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第四十八話 爪切りしましょ!

 うちに戻ってからのねこさんは、とにかく元気いっぱいだった。家の中を駆けずり回り、白い影がどどどっと走っていく。そのあまりのスピードに、ぼくとひなさんはぽかーんである。


 元気があるのはいいことで、本当に嬉しいこと、この上なかった。やっと子猫らしくなったし、最初にハットリくんが言っていたような、身体上の障害もなさそうに見えた。


 子犬もそうだが、小さい頃はとにかくいたずらが好きで、いろいろやらかしてくれるのだが、ぼくは子猫は初めてである。そのせいで気を抜くと辻斬りに合う。


「いっったい!」


 立っているぼくの背後から、音もなく近づいてきて、かかとをがぶりと一噛みして、風のようにどこかへ駆けていく。振り向いた時にはすでに影もない。座っていれば、ダダダッと駆けてきて、ぼくの身体を上って座椅子のてっぺんに上り、捕まえる前に床に下りて駆け去っていく。


 おまえは忍者か……


 そう思えるほどには俊敏で、病んでいた頃の影など微塵もない。


挿絵(By みてみん)



 また、遊んでほしい彼は、のんびりしているぼくの元にやってきて、手足をガブリ。爪を立てる。さらに、ぼくに飽きると、寝ているひなさんにゆっくり近づき、ワンパンチ。無視して眠るひなさんに、再びパンチ。それでも無視するひなさんに三発目をお見舞いして、ついに堪忍袋の緒が切れたひなさんに吠えられ、ビックリして腰を抜かして去っていく。けれど、めげずに、またしばらくするとちょっかいを出す。


 こんな状態の毎日が続くとなると、当然、問題は浮上する。そう、ケガの問題だ。


 爪とぎはもちろん用意してあったのだが、それでも爪を見ると、シャキーンッと鋭くとがっているものが何本もある。これでひなさんの顔にパンチして、最悪、目に入ってしまったら、大けがである。それに、もしも本気で痛い思いをしたら、衝動的にひなさんもねこさんをガブリと噛んでしまうかもしれない。


挿絵(By みてみん)


 最終的には地獄絵図……なんて未来は、絶対に避けねばならない。


 爪を……爪を切るんだよ!


 決意を持って、猫用の爪切りを購入した。ちなみにひなさんは爪が黒くて、肉の部分がわかりにくいため、自宅での爪切りはしていない。深爪しすぎて出血して、爪切りに抵抗感を持たせるより、確実にできるプロにお任せしたほうがいいという考えからだが、わんこの爪はねこのようにはとがらない。ただ、伸びすぎると、どこかにひっかけてしまい、爪そのものが取れてしまう(一度、ひなさんは爪が取れて、かなり出血した。爪が伸びてくるにも結構な時間が掛かった)ということになりかねないので、わんこにしても、こまめな爪切りは必須である。


 長く獣医さんに通っていたことで、待ち時間に子猫の育て方本を読んでいたぼくは、その内容を思い出しながら、爪きりに挑戦する。ねこさんを抱っこし、顔をタオルで覆い、手と足だけが出るようにする。指先から爪が出るようにギュッと握り、いざ、爪を切る!


「ああっ!」


 ねこさんが必死にタオルから顔を出して抵抗する。爪、切れない。


「ダメだってば!」


 しっかり抱えこんで、また、顔をタオルで覆い、再度挑戦する。けれど、何度やっても、ねこさん、タオルから顔を出す。


 三十分格闘して、一本切れただけ。しかも、ちょっと先端だけ……


「難しすぎる……」


 慣れない猫用爪切りは、肉の部分がうまく見えず、どうしても先端を甘く切るくらいしかできない。


「それなら、あれしかない!」


 飼育本に書いてあった、もう一つのアイテム。人間の赤ちゃん用の小さな爪切りを用意し、別の日にトライしてみる。


「よしっ!」


 肉の部分との境目もよく見えるので、爪は確かに切りやすかった。しかしだ。これも問題があった。切った後の切り口の断面がきれいにスッパリならないのだ。ささくれみたいになるというか、切れるけれど、やすりを掛けてやらないと、どこかに引っかかってしまいそうなのだ。


「これはダメだな……」


 結局、獣医さんに爪切りを頼んだが、そのときはどんなに元気なときにやっても、ものすごく大人しく切られていた。暴れもしない。


「なんで、こんなに大人しいんだ?」

「たぶん、なにやられてるか、わからないうちに終わっちゃったんだと思いますよ」


 アシスタントの女医さんは、そう言って笑った。


 結局、その後は眠くて、ぬぼーっとしているときに切るようにしているので、以前よりは爪切りも容易にできるようになった。


 そして、二回目の予防接種のとき、あまりに上手く切れなくて、先生に頼ろうとしたぼくは、先生からしっかり釘を刺されることになった。


「猫の爪切りは飼い主さんが頑張らないと。伸びるのも早いし、病院で切るなんて間に合わないよ」

「はい……そうですよね」


 一回五百円の爪切りに、一週間に一回通う労力も経済力も惜しい。となれば、飼い主であるぼくのレベルアップは必須というわけだ。

 しかしながら、まだまだ甘い仕上がりから、しっかりした仕上がりになるまで、時間と努力が必要なレベル一桁な飼い主は、今日もまた、ねこさんの爪切りと格闘するのである。



挿絵(By みてみん)


※いつもこんな具合で、ひなさんの穏やかな余生は……残念な状況にある現在です。


挿絵(By みてみん)


※爪伸びてます(笑)


挿絵(By みてみん)


※もみもみ、かみかみしながら寝る姿は天使なんですけどね(笑)




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