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第四十七話 一キロの壁、再び

 ねこさんが退院し、やっと平穏を取り戻した我が家。虫の駆逐も終われば、あとは大きくすることだけに集中すればいい。拾った当初に比べれば、風邪など、戦わないといけない事柄が無くなっただけ、気持ち的にも、肉体的にも余裕が持てることは明白だった。


 それに加えて、風邪が治ってからのねこさんは自発的に物が食べられるようになっていた。介助なんてものは必要なし。朝起きて台所に立てば


「にゃーん」


と、ご飯の催促までできるようになっていた。この、早く『ごはんくれにゃーん』は、実に可愛かった。ひなさんと揃って台所にやってきて足元で待つのだが、ちんまりと座って見上げる大きなおめめは反則レベルのキュートさだったのだ、この頃は。


 なぜ、この頃はと言ったかであるが、最近は座っていない。用意するぼくのかかとや足指を、これでもかというくらいに噛みつくのだ。さらに両手でしっかり、がっちりホールドでガブリ。


「痛い! いたたたたっ! ちょっと待て!」


と、叫んだところで言うことを聞くわけがない。まとわりつくねこさんとの攻防を繰り返しながら、やっとのことで食事を用意する。もちろん、先住犬であるひなさんが優先になるのだが、やつは強者だった。ひなさんのご飯に顔を突っ込み、カリカリ食べ始める。困ったひなさんがぼくを見上げる。


 いや、きみ、ここで怒っていいんだよ……


と、ひなさんの頭を撫でつつ、急いでねこさんを抱き上げて、ご飯と一緒にケージに連れていく……といった具合の毎日の繰り返しで、大人しさは欠片もなくなってしまったのである。


 さて、横道にそれたが、自力で食べられるようになると、やはり成長は加速した。病気の頃と増え幅が圧倒的に違う。一日五十グラムずつ、どんどん増えていく。ちょっと多めに与えても、しっかり完食、一日四食。測るたびに、めきめき増えていく体重に笑いが止まらない。一週間で七百グラム到達したねこさんを見て、これは楽勝だと思った。


 獣医さんへは退院して二週間ごろに行く予定。一キロに到達していれば予防接種ができる。風邪でずっと叶わなかった念願の予防接種は、このまま行けば、おそらく千五百グラムくらいで打てちゃうのではないのか、ウシシ……とニヤニヤが止まらなかったのだ。


 けれど、ここからが遠かった。そう、体重増加が停滞したのである。


 それまでハイペースで一日五十グラム増えていた体重が、なかなか増えない。二十グラム増えたと喜んでいるのも束の間で、うんちをしてしまえば元に戻ってしまう。じりじりとしか増えなくなった体重に、嫌な思いがぐるぐるする。


 この頃のぼくの焦りはやはり、風邪を引いていて思うように体重が増えなかったころの経験から出てしまったものだと思う。そして、勢いが急になくなったことに対しての具体的な改善案が浮かばなかったのも、焦りを増長させた。


 あと数日で連れて行かなければならないのに、一キロまでの三百グラムがはるかに遠い。そして時折、鼻をずっずっと鳴らしたり、小さな咳をしているのを見ると、先生の『次はない』宣言が蘇り、心の中が不安でいっぱいになった。


 元気はある。食欲もある。それでも、どうして大きくならない!?


挿絵(By みてみん)


 予防接種可能体重一キロ。

 獣医さんに行く予定の日まで、残り一日。


 計量したぼくは落胆する。


 九百グラム。一キロには届かず――


挿絵(By みてみん)


「とりあえずさぁ、獣医さんに聞いてみろよ? もしかしたら、打てるかもしれないしさぁ。それに、なにかあったら困るだろう? 相談に来てくださいって言われるかもしれないぞ?」


 ハットリくんにそう言われる。また、SNSのフォロワーさんにも『大きくなれない原因があるかもしれないから、一度、相談で通院してみては?』というアドバイスもあり、先生に電話を入れた。


『一キロに拘らなくてもいいけど。元気があるなら、来週おいで』


 一週間延長し、一日四食、しっかり食べさせる。元気を取り戻し、一日の摂取量よりも運動量が勝っている気がしないでもないが、ここは辛抱強く、体重増加を待つことにした。


 毎日計量し、一喜一憂を繰り返し、再び、最後の計量をする。


 一キロ五十グラム。


 やったぁぁぁぁぁぁっっっっ!


 ねこさんがうちにやってきて一か月半。退院して三週間。やっと、ぼくの悲願は達成される。


『一キロ到達』


と、SNSに書きこめば、これまでの苦労を知っているフォロワーさんたちから祝福メッセージをたくさんいただく。このときは本当に嬉しくて、嬉しくて、アドレナリン分泌が止まらなかった。


 こうして、念願の一キロに達したねこさんであったけれど、翌日、予防接種に行った先で、またしても先生にグッサリと刺さる一言をいただくことになる。だが、このときのぼくは、そんなことなど知る由もなく、ただ、悲願達成の喜びに酔いしれていたのだった。



挿絵(By みてみん)


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