホワイトボードを四時前に出している。


 実際に先生の状況を聞いて、同じ患者の家族としては胸が痛くなった。確かに一番を取りたい気持ちはわかるけれど、これほどまでに順番取りに苛烈にならなくてもいいではないかとも思うのだ。数年前はそれでも六時くらいならば一番が取れたのに、いまや四時。患者側である人間が多少なり、譲り合いの気持ちを持つことができたなら、こんなことにはならないだろうにと……ただ、それくらいしたくなるほど受診してもらえるまでに時間がかかってしまう、盛況であることもまた事実である。


 さて、横道にそれてしまったが、両親の好意のおかげで、ぼくはこのとき三番目に受診ができた。診察室で体重をはかると一キロ五十グラムとハッキリと表示される。


挿絵(By みてみん)



「予防注射できますね」


 アシスタントの女医さんに笑顔で状況説明をし、ついにねこさん、予防接種のとき。先生が注射を片手にやってくる。もちろん、細い、指一本分。あの太い注射がトラウマとなってしまっていて、どうしても注射の太さや量が気にかかる。どうやら予防接種で具合が悪くなってしまう、肺炎になってしまう例もあるというのだ。


 ぼくは祈るような気持ちで、予防接種をするねこさんを見守った。


 どうぞ、これで状態がおかしくなりませんように――


 ぷすりとねこさんの背中に細い注射針が刺さる……のだが、ねこさん、微動だにしない。


「あれ? もしかして、注射慣れしちゃった……のかな?」

「確かに、たくさん打ったからねぇ」


 入院中に点滴やら、注射やらをたくさん経験したねこさんは怖がることも、嫌がることもなく、そこにちんまりお座りになって、大人しくしていらっしゃった。いいのか、悪いのか……ぼくも先生も苦笑した。


挿絵(By みてみん)


 こうして無事に予防接種を終えたのだが、ぼくには一つ、気がかりがあった。ねこさんの体型である。毎日、四回の食事。確かに完食しないときもあり、ウェットタイプのフードがないと『カリカリいやーん』と少ししか食べないときもある。体重は増えてきているのに、相変わらず痩せていて、あばらが見えるのだ。


「うーん、太らないのは仕方ないねぇ」


 先生はねこさんを見ながら、渋い顔だ。


「なにか、まだ問題があるんですか?」

「いや、大きな病気をしたしね。それに……まだまだ、心配かなぁ」


 心配ですと?


「無事に大きくなるかは、やっぱり大人にならないと不安だね」


 ひぇぇぇぇぇっっっっ!


「二回目は一か月後に」

「はい……」


 一回目の予防接種を終えた喜びと、もしかしたら無事に大きくしてやれないかもしれないという不安を胸に抱えたまま、獣医さんを後にする。そんなぼくの心中など我関せずと、ねこさんはとても元気に「にゃーん」とオラオラパンチを繰り出していたのだけれど……


 なんとしてでも大きくしてやらなければと思うぼくに、しかし、またしてもスピリチュアルハットリ氏による『不吉なお言葉』が待っていたのであった。


挿絵(By みてみん)



本日はこの話を含めて三回更新です。残りは12時、18時です。18時の56話目で完結です!!

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