第五十話 青い目は幸せを運んでくれる?
ねこの目の色が変わる――実はこれ、ねこさんを飼って初めて知ったことだった。ねこ素人のぼくからしたら、目の色が変わるなんて話はアンビリーバボーな話すぎた。いぬの目の色は変わらないし、いぬとねことでは骨格そのものも違うが、まさか、目の構造までもが違うなんてことも、このとき初めて知ったのである。
では、うちのねこさんは何色になるのか。三百五十グラムの小さなボディーに淡い海の色、アクアマリンのような透き通る水色の瞳のねこさんの顔をいつも、いつも見ながら、心からワクワクしていた。
ねこを飼っている人なら、よく知っている話であるが、子猫のうちはみんな同じ色、キトンブルーと呼ばれる青い目である。しかし、これ、メラニン細胞が働きはじめると、徐々に変わっていくらしい。このメラニン色素の量によって様々な目の色になる。その種類は十種類もあるというから、ワクワクしないほうがおかしい。
大まかに分類すると『青』『緑』『黄色』『褐色』で、色素が薄いほど青色になる。
さて、うちのねこさんを見たハットリくんの見解はこうだった。
「うーん、こいつは変わらんかもしれんな」
「だって、まだ先の話だろう?」
「猫好きな会社のパートのおばちゃんに写真見せたんだけどな。この時期で変わらないなら、たぶん、このままだろうってさ」
ねこさんが退院してしばらくして、少し体も大きくなってきた頃の写真を見せたらしい。
「まぁ、青い色好きだからいいんだけどな」
そう、ぼくはねこさんの透き通る青い瞳が好きだった。変わっていくところも神秘的だから見てみたかったのはあるけれど、彼には青が似合うと思う自分もいて、変わらないなら変わらないままで問題がなかったのだ。
しかし、数日後。
「青い目の猫ってさ。やっぱり弱いんだと思うわ」
と、ハットリくんからメッセージをもらう。しかも、URLつきで、ここのサイトの記事を読んでみろというものだった。
『青い目の猫の毛の色が白いと耳が悪い?』
もう、それだけでショックである。記事を読んでみると、青い目をした白猫のうち、六十パーセントから八十パーセントは聴覚障害を持っているというデータがあるというのだ。青い目で白い猫ではない場合も十から二十パーセントが聴覚障害だというではないか。
肺炎から立ち直り、元気な様子で毎日、毎日、バタバタめまぐるしく走り回っているねこさんが、もしかして聴覚障害を持っているかもしれないと思うと、それだけで胸が苦しくなった。一つ山を越えたのに、また一つ山を背負わせることになるのはいやだった。
あれだけ頑張ったのだ。生死の境目をさまよい、それでも生きることを選んでくれた彼だ。
「でも、まぁ、あいつ、真っ白ってわけでもないしな」
そうなのだ。うちのねこさんは真っ白ではない。耳としっぽは茶色いし、最近は他の部分もうっすら茶色の毛が混ざってきている。顔のあたりにまで、茶色の毛の色が侵食し始めている。それに加えて、手足が非常に長い。身体もシュッと細身である。
「外国の血が混ざっているだけじゃないのかな?」
似ていると言えば『シャム猫』である。古来よりタイで存在してきた種類である。シャムは王室や貴族、寺院など、高貴な血筋でのみ飼うことが許された、非常に尊い扱いを受けてきた選ばれし猫(タイという国でのお話)だという。その特徴は毛並みよりも『サファイアブルー』の美しい瞳。そう、うちのねこさんの瞳の色である。
「青い猫は幸せを運ぶっていうからなぁ。まぁ、いいんじゃないか?」
それはオッドアイの子ではないのかい?
と思いつつ、瞳の色はどうあれ、今のぼくの生活に幸せを運んでくれているのは確かなことである。彼がいるだけで、ぼくは元気でいられるし、ホッとするし、楽しい毎日なのだ。ひなさんは……少し迷惑そうではあるけれど。
ちなみに幸せを運ぶ猫の特徴に『かぎしっぽ』があるらしい。まさしく、うちのねこさんであるが、これもかぎしっぽが少ないヨーロッパで言われていたことだ。日本ではかぎしっぽの子は比較的多く存在する。日本猫にはよくあることらしい。
神秘的な魅力にあふれたねこさん。言うことは聞かないし、いたずら好きで、時々甘えん坊な彼との生活は、瞳の色に関わらず、幸せであることだけは変わらない事実なのであった。
※この目の色はやっぱり変わりそうにありません(笑)




