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第四十一話 意外とたくさんいるじゃない?

 ねこさんの具合が悪い状態が続いたことで、獣医さんに足しげく通うこと(入院中の面会を含める)になるまでは、特別なことをしているのだと、正直なところ思っていた。なにせ、ぼくが捨てられた猫と遭遇することは大人になってから、彼が初めての経験である。だから、当然、捨てられている猫の数も少ないものと思っていたのだ。しかしである。獣医さんにはそんな人がごろごろいたわけだ。


 あっちも、こっちも『ねこさん、拾いました』なのである。


 それでも、うちのねこさんはとびきり小さかった。小さいねこさんを見た、ねこさん拾った経験者の皆さんはこぞって言う。


「私もこんな小さいころに拾ってね。すごく苦労したわぁ」


と……


 目も開いていない子だったとか、スポイトや哺乳瓶でミルクを与え続けて大きくしただとか、そういう話を行くたび、見聞きしたのだ。


 そうか。世の中、ねこを拾って育てている人、たくさん溢れているんだなぁ……ぼくのやっていることは、そんな中のひとつで、別に特別なことでもなんでもないんだなぁ。普通のことを、普通にやっているだけだったんだ。


 そんなふうに、ちょっとセンチメンタル、ちょっと感動しながら、ハットリくんに『ねこを拾っている人、すごいたくさんいるぞ』と話をした。彼が『そうかぁ。優しい人がたくさんいるんだなぁ』と、ぼくのこの気持ちを少なからず共感してくれるのではないかと期待してのことだった。がしかし、まったくそんなことにならなかった。むしろ、冷たい視線を浴びる。


「おいっ。おまえ、よく考えろ。おまえが行っているところはどこだ?」

「獣医さん」

「獣医さんに来る人はどんな人だと思っているんだ?」

「どんな人って……動物を飼っている人だろ?」

「動物を飼うってことは、そもそもどんな人だと思っているんだ? 元々、動物が好きで、その動物のために病院に来る人だぞ? そんな人たちは、世の中の何パーセントくらいだと思ってるんだ。そういう、元々、動物が大好きな、心優しい人たちが集まっている場所なら当然、ねこを拾った確率が高いに決まっているだろうが。世の中、そんな拾ってくれる人ばかりじゃないんだからな」


 目から鱗であった。


 確かに、世の中、誰も彼もが動物を飼っているわけではない。そこで調べてみたのだが、どうやら日本でのペットを飼育している割合は四割満たないらしいのだ。そしてだ。全体の四割に満たないペットを飼育している人の中で、ねこを飼っている人の割合はと言えば、三割満たないのだ。そうなると、ねこを飼育している時点で、かなりの少数派……ということであり、ねこを保護して育てる割合はさらに低いことになる。


 拾うより、血統書のついた純血を買って飼育するほうが多いかもしれないことを考えると、こねこと遭遇し、保護し、育てることは思ったよりも確率が低い。貴重な体験である――ということの裏返しでもあろう。


「そうか……そんなにありふれた話でもないのか」

「だから、ちゃんと自信持てよ。だいたい、普通、拾ってそのまま飼うなんて、まず考えないんだからな」


 ねこさんにとっても、ぼくにとっても、それはそれは大きな一歩だったのだと、ぼくはこの割合を知って痛感する。ゆえに思うのだ。


 こねこの生存率はかなり低いらしい。特に野良猫の場合は、うちのねこさんのように、発見した当初から病気を持っていたり、烏にやられて大けがをしていたり、猛暑の時期だとすれば、熱中症、脱水などで命を落としてしまったり、車に轢かれてしまったりと、大人になることなく消えてしまう命も実に多い。いぬに比べて、ねこの出産回数が多いのも、次世代を育てることが非常に難しいことが原因なのだろう。だからこそ、彼らは全力で生きる道を探すのだ。自分たちが生き残る術を懸命に――そのひとつが拾ってくれそうな人と出会うこと……なのかもしれない。


 意外とたくさんいるようでいなかった、ねこを拾った人の割合。もしも、そんな場面がまた巡ってきたら、そのとき、ぼくはどうするのだろう?


 ひとつの命を救うこと――それは獣医さんに言われたよりも、ずっと、ずっと難しく、大変なことであると知った今、また同じような子を救えるかは正直、自信が持てないのである。知ってしまったからこそ、無責任にはできないから。責任を持って育てることの意味を知ることもまた、命を救うには大切なことなのかもしれない。


(余談)違う意味でたくさんですな話です。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)





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