第四十三話 虫、駆逐します!
ねこさんのお腹の中、見えないところに虫がいるという話を聞いてからは、とにかく彼がトイレに行くたびに、おしっこなのか、便なのかという点に目を光らせていた。便であれば、した瞬間にはねこさんを引き離して、すぐに捨てる。幸いだったのは、ぼくが留守にしている間、便をすることがなかったことだ。
さて、帰宅したぼくは早速、虫についての情報集めをした。詳しそうなフォロワーさんに事情を話すと、さなだ虫とか回虫かなと教えてもらった。すぐに検索すると『回虫症』というものを解説しているサイトを見つけることができた。
この『回虫症』なのだが、線虫に属する寄生虫の一種である回虫によって引き起こされるものらしい。ねこの体内に侵入した卵は小腸内で孵化し、壁を突き破って血管内を移動。肺に到達して幼虫から成虫間際まで成長すると、気管支や食道に移動し、宿主に飲み込まれて、また腸に戻る。そこで成虫になると、宿主から栄養を盗み、卵を産む。卵は排泄物と共に外に出され、また宿主に取り込まれるのを待つらしいのだ。
この回虫によって、食欲不振、下痢、嘔吐、腹痛、腹部のふくらみ、子猫の発達不良、咳、体重減少、貧血、毛艶の悪化等の諸症状がみられることになるという。
この諸症状に、ぼくは青ざめた。思い当たる症状があまりにも多すぎるからだ。
来た当初から食欲不振だった。下痢もした。ねこさんは発達不良だった。咳もあった。体重は増加するどころか減少してばかりだった。毛艶もよろしくない。ほとんどの症状が彼に当てはまってしまっていたのだ。
これ以上、体重を減らすわけにはいかなかった。退院もできたし、食欲も旺盛。元気はつらつであるのは間違いないけれど、ガリガリに痩せて、あばらが見えてしまっている状態である。体力がなくなれば、免疫も落ち、再び病気を発生させてしまう恐れも出てくる。
虫の駆逐は最優先事項。猶予はない。
一日一回、回復用の缶詰に粉状の薬を混ぜ込む。残されてはいけないので、食べきれるくらいの無理のない量を与える。しかし、今、考えれば、なにもフードに混ぜて与えることはなかった。水を少量つけて、固めに丸めて口に放り込む、もしくは上あごにつけて飲み込ませる方法もあっただろうし、そのほうがより確実に薬の摂取もできただろう。薬だけでは飲めないのであれば、本当に一口分に薬を混ぜて、同じ方法で口の中に入れ込んだほうが効果が高かったような気もする。それでも、フードに混ぜて、食べきってしまえば同じことだったので、結果オーライではあったけれど、より確実な薬の投与方法を実践しなければならないだろうと、今後の課題のひとつともなった。
便を注意深く観察するも、そこではネット画像で見たような光景は展開されることがなかった。仮に虫がうねうねする便を見てしまったら、しばらく細くて白い食べ物は食べられなかったと思うけれど……
薬を飲みきった翌日。改めて獣医さんへ向かい、排泄物の検査結果を待つ。持ってきたものに虫はついていなそうに見えたし、この三日間、体重も順調に増えていたので、不安は少なかった。
診察台の上では、元気に先生にじゃれるねこさんがいた。
「本当に、この子の遊び方はかわいいねぇ」
と、ほほえましげに、ねこさんのぷにゅぷにゅパンチを受け流しながら、先生はぼくに向き合った。
「虫はいなかったよ。これでひとまず、治療は終了です」
そう言って笑ってくれたのだけれど、安心する言葉はここまでだった。
「次はないからね」
グッサリとぼくの心に楔が打ちこまれた瞬間である。
「今度、肺炎になったら助からないと思う。それに、この月齢で肺炎にかかること、ここまでひどくなることは、本当に症例がほとんどないことだからね。そこまでなってしまうということは、個体に元々、そういう気があったということ。元より持病を抱えている可能性が高いということだよ。どういう持病なのかはわからないけれど、弱いことは間違いないから」
だから、こうして元気でいることは奇跡的なことだよと言われ、ぼくは大きくうなずくとともに、次を作ってはならないのだと、心の底から誓わねばならなかった。
「二週間後、一キロいったぐらいで予防接種しましょう」
ねこさんの肺炎入院、虫駆逐の治療はここでようやく、終了の時を迎えることとなった。やっと明るい日々へと足を踏み出し、喜びも大きく診察室を出て、待合室に戻るぼくたちなのだが、この後、入院費の支払いという最大の緊張の瞬間が待ち受けているのは言うまでもない。
※とにかくねこじゃらし大好きで、一人でとびついて、抱えて遊びまくってました(笑)
※寝ているひなさんのしっぽをねこじゃらしにして遊ぼうとして、よく怒られていますね、いまだに(笑)
(余談)




