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第五話 三か月、男の子です

 ひとまず、貰い手が見つかるまで自分で頑張ってみようと決めた以上、なんとかそこまでは責任をもって育てなければならない。小さなねこさんの性別は男の子、月齢は歯が這えてきている具合から、三ヶ月と診断。授乳期を過ぎ、ぼちぼち離乳期というところで、母親から引き離されて捨てられたのかもしれないねと獣医さんは言った。だとするならば、一応は母猫から免疫は多少なり貰っているだろうから、きちんと食べさせさえすれば、問題なく大きくなってくれそう。よしよし、よしよし。と、無知なぼくは納得してしまったのだが、これがその後を大きく左右する診断だとは微塵も思っていなかった。そう、ここに矛盾があることに、このときのぼくは気づいていなかったからだ。


 素直に先生の話を聞きながら、今度はノミ対策をしてもらう。


 市販のノミとり首輪では効力が弱くて意味がないらしく、かといって獣医さんのノミとり首輪だと、うちのねこさんのように小さいと強すぎるらしい。ということで、スプレータイプのノミとり薬を塗布され、櫛を入れられると、糞だらけであることが判明。おそらく本体(ノミ)もたくさんいるよと言われる。とにかく、見つけたら取ってねーと言われるくらいにはいるらしい。


 そういえば、小さい頃はよく、わんこの背中のノミを探してはブチブチした。本当に爪先で殺すとき、ブチッというのだ。それが楽しくて、猿のグルーミングのように毛の根本を掘り起こすように掻き分けながら探した日々を思い出すが、できるなら今はそれはやりたくない。間違ってカーペットにピョーンとか、ダックスフンドのひなさんにピョーンとか、増えちゃいましたとかは本当に避けたい。そして、これは猫のベテラン飼い主さんに聞いたのだが、ノミはブチっと潰して殺してはいけないらしい。なんでも卵は潰れないから、そこから幼虫が繁殖してしまうというのだ。正しいノミの駆除の方法は『洗面器に台所洗剤を溶かしたお湯を用意して、ノミ取りブラシで取ったノミを沈める』。これらしい。そして、マダニの駆除に関しても、正しい知識が必要だ。無理に取ろうとすると、口器だけが皮膚内に残り、化膿などの原因となる。マダニを取り除くときは口器を皮膚内に残さないように専用のピンセットで慎重に除去したり、動物病院で薬剤を使用したりして取り除かなければならない。ノミ、ダニを見つけたからと言って、正しいやり方をせずに駆除しようとすると二次被害の原因になるので気をつけようである。


 そんなわけで、ねこさんは獣医さんの薬での治療となった。


「とりあえず、ノミとり薬はもう一回やるからね」


 ノミとり薬を塗布されている間、ねこさんは小さく抵抗していた。さて、次は爪切りと腫れている目である。


 爪は小さいけれど、細くて、鋭いから、引っ掛かれると、ひどいみみず腫になって数日傷痕が残ってしまう。すでに引っ掛かれてしまっていたので、爪切りはすぐにお願いした。もちろん、ねこさん、全力で抵抗する。さらに慣れていないぼくは、どうしても抱き方が甘くなり、ねこさんがジタバタ、つるりんとなってしまうから、うまく爪切りができない。


 結局、スタッフさんに抱えられて爪切りをしてもらったが、果たして今後、あれがぼくにできるのかはひどく不安になった。いぬの場合の爪切りの方がやり易く思えた。ねこは関節が柔らかいから、握ってもすり抜けてしまう感じがしたのだ。これはもう、上手くやる方法を検索しようと心に決めた。爪切りだけで毎回通う度に五百円と交通費が出てしまっては、すぐに財政難に陥りそうだからだ。


 爪切りを終えたねこさんは、少々お疲れぎみに先生の手の中でしょぼくれていた。先生はそんな彼に目薬を注し、結膜炎と病名を口にした。


「かゆくてこすっちゃうとね、ひどくなるからね。あと、まれに自分で目をえぐっちゃって、見えなくなっちゃう子もいるから、気を付けてね」


 にっこりとほほえまれる。


 まぢかよー。えぐっちゃうってなんだよー。独眼竜政宗になっちゃうのかよー。政宗はカッコいいけど、そんなんなったら貰い手が見つからなくなるじゃんか!


 なんとしても、目をえぐらせないようにしなければならないなという、新たな課題がまたひとつ増える。こうして、この日の診察は終了し、目薬とミルクとカリカリフードと缶詰ひとつ、三千円(診察料はサービスで無料。フードの料金のみ)お支払して帰宅する。その時間は午後十時をしっかり回っていた。ハッキリ言って、この時点でかなりクタクタだった。


 けれど、ここからが本番である。このときになって、初めて、ぼくはスタートラインに立ったのだ。しかしながら、ぼくは非常にのんびりしていた。この後に待ち受ける苦難など、想像すらしていなかったのだ。


 子育てはひとすじ縄ではいかないということを、このときのぼくは知らなすぎた。無知ゆえに小さな命を危険にさらすことになっていくことを知らないぼくは小さな壁に少しずつ、ぶち当たっていくのである。


挿絵(By みてみん)



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